・構成は、第I部・ある剣闘士の手記、第II部・ローマ社会と剣闘士(第一章・剣闘士競技という見世物、第二章・生死を賭ける剣闘士、第三章・流血の見世物が終焉するとき)。

 

・第I部を読んでいて、ミヌキウスというシチリア出身のグラディエーターの「手記」ということで、本村さん=訳者、の「あとがき」があり、手記の「前半だけが残ったのは、ローマに大移動するにあたって、それまで書き記した部分が邪魔になり、誰かにそれまで書いた部分を預けることにしたのだろう。不幸にして、後半部は残っていないが、その後も前半部と合体する機会が無かったに違いない。・・中略・・彼には、帝都ローマではかなりの強敵がいたにちがいない。・・中略・・資料を偏見なく考察すれば、完成されたばかりのコロセウムはミヌキウスの死に場所でであったと「訳者」は判断しておきたい。」(pp.74-75)とある。

 

・実は、本の一番最後の全体の「あとがき」やヤマザキマリさんの「解説」まで読むと、「手記」は、本村さんが断片から「創作」した一文であることが暴露されている。まあ、人騒がせだが、「真に迫った」「手記」なので、最初にこれを読むと、剣闘士に「感情移入」してしまうので効果抜群だね・・。

 

・なんでも、この本は、最初に自家出版として出版された(2011年、山川出版)が丁度10年後に文庫化されたもので、著者は、「長年のテーマを広く読んでもらえる」と欣喜雀躍したそうだ。同じ中公文庫で「馬の世界史」も出ている。著者は馬(競馬も)が大好きで、「日曜日は競馬の日」と決めてあり、学会の下働きで日曜日に用事があっても「馬」を優先し、周囲をはらはらさせたらしい・・。読書感想:「馬の世界史」(本村凌ニ著:中公文庫) | 雑文・ザンスのブログ (ameblo.jp) でも学者だから「本業」をしっかりやっていれば問題なく、東大名誉教授だぁ。

 

・「・・剣闘士の見世物の衰退という問題提起・・中略・・、広大な地中海世界に長期にわたって君臨したローマ帝国においてのみ、公然たる殺人競技の見世物が数百年も続いたのである。それが成り立つ形成期とともに、廃れゆく終末期に思いがいたるのは当然のことではないだろうか。そうであればこそ、剣闘士という見世物がローマ社会のなかでもっていた意味を考える縁(よすが)にもたどりつけたのではないだろうか。」(p.292)。