このハナシでの OAさんとマリー・クリスティーヌさんの関係が "???" でいらっしゃる場合は、以下をご参照いただければと存じます。

「え~ 参照するのなんてメンドぉ~い」と思し召しの場合は、今回分はテキトーにお読み流しくださいませ😅

 

🌺OAさんとクリスティーヌさん:三つどもえ邂逅

(1789年7月2日)

『さらば! もろもろの古きくびきよ -4-』

 

🌺グランディエさんの、クリスティーヌさんについての述懐

(1789年7月2日 夜)

『さらば! もろもろの古きくびきよ -5-』前半

 

🌺オスカルさまとクリスティーヌさんの腹芸➡本音試合

(1789年7月12日 早朝)

『さらば! もろもろの古きくびきよ -7-』前半

 

 

なお、前回『さらば! もろもろの古きくびきよ -12-』終盤で オスカルさまが提示された《グランディエさん退避 珍作戦》の詳細説明とやら🤭は、急遽、次回以降に先延ばしとさせていただきます。


 

〔2024/4/16 21:18⁑ 意味のわかりにくい箇所がありましたため、修正させていただきました〕

 

 

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〖"心配には及ばん" って…なんだ、ソレ?〗

オスカルの意味ありげな物言いと表情にアンドレは戸惑い、超高速で思考を巡らせた。

マダム・クリスティーヌにまつわる "何か" であることは間違いない。

 

 

オスカルと共にパレ・ロワイヤルを訪れたのは、10日ほど前のことだ。

そして気づいた───

そのサロンの女主人が、かつて、生まれ育った村を出る間際に「大きくなったら、あたしをアンドレのお嫁さんにしてね!」と追いすがってきた少女だと。

気づくと同時に、あの後 幾度も感じた自責の念がまざまざと甦った。

当時8歳の彼は、既に馬車が待っていることで気が急いていて、半ば上の空で「う…うん。いいよ」と生返事をしてしまったからだ。

〖いくら子供だったとはいえ、なんと誠実さに欠ける振る舞いをしてしまったのだろう〗

 

マダム・クリスティーヌは、現国王のいとこオルレアン公の寵姫であるばかりでなく、並外れた才気で公の居城パレ・ロワイヤルのサロンを取り仕切る才媛として名高く、実際にまみえてみると、その聡明さと矜持は畏敬の念すら覚えるものであった。
であれば、おそらく、幼い頃のこととて何ひとつ忘れてはいないだろう。

ベルナール・シャトレが、彼の名を "アンドレ・グランディエ" と紹介した以上、()のひとも、眼前に現れた男が "かつてのあの少年" であることに早晩気づくことは間違いなかった。(いな)、名を聞く前に既に気づいていたに違いない。

遠い昔、おざなりな返事をしてアタフタと去ってしまった薄情なヤツに また出くわしたことで、さぞ苦い思いをしたことだろう。

その上、祖母をパレ・ロワイヤルに託すとなれば、苦い記憶を呼び起こす(たね)が、あの子…いや あの御方の視界に始終見え隠れし、心の平穏を陰らせることとなる。

そんな事態になることを避けたくて、彼は、祖母をパレ・ロワイヤルに託すことを頑ななまでに固辞したのだった。

 

〖ああ、あの時のおれの態度のせいか。"心配には及ばん" というのは〗

以上の超高速レビューの結果、合点がいった気がしたアンドレは口を開いた。

 

「確かに、マダム・クリスティーヌは一旦 "是" となさったことは、揺るぎない自負を以て敢行する御方のようだな。

身内のおれがあんなに渋ってたっていうのに、おばあちゃんを預かると決断されたらテコでも覆されそうになかった。

おれが心配する余地なんて微塵もないくらい手厚い御心遣いをしてもらえそうだな、おばあちゃんは」

 

「おいおい何を言っている? わたしが "心配には及ばん" と言ったのは……」

プッと吹き出して訂正しかけてから、オスカルはハタと思い当たった。

〖もしやおまえは気づいていないのか? マダムが自分に想いを寄せておられることに〗

マダム・クリスティーヌは心の強い女性だ。だからこそ、彼とオスカルの強靭な結び合いを知った以上、彼に秋波を送ったり愛を乞うたりなどという、感情に任せた振る舞いに及ぶ懸念はない…、オスカルは、そうほのめかしたつもりだったのだ。

 

オスカルは迷った───クリスティーヌの想いを彼に告げるべきか…否か。

クリスティーヌとしては、彼にはごく自然に振る舞ってもらいたいだろう。

とはいえ、彼女の想いを知らぬまま、彼が不用意にオスカルとの親密さ(💗)を垣間見せてしまったら…、いかに心の強い女性でも、胸ふさがる思いをするのではないだろうか……

 

 

言いかけたことばをぷっつり途切らせ、宙に視線を彷徨(さまよ)わせたオスカルを見て、自分が的外れな返答をしたことをアンドレは悟った。……が、彼はこの件を深追いしないことにした。

長い歳月を共に歩んできたことで培われた《オスカル対応》の勘である。

それよりも今は、目下の主案件である《パレ・ロワイヤル駆け込み作戦》に関して、彼には解せない点があった。

 

ワゴンの上面をコンコンとで突ついて、彼はオスカルの注意を引いた。

「オスカル、おまえの策だが……」

 

鏡に視線を戻したオスカルに、おもむろに問いかける。

「その策の詳細ってヤツはもちろんこれからじっくり聞くが、最初に尋ねたいことがある」

「うん、なんだ?」

「なぜ、マダム・クリスティーヌの手を借りようとする?

おまえは、人に頼るのを好かん性分なのに」

 

コトの核心を突かれ、オスカルは苦笑いを洩らした。

「人に頼るのを好かん…か。

まあ、そうだな。

ふふ…今にして思えば、おまえにはあたりまえのように頼り切ってきたが」

 

……と、それを聞くなり、アンドレが鏡に向かってガッとを乗り出した

「えぇ~っ!? おまえ、そんなにおれに頼ってくれてたのかっっ?」

 

相好を崩してデレつく自分の顔が面映ゆくて、オスカルはもじもじと鏡からを逸らせた。

「ばっばか! 頼りまくられて気づかんおまえのほうがどうかしているッ!

そんなことより、先を続けろっ」

 

その時一瞬、、、

赤面している自分の顔なぜかオスカルに見えて、アンドレは(しばたた)た。

〖そんな…まさか。気のせいだ〗

気を取り直すために、ワゴン下段から飲料筒を取って二つのグラスにレモン水を注ぎ足し、ひと口飲んでから彼は話を戻した。

 

「そういう、人に頼るのを良しとしないおまえが、だ。

おばあちゃんのことで既に負担をかけつつあるマダム・クリスティーヌに、さらに厄介ごとを持ち込んで手を借りようとするのはなぜだ。

マダム・クリスティーヌはたった2回お目にかかっただけの御方で、しかも、オルレアン公の御名のもと、ある種の公的立場にある貴人だ。

昔っからのこんがらがった因縁絡みで、いまや運命共同体といってもいいベルナールと駆け引きするのとはワケが違う。

パレ・ロワイヤルの活動家連中と連携を取りたいなら、ベルナールの書いた記事がバラ撒かれるのを待って、それを持って彼らの中に乗り込めば済む話だ。

今までのおまえだったら、自力で理を尽くして共同戦線の利を説き、彼らを納得させようとした筈だ。

わざわざあの御方を巻き込むことはなかっただろう」

 

 

オスカルはふうっと深く息をつき、ゆっくりと語り始めた。

「わたしは、この策を、あの御方が 心を・・命を・・燃やす契機としていただきたいのだ」

「心と命を燃やす…?

うーん……まあ、いかにもおまえらしい考え方ではあるが……」

「今朝、マダムとことばを交わすうちに わたしは感じ始めたのだ。

"この御方は、ご自身すら気づかぬままに、《足りない何か》を求め続けておられるのではないか " …と。

確かに今も、サロンに集う人々の会話に耳を傾け、持てる知識と情報をさりげなく提示し、惜しみない支援を提供することで、それなりに充実した日々を送られていることだろう。

それでも、《自分を真に生きさせる何か》を、まだ見出だせずにいらっしゃるように思えてならない」

「だから、おまえの策に一枚噛んでいただくことが、その《自分を真に生きさせる何か》ってヤツを見出す足がかりになれば…ってことか」

「そういうことだ。

マダムは今でも、有り余る才のもと、サロンで輝きを放っておられる。

だが、それだけにとどまらぬものをまだまだ内に擁しておられる…と、わたしは見た。

例えるならば───、

情報を収集し・分析する。分析結果をもとに戦略を立て・実行に移す。

そんな中で、ギリギリの崖っぷちに立ってこそ発露する、自分自身にすら未知のものが人間にはある…わたしはそう思う。

不安定に揺れ動く世情にある今だからこそ、わたしは、あの御方に ご自身の中に眠っている数多の可能性に目覚めていただきたいのだ」

 

〖今だ。言おう〗

オスカルは決めた。

 

「アンドレ、今朝わたしはマダムの中に大いなる知将の片鱗を見たぞ」

「知将? どういうことだ」

「今朝、あの御方は、ものの見事にわたしを翻弄なさった。

おまえがわたしにとってどれほど重い存在であるか》を量るために。

即ち《わたしがおまえにとってどれほど有意な存在であるか》を量るために。

おまえの身を深く思い、案じるがゆえに…な」

「何言ってんだ。それじゃまるで、あの御方がおれを……」

 

アンドレの脳裏に、あの時の少女の声が甦った。

「大きくなったら、あたしをアンドレのお嫁さんにしてね!」

 

「あ…っ……」

「ふん、やっと気づいたか。鈍感男めが」

「・・・・・・」

 

「マダムの策謀にまんまと引っかかったわたしは、他愛なく自分の思いを吐露してしまったぞ。

"なんびとたろうとも、どのような武器であろうとも、わたしたちの間に斬り込み、侵攻することはできません" とな」

 

「オスカ……ル…」

 

「おまけに、マダムの華麗な一撃(あお)れ、身の程知らずな宣言までしてしまった。

"アンドレ・グランディエに効く女の武器を持っているのは───わたしだけです" と……」

 

アンドレには、たとえどんな姿をしていようが、眼前にいるのが もうオスカルにしか見えなかった。

「ば…か……

そんなの、あったりまえだろーが。

おれには、女に見えるのはおまえだけだ」


目に見えるものだけがすべてではない。

誰よりも愛しいひとの、なにものよりも大切なひとの 息づき燃えさかる魂 が今ここにある。

心と心で、それを抱き締め合わずにいられようか。

 

「たとえ、おれの姿になろうと、おばあちゃんの姿になろうと、まかり間違ってアランの姿になろうと───」

 

もはや こらえるのは限界だった。

彼はワゴンをグイと押しやって、座っているオスカルの足許に(ひざまず)いた。

鏡越しでなく、自分の体の中にいるオスカルをまっすぐに見つめる。

「おれが愛しているのは──おまえだ

 

「うん…うん、アンド…レ」

オスカルも、自分の体の中にいるアンドレに手を差し伸ばした。

 

ふたりは無我夢中で顔を寄せ合った。

鼻梁がぶつかり、ズンッという鈍い衝突音が脳内に響いたが、いまのふたりにはそんなことを気にしている余裕はなかった。

なぜなら、今ふたりの念頭にあるのは ただひとつ───

 

 

《場面の補完映像💗》

(いずれも、愛蔵版『ベルサイユのばら』第2巻357ページより)

 

 

 

ちなみに、ここは司令官室。

きっちり施錠しておいたオスカルには先見の明があった💗

 

 

 

 

『さらば! もろもろの古きくびきよ -14-』に続きます