まずはじめにお詫びでございます💦
わたくし、もんのすごい修正・書き直し癖のある粘着気質でございまして…
これまでも、修正するたんびに更新通知が飛んでしまい、邪魔くさい通知
メールでみなさまを煩わせてしまいしたことを、平身低頭お詫び申し上げ
ます。
他の一般記事では、なるべく書き直しをしないように努めておりますが、
二次創作では、公開後に読み返して、ニュアンス・言い回し・漢字かな使い分け
などが気になってしまうと、どうしても修正せずにいられなくなってしまい
ます(/ω\)
今後は、二次創作でも極力修正のないよう心がけてまいりますが、もし何度も
更新通知メールが飛んでしまいましたら、本当に本当にご迷惑をおかけして
申し訳ございません <(__)>
2023/11/26 4:50、案の定💦修正いたしました...
2023/11/29 2:40、再び💦修正してしまいました...
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7月12日早朝、パレ・ロワイヤル。
ひと気がまばらなことが一層広さを際立たせるサロンに、珍奇な風体ながら、隠しきれぬ威容を放って中央通路を進む人影があった。
奥まったテーブルでカフェを注ごうとしていた女主人は、いち早く来訪者を視認し、テーブルに着いていた新聞記者に静かに声をかけた。
「シトワイヤン・シャトレ、あなたにお客さまですよ」
書き物をしていたベルナールは目を上げ…、思わず二度見した。
まばゆい朝陽がテーブルに射し込むが如く、その客が二人の前に立った。
「あんた誰だ。おれの知ってる変わりもんのお偉いさんにそっくりなんだが」
ベルナールの呆れ声に、その人物はフンと鼻を鳴らした。
「変わり者に見られることには慣れている。お偉いさん呼ばわりされるのは好かんがな」
「おはようございます、シトワイエンヌ。本日は、ようこそパレ・ロワイヤルへ。
どうぞお掛けくださいませ。朝駆けの後は、カフェより冷たいお飲み物のほうがよろしいでしょうかしら?」
茶目っ気の利いた女主人の挨拶に、新客は照れくさそうに口元をほころばせて頭を下げた。
「おはようございます、マダム・クリスティーヌ。お心遣い恐れ入ります。
では、わたしもカフェをいただいてよろしいでしょうか」
頭を上げながら、いつものように、肩の前に垂れかかる髪を払おうとして…その手が空を切った。
ひとり失笑し、ダボダボに隙間の開いた襟元の後ろに手を突っ込み、古びたリボンで丁寧に括ってもらった髪を、無造作に上着の外に引っ張り出しながら着席する。
「はーあ、ド平民っぽい変装としては、ある意味、秀逸なのかもしれんがなあ。
ソレどこで調達してきたんだよ。なんつーか…マトモなのは丈だけ、襟はガバガバ、肩は下がりまくりな、その絶妙に不格好な古着をよお」
新客が口を開く前に、女主人がさらりと言い当てた。
「グランディエさまがお若いころにお召しになっていらしたものなのでしょう?」
カフェに手を伸ばしたオスカルの眉がわずかにピクと動き、一瞬手が止まった。
女主人にチラと走らせた視線が、名状しがたい光を放つ。
「ほお。鋭くていらっしゃる。なぜおわかりに?」
「あら、それ以外に考えられませんでしょう?」
にこやかに答え、目を伏せてカフェを口元に運ぶ女主人。
眼前で交わされる、心なし緊張をはらんだやりとりに新聞記者のアンテナがビリビリ感応した。…が、同時に、男の勘が、"ここから先は部外者侵入禁止" の警鐘を鳴らし、
ベルナールは、この会話に終止符を打つ必要を感じた。
「そ…そっか。モノ持ちよさそうなあのバアサンのこった、着られなくなった古着でも捨てさせずに大事にしまい込んでそうだもんな。は、はは……💦」
(ベルナールの思惑通り?) マロン・グラッセの名を出されて、オスカルはスッと表情を引き締め、彼に向き直った。
「ベルナール、単刀直入に言う。急ですまないが、明日7月13日決行で頼む。
できれば、夜を待たず……そうだな、正午あたりが望ましい」
ベルナールは目を剥いて腰を浮かせた。
「はあ? 明日ぁ!? しかも真っ昼間だとぉっ!?」
「無理を言っていることは百も承知だ。
だが、おまえのほうがよく知っているだろうが、この情勢だ。
軍も、急な動きを余儀なくされている」
オスカルは懐中から封筒を取り出した。
「わたしの部隊に出た、明日の命令の内容をここに記してある」
封筒を凝視するベルナール。
「おまえさんの隊……って…。
ベルサイユ警護の…部隊に……いったいどんな命令が…」
顔をこわばらせて封筒に手を伸ばす。
……と。彼が掴む寸前に、オスカルがスイと封筒を上方に逸らせた。
「約束してもらいたい。明日の正午までは記事にして公けにしないと」
口元を引き結び、今度は暫しオスカルを凝視したベルナールは、苦笑いしながら封筒をヒョイとオスカルの手から抜き取り、内ポケットにねじ込んだ。
「しょーがねえな。わかったわかった、記事は用意しとくが明日の昼までは外には漏らさん。…で、号外を出す指示をしたら、すぐにバアサンを連れ出しに向かう」
ベルナールのことばを受けて、クリスティーヌも口を添える。
「ご安心くださいませ、ジャルジェさま。ここのお部屋は既に準備してございます。
シトワイヤン・シャトレ。どの入口から入ってどのお部屋にお連れいただくかは、先日申し上げた通りです。よろしいですね?」
無言で頷くベルナールとクリスティーヌに向かって、オスカルは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、マダム。本当に幾重にも感謝する、ベルナール」
「はん。感謝、ねぇ…」
ベルナールはどさっと腰を下ろし、カフェを一気に飲み干した。
「実を言うとな。この件、ロザリーがノリノリで張り切って、"決行日" を心待ちにしてるんだ。さっきは、おまえさんが前置き抜きでいきなり "明日" だなんて言うから虚を突かれちまったが、こっちもとっくに段取り済みだ」
「ロザリーが……」
感慨深げにつぶやくオスカルにかまわず、ベルナールはカップを置いて立ち上がった。
「そんなわけで、ロザリーとの最後の詰めと記事の用意のために、おれは急いで帰る」
「あ…。す…すまない、おまえたちに負担をかけて……」
慌てて椅子から立ったオスカルがそう言った時には、既に彼は遠ざかりつつあった。
振り返ったベルナールはオスカルとクリスティーヌに向かって声を弾ませた。
「なに辛気臭いこと言ってんだ! おれも久しぶりに腕が鳴るってもんだ。
明日の晩、ここでみんなして祝杯をあげるのを楽しみにしてろよっ!!」
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「わたくしも祝杯のお仲間に入れていただけるようで嬉しゅうございますわ」
クリスティーヌに声をかけられ、立ち尽くしていたオスカルは我に返った。
「何を仰せられます。今回のことはマダムのご厚意とベルナールの力があってこそ、成り立っております。我々はただそれに甘えることしかできずお恥ずかしい限りです」
「シトワイヤン・シャトレ…。ここに来られる方々の中でも、群を抜いて行動力と決断力に長けた御方です。発想も柔軟でいらして。そんなあのかたのおかげで……」
クリスティーヌの瞳が遠い日々を追うように虚空に向けて煌めいた。
「わたくしは、こんなにもすばらしい巡り合いに恵まれました」
クリスティーヌをじっと見つめていたオスカルは、迷いに迷った挙句、思い切って口を開いた。やはり尋ねずにはいられなかった。
「すばらしい巡り合い……。アンドレとの、ですか…?」
クリスティーヌの肩がビクッと震えた。
唇を噛んで せめぎ合う思いと暫し闘い…、ふっと表情を緩めた彼女は、いたずらっぽくオスカルを見上げた。
「それは……恋する者の勘、ですかしら?」
落ち着きを保とうと自分を励ましつつも、膝がわずかに震えるのを感じ、オスカルは
さりげなく椅子に腰をおろした。
「ふ…ふ。なんとも驚いたことに、そのようですね。
わたしにそのような勘が働く日が来ようとは、思いもよりませんでしたが」
クリスティーヌは、二人のカップにカフェを注ぎ足しながら明るく問いかけた。
「おばあさまがここにおられる間に、わたくしがグランディエさまを篭絡するのは可能でしょうかしら?」
クリスティーヌの大胆な発言にうろたえてカップの取っ手をぎゅっと握り締めた時、ふと上着の袖口がオスカルの目に留まった。
アンドレがこの街着を着ていたのは、16から17にかけての頃だ。
あの頃……。休日にふたりでパリをぶらついたこと、ばあやの厳禁令を破って露店で買い食いをしたこと、河畔で並んで寝転んだこと、些細な事でケンカになってこの街着の胸倉を掴んだこと、さまざまな情景がオスカルの胸を満たしていく。
どんな思い出の中にも彼がいた。
オスカルは満ち足りた笑みを湛えて答えた。
「なんびとたろうとも、どのような武器であろうとも、わたしたちの間に斬り込み、侵攻することはできません」
「まあ。なんとも軍人のかたらしいおっしゃりようですこと。
それでも、女の武器を侮るのは禁物でしてよ」
クリスティーヌはにっこり微笑んでもう一押ししてみた。
「確かに。女の武器と言う点では、マダムはもとより、どのような女性の足元にも及ばぬわたしではあります。ですが…」
オスカルは一片のためらいもなく、類い稀なる美女に堂々と宣言した。
「第三者からはどんなに微力に見えようとも、アンドレ・グランディエに効く女の武器を持っているのは───わたしだけです」
クリスティーヌは、泥味のする最高級カフェとともに、もう手の届かぬ面影を、胸の奥底へとコクッと飲み下した。
「はい、ごちそうさま」
二人の女性を清々しい空気が包む。
「潔く白旗を掲げさせていただきますわ。無謀な挑戦でしたわね。
さあ、お急ぎなさいませ。かえがえのない御方が、それはそれは心配なさってお待ちになっていらっしゃるのでしょう?」
オスカルは懐中時計を取り出した。
「今日駆ってきた彼の秘蔵っ子の俊足なら、まだ充分に時間はあります」
そう言ってしまってから、まんまと誘導尋問にかかったこと気づき、コホンと要らぬ咳ばらいをして立ち上がる。
「それでは、本日はこれで失礼するとしましょう」
「あ、お待ちくださいませ」
数歩進んだオスカルをクリスティーヌが呼び止めた。
「いやがおうにも人目を引いてしまうその美しい御髪を無双の鎧の中にしっかり包んでいらっしゃらならなくては」
大きく隙間の開いた襟に秘めやかにそっと手を触れ、古びたリボンで括られた輝く髪を彼の上着の中に収める。
「ありがとうございます、マダム。では…明晩また、ここで」
オスカルを見送るクリスティーヌは、朝の陽射しの中へと歩んでいくその後ろ姿に、なぜだか、銃弾飛び交う戦場で昂然と面をあげて咲き誇る大輪のばらの幻影を見た気がした。
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ジャルジェ家の正門。
この日の朝イチ当番ポルティエが門衛小屋の机につき、日誌に「7月12日」と書き込んだ時だった。邸の側から、すごい速さで駆けてくる足音が聞こえ、瞬く間に、前面の大きな見張り窓に長身の男が現れた。
アンドレが窓の上縁に手をかけて中を覗き込む。
「おはよう、ポルティエ! オスカルは帰ってきたか?」
「おう! おはよっ、アンドレ」
ポルティエは挨拶を返して首をかしげた。
「いや。おれは今ここに入ったばっかりで、今朝はまだお見かけしてないな。
オスカルさまはもうお出かけになってるのか?」
「あ…うん。いい天気になりそうだから少しばかり朝駆けをしてくる、って言い出してさ。馬の支度をしろって、おれも朝早くに叩き起こされちまった」
シレッと言うアンドレに特段の疑いも持たず、ポルティエは呑気に言う。
「へーぇ。大変だなあ、おまえ…いつもいつも」
〖そうは言っても、オスカルさまとアツアツなおまえにはナンってコトないんだろうけどさ〗なぁんてツッコミは口に出さないでおく。
「そういえばさあ、アンドレ。このまえシュクレが言ってたんだけど…」
ポルティエが雑談を始めようとした時、アンドレがハッと背を伸ばした。
「帰ってきた!」
「は? え? オスカルさまがか? なんでわかるんだ…?」
「ごめん!! 話はあとでまた!」
ポルティエが門衛小屋を出た時には、アンドレは既に門を開けて道を駆け出しており、ポルティエが門から顔を出した時には、遠くから、「アンドレ!」「オスカルっ」と呼び交わす、なんだか安堵の叫びのような声が聞こえ、アンドレと馬が超高速で距離を詰めつつあった。
「はああ、すげえなアイツ…」とひとりごちて門内に戻ろうとしたものの、好奇心に負けて門の影から覗き見を続けると、下馬しようとしたオスカルと引綱を持ったアンドレが何やら言い合っている。
何を言っているのか聞きたいのはヤマヤマだが、今の距離では聞こえないので、ポルティエは仕方なくブラブラと門内に戻った。
━━ アンドレの秘蔵っ子コンフィアンスだけが聞いていたふたりの会話 ━━
「まだ降りるな」
「なぜだ」
「今降りられたら、ここで抱きしめてしまう」
コンフィアンスは、"ハイハイ、そーですか" とばかりにブルルッと鼻を鳴らした。
「お帰りなさいませ」
意外に早く門に辿り着いたオスカルに、ポルティエは丁重に頭を下げた。
頭を上げた時、主人のヘンテコな上着と束ね髪に気づいたが、〖ま、昨今は物騒だからワザと貴族っぽくない目立たない恰好をしてらっしゃるのだろう〗と、ナカナカいい推測をして納得した。
「おはよう、ポルティエ。朝から門衛の務めをありがとう」
「じゃあな、ポルティエ。いい一日を!」
快活に言って通り過ぎていくふたりの後ろ姿を見送っていると、またしても、オスカルが馬上から体を傾け、アンドレがそれを見上げて何か言っている。
残念ながら今度も会話の中身は聞こえなかったが、キラキラとまわりに光を振り撒くふたりの姿を朝から見ることができたポルティエは、鼻歌を口ずさみながら大きくノビをした。
「さぁってと。今日もがんばるぞ!」
━━ コンフィアンスだけが聞いていた、今度のふたりの会話 ━━
「兵舎に着いたらすぐ将校たちのところをまわって招集を伝えるから、司令官室に行くのが少し遅れるぞ」
「わかっている。頼む」
イロケも素っ気もない業務連絡だったので、我関せずと黙々と足を運ぶコンフィアンスなのであった。
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ジャルジェ家の厩舎。
コンフィアンスをつなぎ終えたアンドレが鞍を外すためにくるりと背を向けると、抱擁を待ち焦がれて凭れかかろうとしていたオスカルはひょろっとバランスを崩し、ドンっと顔から彼の背中にぶつかってしまった。
「わっ! なんだ!? どうした、オスカル!!」
反射的に振り返ろうとした彼に、オスカルは後ろからぎゅっと抱きつき、頬をその背にすり寄せた。
「おまえの背中……好きだ。硬くてゆるぎなくて」
彼の鼓動がドクンっと跳ね上がる。
オスカルの心臓も早鐘を打っているのが背中にじかに伝わってくる。
「ばっばか、何言ってんだ」
自称 "微力" な、無自覚の "女の武器" に、早や、半落ち状態のアンドレ。
こらえきれずに、オスカルの手首をつかんでクイと引き、あっという間に腕の中に閉じ込める。
「おれはこっちのほうがずっといい」
早朝に自分が結んでやった古びたリボンをシュルッとほどき、豊かな髪に指をくぐらせてオスカルの背に広げる。
「おまえの髪……好きだ。柔らかくておれの手にしっくり馴染んで」
波打つブロンドの感触を心ゆくまで堪能してから、自分が貸したブカブカの古い上着の内側に両腕を差し入れ、オスカルのしなやかな躰を仰け反らせて熱っぽく囁く。
「おまえの唇……好きだ。艶めかしくておれの唇にしっとり絡みついてきて」
腕の中により深く抱き込んで、のしかかるようにオスカルの熱を帯びた唇を覆う。
どうやら、オスカルの "女の武器" は、見る間に急成長を遂げつつあるようだ。
もはや場所柄も忘れて(ここは厩舎である)、お互いに完落ち状態のふたり...
コンフィアンスをはじめ厩舎内の馬たちは「もぉ~お!😓」と鳴ける牛をうらやましく思った。……かどうかは定かではない。
朝から、馬たちを呆れさせるほど熱いひと時を過ごすふたりを、さらに熱い激動の一日が待っていた。
『さらば! もろもろの古きくびきよ -8-』に続きます