前話【ブリザード-7】



それは僕が本当に幼い頃。

まだ養子に出される前のこと。

1年半におよぶ長い仕事から父親が家に帰って来た日。

「ねーねー!なんのしごとをしてきたの!」

と僕が聞くと、父は自慢げにそして、満足そうに

「王様の住むお城のシャンデリアや、ワイングラス、色んなガラスで出来たものを作ってきたんだよ。」

そう応えた。


最初の父親は本当に腕の良いガラス職人であった。
なんでも魔法のように作り上げて行く様を見て、自身も将来はそうありたいと強く、強く願った。


王都に来て最初はガラス職人を始めようと思ったが、
資金や窯の問題などがあり、それは叶わなかったのだけど。


「ねーねー!」

小さな僕は父親に質問を続けた。

「どうすれば父さんみたいな、すごい職人さんになれるの!」

父は僕の頭を優しく撫でながら、こう言った。

「俺はいつも自分が作った物の向こう側に、それを使う人の幸せを見てんだ。
そのシャンデリアの下を、ステンドグラスを見上げる人を、グラスを傾けるその手を。
幸せの隣にあるものが、手抜きであっちゃいけねー。そういうこった。」



幸せの隣にあっても色褪せぬ、損なわせぬ、引き立たせる。
そういうものを、僕も作ったよ。

ほめて、くれるだろうか。

よくやったと、言ってくれるだろうか。


思い出とともに、
その夜、
僕は声を震わせて、泣いた。

僕が21歳の、真夏の夜のことである。










前話【ブリザード-6】
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その日見た景色を、
僕は生涯、
忘れることは、出来ないだろう。



彼女の家は街の裏路地にあり、お祭りの喧騒とは遠い場所にあった。

にもかかわらず、彼女の家の前には僕が今まで見たこともない、
まるでとてつもなく大きなカボチャの中身をくり抜いて作ったような馬車が止まっていた。

彼女が扉を開けて、出てくる。

泥や、灰にまみれた格好ではない。

白く、透き通るような、見るものの目を否応なしに奪う、この世のものとは思えぬ、輝くドレスを身に纏っていた。

いつもボサボサの髪も、丁寧にしつらえられていて、ドレスに引けを取らぬティアラが静かに佇んでいた。

その全てが彼女を祝福し、彼女もその全てに応えていて、

ただただ、美しかった。



裸足の彼女の足元には、見知らぬ老婆がしゃがみこんでいた。

だが、その手には、よく見知ったものが、あった。


僕の作ったガラスの靴である。


彼女は左足からそっとその靴に足を入れる。

ぴったりだ。当たり前だ。
その靴が合う人間はこの世界の中で、
彼女だけなのだから。

そう作ったのだから。



次の瞬間、
彼女がこちらを振り向くような気がして、僕はとっさに路地に身を隠した。

なぜ隠れたのだ!
堂々としていれば良いだろう。

「その靴を作ったのは僕だよ。君を迎えに来たんだ。これからの人生を僕と一緒に生きてください。」

そんなこと、言えるはずがない。

きっとこれから彼女は、王城で行われる夜の舞踏会に参加するだろう。
あの美しさだ。
全ての人の目を奪うだろう。
誰一人として彼女を放っておくものか。
たとえそれが、一国の王子であったにせよ。

数分が経ち、馬のいななく音がして、カボチャの馬車が走り出したあとに、
僕は路地から身を出した。

そこはいつもと変わらぬ裏路地であり、祭りの響きだけが名残惜しそうに駆け抜けて行くだけだった。

手を伸ばすことすら出来なかった未来に、
僕は別れを告げなければならなかった。

僕が21歳の、真夏の日のことである。











前話【ブリザード-5】



王都では夏に1日、街をあげての盛大なお祭りが開かれる。

昼間は街で庶民が、夜には王城で貴族や王族たちが一晩中騒ぎ明かすめでたい日である。
なぜそのような習わしが生まれたのかは定かではないが、まぁ、何かしらめでたいよだろう。

ところが、その日に合わせて新しいクツの発注やら直しの依頼が僕のところには殺到した。
その数は、さすがに腕の良い僕も1人ではさばききれない量の注文となってしまい、とうとう当日の夕方まで仕事に追われる羽目になってしまった。

だけど、僕は密やかにプロポーズの日をこの日と決めていた。
何だか良くは分からないけど、めでたい日だ。めでたいことがあっても良いだろう。

その日の彼女の予定も僕は抜かりなく聞いていた。
彼女も今日は夕方近くまで仕事があるらしかったので、夜に彼女の家に迎えに行き、お祭りを楽しみ、そして告白をするという段取りだ。

この日に合わせて商工会の、今度は呉服屋の友人に着物は仕立ててもらっている。奮発した黒いタキシードは何だか僕には不釣り合いな気がしたが、馬子にも衣装だ。格好良く、決めてやろうじゃないか。

そうして衣装を身に付けさぁ、行こうとしている時に、あの自称魔女が勢い良く飛び込んできた。

「アンタ!あの子にあうサイズの靴はないか!」

何のことかさっぱり分からない。

「あの、あの子って?」

「エラだよ!エラ!あのみすぼらしい格好をしている子のことさ!」

彼女のことかと得心行き、僕はとっておきの靴を出した。

今思えば、僕はその自信作を誰かに見せたかったのかもしれない。

「あるさ。これだよ。なんたってこれは僕が…」

「貸しな!」

言うが早いか魔女は目にも止まらぬ速さで僕の手から靴を奪うとハヤテの様に店を飛び出していった。

数瞬、何が起こったのか分からず呆けたあとに、

「あ、ちょっ、ちょっと待って!それは!」

僕もあわをくって飛び出した。

それは僕のプロポーズの時に渡す、大事なものだったからだ。