「こんにちは」

夕暮れを迎えた原っぱ。
郵便屋さんがやって来た。
明日の声を持って。

「いつも御苦労様です。」
「お仕事ですから。どうぞ。」

いつも微笑みを絶やさないその郵便屋さんは、そう言って僕に明日の声をさしだした。

「ありがとうございます。」

原っぱには小さな風が吹き込んで、太陽の時間の終わりを教えてくれる。

「疑問なんですが」
「なんでしょうか?」
「なぜいつも、明日の声、なのでしょうか?今日の声、でも良いと思うのですが。」

僕がなんとはなしに疑問を口にすると、郵便屋さんはふふふと笑った。

「今日はもう終わってしまいますよ。」

それもそうか、と僕はひとりごちた。
空はみるみると色を変えてゆく。
駆け足で家路を急ぐ小学生のように。

「それでは、また明日。」
「はい、お願いします。」

そう言って郵便屋さんは自転車に乗り帰ってゆく。

それを見送ると、僕は明日の声をみる。
それは新聞のように紙がいくつも重なって綺麗に折りたたまれている。
隅から隅まで目を通して明日の声をきく。

一通り目をとおして顔をあげて、
(あぁ、またやってしまった。)
と心の中でつぶやく。

もう夕暮れだ。今日が終わってしまう。
いつもそんなタイミングで、キコキコと自転車をこぐ音が聞こえる。

「こんにちは」




太陽に向かう軌道を。
修正して月面へ移行。


火に焼かれる様を人々はただ、見ていた。
それは知っていた結末だったからだ。


ロウで編む偽物の希望は。
溶け出して落ちて行った飛行。


決して届きはしないと、嗤う者たち。
それはその通りで。
それは全く、その通りの結末で。


彼は失敗の記号へ。
笑われる愚者の最期。


失われてしまった。
失われてしまった。
一つの欠片さえ残すことなく。

なのに、
なぜ。


憧れる太陽軌道を。
目を逸らす大望の鼓動が。


未だに後を絶たない。
ロウで編む、
その翼が、
太陽に届くのだと信じる者たちが。

喝采など求めてやいない。
名声など、はなから捨ておいて。
届くか?届かないか?
そう聞かれたら、
およそ届かないかことは、ちゃんと知っている。

それでも彼は最後に、
笑っていた気がするから。


太陽に向う軌道を
ただ信じ、そのままの軌道で。




左目の前を
一滴の雨粒が降り、落ちる。



その一滴は、
いつか遠い過去か
ずっと遠い未来か
誰かの涙だったかもしれない。
あるいは血液になるのかも。
嬉しさか悲しさか
喜びか悔しさか
殺意の代償か
優しさの象徴か
数え切れない
目に見えないものを
背負ったり
降ろしたり


そうやって出来た一粒が、僕の左目の前を降り、落ちた。



巡る。
雨も風も
昼も夜も
命も、魂も

雲になり、樹木になり、トタン屋根になり、なんてことのない雨になる。
ぼくもきみもかれもかのじょもあのひとも
かえるだっておけらだってあめんぼだって


今は過ぎた、左目の前を降り、落ちたもののことを思う。


いつか、誰かの左目の前を降り、落ちるぼくのことを思う。