海が生まれた日のことを覚えている。
乾いている自覚などない大地の一片に、それはポツリと落ちた。
化学反応の必然だったか。
あるいは、神様みたいなものの贈り物だったか。
大地は受け入れ、そらは歓喜した。
海が生まれた日のことを覚えている。
降り注ぐものが、空気をズタズタに切り裂いていった。
冷えた手と求める手が永遠に触れ合えぬ場所へと遠ざかってゆく。
大地は嗚咽を隠そうともせず、空はそれをただ眺めているしかなかった。
海が生まれた日のことを覚えている。
眠りから覚めた太陽は、あまりの眩しさに目をしかめた。
それが自らの光だと気づくのに、随分とかかった。
頬を朱く染めた陽の記憶は、今も色が褪せることなく
海が生まれた日のことを覚えている。
煌々と輝く海原に、累々の死が絶えることなく降り積もってゆく。
声をあげるものも、それを聴くものもなく、うるさすぎる静。
誰も見ることの叶わぬ絵が、白と黒は同じ色だと
海が生まれた日のことを覚えている。
特別な優しさをもって編まれた、着るもののないセーター。
届ける場所のないラブソングの熱狂。
始まりのない物語のエンディング。
海が生まれた日のこと。