5月30日(ブルームバーグ):
現代のアドルフ・ヒトラーが大阪市を率いるとは誰が予想していただろうか。
270万人の大阪市民の大半が想像もしていなかったことは確実だ。
同市市長の橋下徹氏に対する支持率は野田佳彦首相の2倍以上だ。
大阪市民は42歳の橋下氏による機能不全に陥った日本政府に対する聖戦を支持している。
日本の保守層は警戒心を隠さず、同氏を欧州で大虐殺を繰り広げたファシストになぞらえている。
変化の激しい世界環境に直面するこの国をめぐって、希薄なこの社会に身を置く日本人が橋下氏に注目するという事実は多くのことを物語っている。
昨年3月11日の東日本大震災後、国民の改革への渇望は頂点に達した。
震災前でさえ、政府の方向性が定まらないことを強く感じていた国民だ。
米国で広がった保守派の草の根運動、茶会党のような原動力が橋下氏の
人気を支えている。
説明責任を一段と重視し、地方分権や新たな発想を求める橋下氏の姿勢が
体制側への脅威となるのはこの時期においてはもっともなことだ。
急速に支持を集める橋下氏はしばしば「将来の首相」としてメディアで取り上げられる。
自治体のリーダーとしては国政の指導者に対する手厳しい批判で知られる東京都の石原慎太郎知事の人気も根強いが、石原氏はすでに79歳で、若い橋下氏はテレビ映りの良さが際立つ。
だが率直に言って、橋下氏の政策には不明確で気味が悪いものもある。
同氏率いる「大阪維新の会」の政治塾はナショナリズムが垣間見える。
君が代の起立斉唱を拒否した公立校の教員に対する処分には過去の軍国主義を思い起こさせるとの懸念も寄せられており、右翼的な愚行だ。
入れ墨をしている大阪市職員の調査はまさに不気味だ。
確かに暴力団との関係を連想させる入れ墨だが、2012年の今、職員の誰かが背中にミッキーマウスの彫り物をしていたからといってそれに対処するのが市役所の仕事だろうか。
原発事故
日本人が変化を求める時代において、橋下氏は一服の清涼剤と見なされている。
原子力発電所への依存に反対する同氏の姿勢は、国政に対する怒りをあらわにしたものだ。
橋下氏は人々の意思を尊重するという、選挙で選ばれたリーダーがすべきことをしているにすぎない。
チェルノブイリ級の原発事故の再発阻止のため、日本国民の大半はもはや電力会社も官僚機構も信用していない。
野田首相が昨年9月の就任以来してきたことと言えば、福島第一原発事故後でさえ背後で糸を操り続けているのは原子力業界だということを有権者に思い起こさせることだけだ。
橋下氏は人々のために闘っており、企業のために闘っているのではない。
これが橋下氏とその仲間がいかに危険かということを東京にいる既得権者が感じる理由だ。
それに日本が橋下氏のような人材をもっと必要としている訳を説明もしている。
橋下氏の説明責任と競争を重視する呼び掛けは特に歓迎すべきことだ。
大阪維新の会が目指す首相公選制は、実現すれば真の革命となるだろう。
決定を早め、あらゆる改革を実質的に妨げている手詰まりを打破するために国会を一院制にするとの提案もしている。
権力基盤
こうした人気の負の側面は、カリスマ性のある大衆迎合型のリーダーが力を持ち過ぎて、専制的にすらなってしまう恐れがあることだ。
橋下氏に批判的な向きはファシズムに引っ掛けて「ハシズム」という造語まで生み出した。
だが非常に多くのチェック・アンド・バランスが政府の制度に組み込まれてしまっているこの国では、こうしたことは小さなリスクだ。
体制側が本当に懸念しているのは、注意深く築き上げた権力基盤の中枢から外されてしまうな改革だ。
これこそが肝心な点だ。
繁栄し安全で政治的に安定した国が日本だが、やや安定し過ぎてしまって、変化を嫌うのかもしれない。
公的債務 残高は国内総生産(GDP)の倍以上に膨らみ、高齢化が進行している上に、世界における競争力も低下している。
日本に今できることは、9カ月ごとに新しい首相を選び、増税案を練ることだけのようにも思える。
格付け会社フィッチ・レーティングスは先週、日本のソブリン債格付けを引き下げた際、政府の財政戦略は「悠長」だと断じた。
好きか嫌いかは別にして、米国の茶会党は予期せぬやり方で米政府の現状維持に挑んだ。
中東と北アフリカにショックを与えただけでなく、中国をはじめとする世界中の権力体制に脅威を感じさせたアラブの春も同様だ。
新世代のリーダーが前に進み、改革をやり遂げることが必要だと久しく言われ続けている日本。
それを具現化しようとする橋下氏に体制側は苦しめられている。
ヒトラー呼ばわりまでされていることは、政界のこの新参者が何か大きなことに気付いていることを示唆している。
(ウィリアム・ペセック)
(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。
このコラムの内容は同氏自身の見解です)
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更新日時: 2012/05/30 11:29 JST