ふんわりシフォン -363ページ目

月が満ちるまで 家族 4

電車で2駅、駅から自転車15分。

家から自転車で通えるのは、私立の女子高しかなくて…しかもかなりのお嬢様学校だった。

冗談で

「じゃ、働こうか」

そう言ったら、物凄い形相で睨まれた。

おばあちゃんは、電話をつかむと宣言した。

「あたしの目の黒いうちは、かわいい孫に苦労なんてさせるもんですか。風花が悪いんじゃない。バカ息子に電話して授業料をぶん取ってやるから」

暗記している番号を素早く押していく。
迷ったりしなかった。


コール音を聞きながら、さりげなく目頭を押さえた。

ありがたかった。



救われている。



いつも、いつも。



この人がおばあちゃんでよかった。



そっと腕をこする。おばあちゃんがいなかったら、わたしは生きてこれなかった。



今日はすごく会いたかった。どんなことがあったが聞いて欲しかった。



家につくと、明かりが灯っていた。

なんだか嬉しくて慌てて自転車を止めて、玄関に急ぐ。

平屋の小さな家。部屋だって二部屋しかない。
小さくて、こじんまりとしているから居心地がいい。
ドアを開けると、温かい湯気の匂いがした。



「ただいまぁ」

台所からひょこっと顔をだす。
なにかたくらんでいる笑み。

「お帰り。夕飯、何だかわかる」



嬉しそうな笑顔につられる。わかっていても、惚けてみたくなる。

「うーん…煮物かな」

「ブー はずれ。ほらっ、ほかにない?」

おばあちゃんは、体をゆすって期待している。

つい意地悪がしたくて、くんくん匂いをかいでみる。
「ねぇ、焦げないの、あんこ」

ぱっと笑顔を浮かべ

「わかってるじゃない」

そう言い置いて、台所に消える。

いそいそと靴を脱ぎ、荷物を置いて、着替える。

簡単に髪を結わえてから、台所へいく。



換気扇を回していても、あたたかな湯気に包まれていた。

蒸し器と大振りな鍋がガス台を占領している。

テーブルにはすり鉢。

見当をつけてのぞくと、蓬をすり潰してあった。



今日は、草餅らしい。



「風花、手ぇ洗って。もうすぐふけるから」
(方言?蒸しあがるという意味です)



「うん、いいよ。あんこはどう。小豆つぶしたいな」

「まだ、水っぽいかねぇ。風花、味見する」

流しで手を洗うと、しゃもじの先に小豆をすくってくれる。

ふうふう息をふきかけてから、手の平に乗せてもらう。

まだ熱い。

慌ててほお張ると、小豆の皮がほろっと崩れる。甘味はちょうどいい。

とはいえ、年寄りの味付けだ。普通より、うんと甘い。これに慣れたわたしには、お店のあんこは物足りない。

「うん、うん。いつもとおんなじ美味しいよ」

久しぶりの手作り。
うきうきしてくる。

目を細めて笑う、おばあちゃん。



「お父さんには、ないしょね」

誰かにないしょにしたくなる。
あんまり、幸せで。

言ってしまえば、幻のように消えてしまいそうで。


お父さんなんて、一年に何度も会わないのに。




それでも、いま二人で夕飯に草餅を食べるのはないしょだ。

二人だけの秘密だから。

月が満ちるまで 家族 3

未也に男がいたなんてショックだ。
こいつ、家では女らしくなくてガサツなくせに…

「海斗もさ、見た目はいいんだからガンバんなよ」

「呼び捨てにするなよ、お兄ちゃんドキドキとか言えないのかよ」

「キャラ違うし。それに海斗ってカッコイイじゃない」

「…わかんねぇ。こいつのドコがよくて付き合ってるんだか」

未也の目がすい、と細くなる。

「あたしはバカだから、自分にショージキだからね。好きになったらコクるよ」


ああ、そうだ。
それが未也のいい所だった。自分をごまかしたりしないし、まっすぐだ。

「ん~お悩みなら、相談乗るけど。」

軽く言ってるけど、気持ちはわかった。

「エンリョしとく。なに奢らされるかわかんねぇからな」

自然に笑みがでた。
未也の顔にも笑顔がうく。

「海斗もさ、バカんなればいいよ。恋愛なんてバカんなったほうがいいって」

まわりを気にせず、自分達の世界に入りこむのはどうかと思うけど、それはそれでシアワセなんだろう。




好きな人と。


一緒の時間や感情を共有する。


好きだとお互いを想いあい、やさしくできたら…


それは、とてもシアワセだ。



胸が暖かくなる。



幸せにしたいなんて思いあがりだ。彼女がなんに幸せを感じるか知らない。




だから、二人で幸せになれたらいい。





これから、探していければいい。





少しづつでも

君に

君は自分を傷つけるから


君の指を使わせないね


こうして 繋いでいて


苦しくて


辛くて


君が掻きむしったりしないように


むやみに叩いたりしないように






君が噛む唇が


切れたりしないように


キスしよう


自分を責める


悲しい言葉がもれないように


唇をふさいでいよう







君はそこにいる


いつも思っているよ





君はとても純粋で


とても繊細


隠すために強がるけれど


わたしには隠さなくていいから



わたしは君のそばにいるから



風になってそばにいる



だから


忘れないで


君を心配している人間がいることを




忘れないで…


君を大切に思っていることを