ふんわりシフォン -289ページ目

月が満ちるまで ともしび 9

たくさんのお皿を前にして。

おにぎりでお腹はいっぱいになっていたけれど、そのまま片付けてもらうのも悪くて。

せっかく出してくれたのだから、少しづつ味見をしていく。




しゃきしゃきした、ほうれん草には鰹節がのっていた。

きんぴらは甘辛くて味がしっかりしていた。

里芋の煮付けは、ほくほくして家では食べたことがなかった。



地味な料理ばかりかもしれないけれど、どれもきちんと、ほうれん草ならほうれん草、ごぼうならごぼうの味がした。

味付けに紛れてしまわない野菜の強さ、本当の野菜の味がした。




「ごちそうさま。みんな美味しかったよ」

新しくお茶を煎れてくれながら、みかんとお菓子もすすめてきた。

「風花も精一杯手伝いをしたからね、よかったらつまんで。あたしは、みかんをもらうよ」

そうだ。

ふうか。そんな名前だった。法事の会場でおばあちゃんから離れるのが怖いようで、ずうっと後ろについて歩いていた。

おとなしくて、話さない人形のような子だった。

ぱっちりした目も、あまり表情をださない顔も人形らしかった。

ただ、ここは自分の家だからこの前よりくつろいだ様子でみかんの皮をむいていた。



お腹いっぱいなんだよね…みかん一個も苦しい。

「すごく甘いよ。お店のおじさんが、店で一番甘いのを教えてくれたんだよ」

風花の手の平にのっているのは、こぶりなみかんだった。

「これくらいのほうが甘いみかんなんだって。ちょっと食べる」

ほんの三つくらいの房を僕にくれた。

「ありがとう。一個食べるのはきついなって思ってたんだ」

なんのきなしに口にいれてびっくりした。本当に甘かった。今までで、一番甘いみかんだった。

「すごい!本当に甘いね」

「ね、本当でしょ」

そう言うとにっこり笑った。





…あ、笑った。





それだけで、なんだか嬉しくなった。

風花の笑顔が、僕まで笑顔にしてくれる。






僕は風花に恋をした。

一目惚れでなく…

こういうのは何て言うんだろう。

この日から、僕にとってこの家とおばあちゃんと風花は特別になった。

何があっても変わらない。
そう思える存在。それを僕は手に入れたんだ。

光を集めて

晴れわたった空には風がなく年末にしては暖かい

霜柱も太陽でとろけてしまう

布団を干して

部屋を片付けていたら

隅っこからビー玉が現れた




中心にひびが入るように加工されたもので

青い中心には無数のひびがはしる

表面は滑らかなのに

中心にだけひびがあるのが不思議で

光にかざすと

ひびが虹色に輝く






不思議で





ビー玉で遊ぶことはないけれど

脆くて壊れてしまいそうで

手にするたびに

少し 緊張する





光にかざして

虹をさがす





小さな

幸せのサインのように

月が満ちるまで ともしび 8

ふたりにじいっと見つめられているのは、恥ずかしかった。

おにぎりを見て、一口かじる。





美味しかった。

母さんの作ってくれるものより、塩がきいていてしっかりしていた。

口にいれたら、ほろっとほぐれて噛むと米の甘さが広がった。

「遠慮しないで食べなね」

にっこり笑ったおばあちゃんと目があう。

「……すっごく、美味しい」

あとは夢中で頬張った。豚汁もあったかくて味がしみていて美味しかった。



すっとお盆が差し出された。

頃合いを見ていたようで、お代わりどうぞ、そう言ってくれた。

恥ずかしかったけれど、おかわりをもらうことにした。

「ご飯が食べれるんだねぇ。安心したよ」

おばあちゃんがおにぎりを、女の子が豚汁を持ってきてくれた。

お腹がいっぱいになってきて、暖かくてやっと僕も緊張がとけてきた。