FULL MOON 7
一方的な呼び出しだとしても、考えても、考えても解らない闇を解きほぐす手立てがあるなら、この細い糸を離すことはできなかった。
逢魔ケ時の四辻に立つ。
場所は言っていないのに、ここだとしか思えなかった。ここでしか会ったことがなかったからだ。もし他の場所だったなら、指定があったはずだ。
最悪な出会い方で、最低な別れ方だった。
黒猫はぶるりと毛を逆立てる。何かの痕跡が不安をさそうのかもしれないし、かつて感じた恐怖を体が覚えているのかもしれなかった。
「コノハナが約束守るなんて思わなかった」
それでも耳を立て、状況を把握するために高い塀からあちこち見回している。
「奴には貸しがあるんでね。返してもらわないと」
「なぁんか嫌だなぁ」
鼻をひくつかせながら、明け星は置物のように座っている。後ろ足を折り、前足をのばした姿だ。リラックスしている時の四肢を曲げた香箱座りではない。
ふいに風が変わった気がした。明らかに、今までふいていた風の向きが変わった。顔をなぶる風は、なにかこの世ではない力に満ちていて、逃げだしたい誘惑と闘わなくてはいけなかった。
この先に奴がいる。
一瞬の出会いと別れで、こんなに存在感を植え付けられた人物は初めてだった。そしてこんなに緊張するのも初めてだった。
暗さを増す町並みから、にじみ出した黒い影。どこからかカラスもやって来て上空を旋回し、肩に羽を休める。
「よろしい。きちんと来たようだね」
黒いロングコートをきちんと着こなして、革の手袋をはめている。撫で付けた黒髪から整髪料の匂いと、なにか香草のような香りがした。鼻筋の通った彫りの深い顔立ちだ。どこか外国の血を引いているのかもしれない。
聞きたいことは、たくさんあった。何から聞いたらいいのか唇を湿らせて考えていた。
逢魔ケ時の四辻に立つ。
場所は言っていないのに、ここだとしか思えなかった。ここでしか会ったことがなかったからだ。もし他の場所だったなら、指定があったはずだ。
最悪な出会い方で、最低な別れ方だった。
黒猫はぶるりと毛を逆立てる。何かの痕跡が不安をさそうのかもしれないし、かつて感じた恐怖を体が覚えているのかもしれなかった。
「コノハナが約束守るなんて思わなかった」
それでも耳を立て、状況を把握するために高い塀からあちこち見回している。
「奴には貸しがあるんでね。返してもらわないと」
「なぁんか嫌だなぁ」
鼻をひくつかせながら、明け星は置物のように座っている。後ろ足を折り、前足をのばした姿だ。リラックスしている時の四肢を曲げた香箱座りではない。
ふいに風が変わった気がした。明らかに、今までふいていた風の向きが変わった。顔をなぶる風は、なにかこの世ではない力に満ちていて、逃げだしたい誘惑と闘わなくてはいけなかった。
この先に奴がいる。
一瞬の出会いと別れで、こんなに存在感を植え付けられた人物は初めてだった。そしてこんなに緊張するのも初めてだった。
暗さを増す町並みから、にじみ出した黒い影。どこからかカラスもやって来て上空を旋回し、肩に羽を休める。
「よろしい。きちんと来たようだね」
黒いロングコートをきちんと着こなして、革の手袋をはめている。撫で付けた黒髪から整髪料の匂いと、なにか香草のような香りがした。鼻筋の通った彫りの深い顔立ちだ。どこか外国の血を引いているのかもしれない。
聞きたいことは、たくさんあった。何から聞いたらいいのか唇を湿らせて考えていた。
FULL MOON 6
しらじらと夜が明けていく。ぼんやりした頭で朝焼けを見ていた。薄く広がった雲が赤を吸い込んで輝く。端には金のような輝きをまとって。
今まで何度見たとか、これから何度見るのかなんて、どうでもよくなりそうな鮮やかさを持っている。
月の入りを確認して、まだ時間があることがわかる。
ぼんやりとした水鏡のように姿がぶれて二重映しになる。眠っている女の子と黒い猫。
ゆらゆらと揺れてぶれる。
風がたち波たつ水面のように揺れが大きくなり、泡立つ水面に二つの姿は掻き消されてしまう。
知らずに鼓動が早まる。
片足を立てて腰を浮かせたまま、意識して呼吸をとっている。
もし、なんて不安はいつもある。でも一番強く感じてしまう瞬間だ。
もし、意識がもどらなかったら…
もし、普通の猫になってしまったら…
もし、記憶を損なうなにかがおきたら…
頭を強く振る。
払わなければいけない不安で、変化に気づけなくなったらいけない。
大丈夫だ。
何かおきたなら、その時だってきっと対応できる。予測することと、不安になることを混同してはいけない。
光が生まれてくる。
ゆらゆらと揺れた水面を割って蛍火のような光が沸きあがる。輝きは範囲をせばめ人間ひとり分の大きさから、猫一匹分へと変化する。
蛍火が消え去るのを待って、猫にふれる。やわらかな毛並みに、規則正しい呼吸に、ほっと息をつく。
今回も俺の目の前から消え去らなかった。
この世とあの世の端境で、危ういバランスをとっている。
崩れさせないために、取り戻すために、立ち上がらなければいけなかった。なにかを引き換えにしなければいけないなら、迷いなく差し出す。
明けていく空に、忘れられたように星が光る。明るい強い輝きに無事を祈る。
眠りこけた猫は、手の平の下で寝返りをうった。
今まで何度見たとか、これから何度見るのかなんて、どうでもよくなりそうな鮮やかさを持っている。
月の入りを確認して、まだ時間があることがわかる。
ぼんやりとした水鏡のように姿がぶれて二重映しになる。眠っている女の子と黒い猫。
ゆらゆらと揺れてぶれる。
風がたち波たつ水面のように揺れが大きくなり、泡立つ水面に二つの姿は掻き消されてしまう。
知らずに鼓動が早まる。
片足を立てて腰を浮かせたまま、意識して呼吸をとっている。
もし、なんて不安はいつもある。でも一番強く感じてしまう瞬間だ。
もし、意識がもどらなかったら…
もし、普通の猫になってしまったら…
もし、記憶を損なうなにかがおきたら…
頭を強く振る。
払わなければいけない不安で、変化に気づけなくなったらいけない。
大丈夫だ。
何かおきたなら、その時だってきっと対応できる。予測することと、不安になることを混同してはいけない。
光が生まれてくる。
ゆらゆらと揺れた水面を割って蛍火のような光が沸きあがる。輝きは範囲をせばめ人間ひとり分の大きさから、猫一匹分へと変化する。
蛍火が消え去るのを待って、猫にふれる。やわらかな毛並みに、規則正しい呼吸に、ほっと息をつく。
今回も俺の目の前から消え去らなかった。
この世とあの世の端境で、危ういバランスをとっている。
崩れさせないために、取り戻すために、立ち上がらなければいけなかった。なにかを引き換えにしなければいけないなら、迷いなく差し出す。
明けていく空に、忘れられたように星が光る。明るい強い輝きに無事を祈る。
眠りこけた猫は、手の平の下で寝返りをうった。
君が笑ったから
君が笑ったから
嬉しくて
君が笑ったから
楽しくて
ほかの誰でもない
君だから
僕の大切な君だから
君の僕にむけた笑顔で
僕も笑顔になれるから
また少し君を好きになる
昨日よりさっきより
君を好きになれる
君の笑顔に出会えたから
その笑顔を抱きしめて
出かけることにしよう
嬉しくて
君が笑ったから
楽しくて
ほかの誰でもない
君だから
僕の大切な君だから
君の僕にむけた笑顔で
僕も笑顔になれるから
また少し君を好きになる
昨日よりさっきより
君を好きになれる
君の笑顔に出会えたから
その笑顔を抱きしめて
出かけることにしよう