ふんわりシフォン -262ページ目

FULL MOON 8

「あなたは誰なんですか」

すい、と目を細め大袈裟に首を振る。

「なっていないね。親御さんの教育!嘆かわしい。自分から名乗ったらどうだい」

知ってるくせに。カラスを自宅に遣わせるくらいだから、こちらの素性なんて調べがついているはずだ。

「俺は周防 朔哉。あなたは誰なんですか…いったい何物ですか」

その存在自体が、謎で不思議だ。
出会った時、人ではない物を相手にしていた。動物かといえば違う。もっと、まがまがしい存在だ。

「私のことは、ジョーカーと呼んで頂きたい。何物だと聞いたね、切り札さ」

ひゅっと風が頬の脇を抜けていく。風切り音が耳を揺すり、体の力を奪っていく。

「なぜ、呼び出したんですか?今まで放っておいて」

罪悪感があるなら、責任を取れと訴えてもいい。しかし…そんなことは通用しない…きっと守れないのが、悪いのだ。そう言われる気がした。

「こちらにも事情があってね。そちらを巻き込んだ手前、調べさせてもらった。」

手を組むと、きゅっと革の擦れる音がした。

「君には素質がある。だからこれは必然さ」

かっと頬に血がのぼるのがわかった。それでも、相手の機嫌を損ねないよう怒りを押し込める努力をする。
「必然だなんて…この事件で運命を狂わされた人だっているんですよ」

「そうだ。君の意見はもっともだ。しかし、そちらが正しい運命だと証明できるかね」

組んだ革手袋の人差し指だけを立ててみせる。

「この世に生を受けた姿で居られないし、記憶すら改竄されているのに?それが正しくはないんですか」

「こうなるように運命づけられていたとは思えないかね」

「後づけの理由みたいじゃないですか」

黒猫は明らかに戦闘体制で、毛を逆立てた姿は一回り大きく見えた。緑ががった瞳からは稲妻がはしりそうな剣呑さが見て取れた。

「そうさ。理由なんてどうだっていい。今ここにある現実こそが全て、運命なんだよ」

風がジョーカーを中心にして巻き起こる。服の裾がはためいて、木々が枝を揺らすのにジョーカーの服は微動だにもしない。ぴしりと折り目のついたままだ。

どうしたら俺は必要な情報を聞きだせるだろう。

ミルフィーユ

さっくりとした生地に

カスタード

かさねて かさねて

ミルフィーユ

いちごののった

ミルフィーユ



幸せを感じる

ガラスケースには

作った人の夢や幸せや

笑顔にあふれている



口にできる美しいもの

心も体も満たしていく

翼をやすめて

俯瞰して見る空は広くて

世界は果てしなくて

ひばりのように雲を目指して

高く飛ぶ日があり

空から落ちるように

安らげる場所を目指す日がある

そこには

なにがありますか

温かな食事と

お日さまの匂いのする布団

優しく笑う君

翼をやすめて

優しさに包まれる




お帰りなさい