取り敢えず打ち破ろうか 244 | 瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

瑠璃色の地球(ほし)の青宝玉

大野君に魅せられ、重症サトシックのおばさんです。
年甲斐もなく智愛叫んでます。
お名前をお借りして腐小説を書いています。
ご理解いただける方のみお入り下さい。

男性の方のご入室はご遠慮下さい。

画伯と入れ替わるように

皇子が部屋に入ってきて

ソファーに腰を下ろした

 

「長老と話は出来た?」

 

暁殿で紀之さんと会った時

長老はずっと黙ったままだと

皇子が言ってたのを思い出した

 

「両親の前で号泣してた ・・・

 『私を守れず死なせてしまった

  約束を果たせなかった』と

 父が傍に座り

 全ての経緯を話してくれた ・・・

 それでも、涙は止められなかった ・・・」

 

その話をする皇子の瞳が

みるみる涙で潤んでいく

 

「皇子にとって長老は

 お父さんだよね」

 

「ああ、私を実の子として育ててくれた

 厳しい部分も多かったが

 とても優しく情の深い人だった ・・・

 長老を悲しませたこと

 私が一番後悔したことなんだ ・・・」

 

ボロボロと涙が溢れて

その涙を拭うように

両手で顔を覆った

 

誰が親だったか知らない皇子にとって

親も同然の長老

皇子を優しく強く育てたのは

紛れもなく彼だ

 

「私が ・・・ 都で討たれたあと ・・・

 生きる気力をなくし

 床に就いたのち後を追うように ・・・

 潤が教えてくれた ・・・

 どうして私はあの時 ・・・

 長老に相談しなかったのだろうな」

 

後悔の色に染まったため息を吐いて

泣き続ける皇子は

まるで小さい子のように見えた

 

先視で見た里の未来は

黒く塗り潰されていたと聞いた 

蒼穹の一族の未来は

皇子の死で途絶えたのだから当然だ

そのことを伝えられない気持ちも分かる

 

そして

その事がなければ

暁の一族は生まれない

 

皇子1人が背負うには

余りにも重すぎた

ただその重荷を

一緒に背負える人も居なかった

 

皇子の判断は間違ってはいない

 

長老は長老で

守れなかった後悔に

苛まれ続けたんだ

 

「一族の未来を知っていたから ・・・

 誰にも言えなかった ・・・

 それは長老も分かってた ・・・

 ただ ・・・ 皇子に

 会いたかったんだよ」

 

その気持ちが強かったのだろう

だから間際まで迷い続けた

 

「私を送り出してくれた時の

 寂しそうに笑った長老の顔が

 ずっと忘れられなかった」

 

そう言って、皇子は声をあげて泣いた

帝や后の話、翔様の話でも

ここまで声をあげたことは無かった

皇子の後悔がダイレクトに伝わってきて

掛ける言葉が見当たらない

ただ傍に座って肩を抱くしかなかった 

 

「智 ・・・」

 

「うん」

 

「長老が笑ってくれたんだ

 それは ・・・ それは ・・・

 嬉しそうに笑って ・・・

 ようやく許されたんだろうか」

 

「許されたのは長老だよ ・・・

 漸く皇子の即位の儀に立ち合える

 千年の悲願なんだ ・・・

 3人の親が見守る中

 帝になった姿を見せてあげて」

 

画伯にお願いしよう

 

皇子が即位した姿を

立ち合った人たちに見せて欲しいと

俺が蒼穹殿に入るのはその後で良い ・・・

 

「喜んでくれるだろうか?」

 

いつもは動じない彼が

自信なさげな表情を浮かべて

俺の顔を見つめた

 

「愚問だよ!

 喜ぶに決まってるだろ

 暁殿に集まった人たち

 そしてこの里に生き続ける

 蒼穹の一族の者の悲願

 それは俺に対してではないよ

 千年前、一族を守るために世界から消えた

 悲劇の皇子への想いなんだ」

 

悲劇の皇子と言う冠を外してあげたい

そう思い続けた一族の悲願 

未だに皇子の話をする人達は

瞳が濡れると言うのに

 

皇子はただ黙ったまま頷いた

 

「皇子、今日が終わりじゃないよ

 俺と一緒の生きていくスタートなんだ

 翔様と話したんでしょ?

 最初にやりたい事を一緒に叫ぶって

 俺たちはその声が聴こえるのを待ってるよ」

 

「ああ ・・・ そうだな ・・・

 私は智と共に生き続ける

 長老も雅紀も和也も潤も

 そして私の両親も ・・・

 この時代に帰っていく ・・・」

 

漸く、柔らかい笑みを浮かべだ皇子

長老との対面で

心残りはなくなったのだと思う

 

「お帰りなさいって言うよ」

 

即位の儀が終わり

皇子の姿が消えた時

その言葉を言うからね

 

それは翔も同じだ ・・・

 

「じゃあ、ただいまと言うよ ・・・

 智に話を聞いてもらえて

 心の中は蒼穹そのもの 

 ありがとう ・・・ さて支度に行くよ」

 

「皇子が蒼穹殿に向かう姿を

 目に焼き付けるから

 俺は全て憶えてる ・・・」

 

皇子の儀式に関しての記憶は

ゆっくり消えていく

それは千年前の彼らが

その記憶を持って

現世に帰っていくからだと

豆屋さんは言ってた ・・・

 

 

「そうだったな ・・・

 私は蒼穹殿の中で

 君が来るのを待つよ」

 

「はい ・・・ よろしくお願いします」

 

朝までの時間

二人で語り明かそう

皇子の思う未来がどんななのか

聞いてみたいんだ

 

 

すっかり乾いた涙を

もう一度拭い

ゆっくり立ち上がった時

 

綾野君の声が廊下から聞こえた

 

「皇子、お支度の時間でございます

 長 ・・・ 湯の用意が出来ております」

 

「承知した

 すぐに参ろう」

 

「分かったよ

 すぐに向かう」

 

 

二人で返事をして

一緒に部屋を出た

 

 

 

 

皇子 ・・・ 

貴方が居たから

俺は長として生きてこられた ・・・

ずっと傍に居てくれて

ありがとう

 

 

 

 

 

 

<続きます>