部屋に着いたのは11時過ぎ
『無事着いた』のライン母と池田に送り
二言、三言の会話で終了
池田と君との電話の内容が気になったけど
敢えて聞かないことにした
どちらに対しても失礼な気がしたからだ
軽くシャワーを浴びて
缶ビールを一本飲んだあと
ベッドに寝転がった
ハードな一日で直ぐに眠れるかと思いきや
全く睡魔が襲ってこない
新幹線の中で転寝したのも一因かな
こういう時は無理して寝ようとすると
逆に頭が冴えてくる
携帯画面に時間を見て
君に電話しようと思い立った
向こうは日曜の朝
この時間なら起きてる
(池田からの電話で起きてるはずだし)
ベッドの上で座り直して
画面をタップした
コール音が数回鳴った後
君の声が聴こえてきた
それだけでホッとした
「おはよう、智(さと)」
君は可笑しそうに笑いながら
「ふふ そっちは夜中だろ(笑)
まだ起きてたの?」
意外って声をする
俺が実家に帰ったことは
聞いていないようで
少し安心した
「うん、なんか目が冴えて
たまにあるだろ?
眠れない時」
「ある、何をやっても眠れないの」
「夜中だと電話も出来ないし
そう言う時、どうしてた?」
「あ~ 寝るの諦めて
イラストを描いたり
画集を見たりする」
「絵の世界に入って行くんだ」
「そんなカッコいい話じゃないけど(笑)」
ちょっと困ったような声
それがまた癒されると言うか ・・・
俺だけが楽しんでる気がしてくる
「俺もそうしようかな?
智が描いてくれた絵の中に入って行く」
「それは入れないよ
だって、そこまでの物語がない」
「あるよ、俺を思い浮かべて描いてくれたんだろ?
その時の智を想像する」
「マジでハズいから
そう言うのは口に出さないでくれると
ありがたいんだけど」
絶対に照れてるはず
最近、想いを伝えてなかったから
忘れられてたら困る
想いはずっと変わってない事は
折に触れアピールしないと
「意地悪し過ぎ?」
「今日の櫻井は意地悪だな」
ちょっと不満げな声
きっと、頬を膨らませてるんだろうな
表情を思い浮かべるのも楽しい
「ごめん(笑)
これから眠れないときは電話する
休みだとゆっくり話せるだろ?」
「僕は良いけど
櫻井は休みの旅に寝不足になるよ」
「ならないよ
昼寝したらいいだけの話」
「昼寝しないじゃん
じっとしてるの嫌いだし
ああ、思い出した
櫻井資格とれたの?」
あ ・・・ 資格とれてないよな ・・・
あんなに色々資格の本を買ったのに
何一つ取れていない ・・・
「取れてない ・・・」
「あはは ・・・ あんなに本を買ってて
勉強もしてたのに?」
形勢逆転の様相を呈してきた
ちょっと分が悪いな ・・・
「引っ越しとか色々あったし
仕事を覚えるのが最優先だから ・・・」
「じゃあ、眠れないときは
その勉強をすればいい」
『グッドアイデアだろ』
って顔してるのが想像できる
でも、その案は却下
「それって電話するなって事?」
「ふふ ・・・ 電話よりも寝れるよ
僕なら絶対に寝る(笑)」
「え~~~
勉強は続けるけど
智とも話したい!
だから電話が一番
資格の勉強が2番な」
ここは譲れない!
こうやって君と話してれば
俺は大丈夫だから
「あはは、なんかのCMみたいだな(笑)」
そんなCMって有ったっけ
ああ ・・・ カステラのCM ・・・
「カステラのCMだ」
「そうそう、カステラ一番 電話が二番だっけ
ふふ 電話は二番だよ」
口遊む君の声
持って聞いてたいのに止めちゃった
「それはCMだから
俺は電話が一番、資格が二番にするよ」
「どこまでも引かないんだから
でも、眠れないときは付き合うよ
電話して」
呆れながらも声がやさしい
流石、俺が惚れた人
「それはさ、智もだよ
絶対に電話して」
お互いが支え合えれば
何でも乗り越えられる気がする ・・
「はいはい
そろそろ眠くなってきた?」
これは電話を切ろうとしてる
もうちょっと話したいのに ・・・
「全然!」
「仕事に差し障りが出てはいけないの
新人君のモットーだよ
僕が眠れるって保証するから
大丈夫!眠れるよ」
君が大丈夫だと言ったら
何だか眠れそうな気がしてくるから不思議
「分かった、寝てみる」
「うん、ゆっくり休んで
お休みなさい」
あっさりと「おやすみ」を言われて
ちょっと気持ちが萎えそうになったけど
引き際も肝心
「智の言葉を信じて
寝ることにするよ
お休みじゃなくて
「Have a good holiday」」
「ありがとう
じゃあまたね」
ここは素直に電話を切り
時をみたら ・・・
一時間経過してた
君が電話を切りたがった訳だ
久しぶりに心が落ち着いた
俺は君がいないとダメなんだ
それを痛感した
<続きます>