翔兄と二人で実家に帰った
玄関先で迎えてくれたのは母
「あけまして おめでとうございます
今年もよろしくお願いします」
遅ればせながら年始の挨拶をする
「あけましておめでとう
今年もよろしく」
母も同じように年始の挨拶を返してくれた
実家を出たのは昨年の12月
そこまで時間が経っていないのに
長い間、戻っていなかったような感覚に陥る
「おじさんは?」
「貴方達に食べさせるんだって
朝からビーフシチューを作ってるの」
男子厨房に入らずの父がシチュー?
相当間の抜けた顔をしてたのか
母が可笑しそうに笑って
「そんなに驚いたら
お父さん、傷付くわよ
直人さんに弟子入りして
料理を始めたのに」
「え~~~~~~~~」
今度は翔兄が素っ頓狂な声を上げた
「翔兄 驚きすぎ!」
「どうしてですか?」
「この家を出るのよ
自分たちの事は自分でやらないとダメでしょ」
「母さんも料理するの?」
「当たり前でしょ」
自信満々の笑みを浮かべた ・・・
「いやいや ・・・」
何が当たり前なんだ ・・・
大人になってから
母の手料理を食べた記憶がない
(焼き菓子は食べたけど)
それはやめた方が ・・・
言いそうになって止めた
何事も経験だって貴方が言ってたのを思い出した
俺だって簡単な物は作れる
(味は置いといて)
「サク、それ以上は危険だぞ」
翔兄がアドバイスなのか
ぼそっと呟く
(母に聞こえてる時点でアウトだけど)
「何か言った?」
笑顔の攻撃って言うのは
背筋に冷たいもの走る
「おばさん、執事とメイドさんは?」
「3が日、忙しかったでしょ
だから、今週いっぱい休暇を出してるの」
いつもは交代だったはず ・・・
誰もいないのは始めてだ
「交代制じゃないの?」
「詳しいことはお父さんから聞いて
いろいろあったのよ」
一族が集まる年始の会で
正式に宣言したのだから
大騒ぎになっただろうと
容易に想像できる
「本家は大喜びなんじゃないの?」
母は黙ったまま苦笑いを浮かべた
本家の思惑通りには進まずて事かな ・・・
父は広間の暖炉の傍に座ってて
俺達が入ると同時にこっちを向き
柔らかい笑みを浮かべる
「おじさん、明けまして、おめでとうございます」
「父さん あけましておめでとう」
「二人とも おめでとう
楽しい正月を過ごせたか?」
何処か吹っ切れたのか
晴れ晴れとした顔をしてて
父の肩に乗っかってた重い荷を下ろしたのが分かる
父も一族と決別したのかもしれない ・・・
「母さん、紅茶を淹れてくれるかい?」
「ええ、すぐに淹れるわ
二人とも座ったら?」
母に言われて父の前に座った
「おじさん、料理始めたんだって?」
「ああ、これが結構楽しい
直人君から簡単レシピを
何個か教えてもらって
作ってきたら意外とおいしくて
そこから嵌った」
「美味しいの?」
「母さんは美味しいって言ってくれるけど?」
「じゃあ、美味しいんだ(笑)」
両親は既に新しい生活をスタートさせているんだ
二人だけで暮らす生活を ・・・
<続きます>