ー 手と口が出会う、その瞬間 ー




うちの子は、よく手をじーっと見つめていました。



本当に、驚くくらい、じーっと。


「何がそんなに面白いの?」と、主人はよく聞いていました。


私は、その意味を知っていました。


あの子は今、

“自分の体”と出会っているのだと。



最初は、ただ視界に入った動くもの。


ふわふわ揺れる、不思議な存在。


目で追いかけているけれど、

まだそれが“自分のもの”だとは分かっていない。


そしてある日、


その手が、口に入る。



その瞬間、

見ているだけだった手が、

「感じられるもの」に変わる。


温かい。

柔らかい。

動く。


目で見ていた情報(視覚)と、

口で感じる情報(触覚)が重なった瞬間。


ここで初めて、


「これは自分の身体なんだ」


と、脳がつながり始めます。


これは、

視覚と触覚が統合される最初の大切な経験。




やがて赤ちゃんは、

両手を顔の前、体の真ん中に集めるようになります。


これを発達の視点では「正中線に手が集まる」と言います。


身体の中心に手がくるということは、


左右の身体がつながり始めたということ。


肩が安定し、

首のぶれが少しずつ減り、

体幹が静かに整っていく。


あの“じーっと見つめる時間”は、

実はその準備期間でもありました。




そして手は、


眺めるものから

動かせるものへ。


握る。

触る。

つかむ。


すべては、


口に入れて「自分の手だ」と気づいた瞬間から

少しずつ始まっているのかもしれません。




赤ちゃんの発達は、


何かができるようになる派手な瞬間よりも、

こうした小さな“気づき”の積み重ねで進んでいく。


あの頃、

アホみたいに手を見つめていた時間も、


ちゃんと意味があった。


そう思うと、

なんだか少し、胸があたたかくなります。