水谷豊というとまず「熱中時代」「相棒」をはじめとしたドラマで著名な俳優であるが、「カリフォルニア・コネクション」(1979)をヒットさせた歌手としても知られる。もっとも、音楽活動の位置づけはあくまで俳優としての仕事を優先しているなかでやっているという印象であり、1978年発売の最初のベストアルバムなども、まず俳優としての水谷を紹介しドラマのスチール写真を多く盛り込んだブックレットが付されている。しかし、一方で作詞のみでなく作曲まで手掛けた曲をアルバムに収録し(1983年、「何んて優しい時代」はシングル曲にもなった)、一旦休止させた音楽活動を2008年セルフカバーアルバム「TIME CAPSULE」を皮切りに再開させてみるなど、意外にこだわりをみせているところがある。水谷自身は若い頃歌の世界では主人公のイメージを表現しきれていないという悩みを抱えていたのを音楽活動を休止した理由として挙げていたが、歳を重ねてそれを実現できるようになったと言っているそうである。

 

1977年リリースされたファーストアルバムは、タイトルらしいタイトルのついていないただ歌手名だけを冠したものであるというのが前記のような音楽活動の位置づけを端的に示していると思うのだが、穿った見方だろうか。しかし、作詞作曲陣をみると谷村新司・井上陽水をはじめとしてなかなか充実した布陣である。アレンジは石川鷹彦が一手に引き受けているが、やや古風な侘しさが年代を感じさせるように思う。

 

冒頭の「男の手紙」は井上作曲だが、詞の白石ありすが詞先の人であるためか、あまり井上らしくない哀感の先立つ曲だ。続く「草の夢」も白石の詞で、しみじみと昔語りをするかのような印象。作曲はこのレコードを発売しているフォーライフ・レコードで音楽プロデューサーを務めている常富喜雄である。3曲目「インターチェンジ」ではやや軽やかな調子に変わる。作詞作曲は谷村だが、谷村ソロよりもアリスの曲を思い出させる雰囲気だ。しかし、次の「時のいたずら」でふたたびわびしい調子に戻る。5曲目「夏のめまい」は冒頭の白石・井上コンビが再登場しているが、こちらは幾分井上らしい飄々としたところがあらわれている感がある。LPでいうA面最後の曲「飛行場」は作詞作曲とも常富作品。悲しい曲だがあまり重々しさはなく、はかなさを感じさせる。後奏のストリングスが美しい。

 

LPでいうB面の冒頭はデビュー曲「はーばーらいと」が置かれている。これは前記「TIME CAPSULE」でセルフカバーされているが、このオリジナルのアレンジの方が哀感を引き立てていて好きだ。水谷の歌唱も後年のセルフカバーにはややもってまわった印象を受ける。これも井上作曲だが、詞が松本隆なのでおそらく曲先であろうし、哀しい曲ではあるが前記「男の手紙」よりも井上らしい雰囲気を感じる。続く「曇りのち晴れ」は一転して軽やかだが、半ば諦観のようなものが漂うようだ。3曲目「灰色の朝」は作曲が山本コータローだが、間奏の管楽(?)を聴くとこれは「岬めぐり」か?と思われてしまう^^; 4曲目「じゃ僕は先に行く」は作詞が喜多條忠・作曲が「風」の大久保一久。これも割と軽いタッチの短い曲。5曲目はふたたび谷村作詞作曲の「さよならで始まる…」だが、「インターチェンジ」よりもソロの谷村の曲の雰囲気に近く、これはもっと重厚なアレンジで谷村のセルフカバーが聴いてみたくなる^^; 最後は水谷本人の作詞作曲になる「心のままに」だが、思いのほかいい曲で、幼い頃観た「熱中時代」の北野広大役のキャラクターが思い浮かんでくるように感じたものだ。おそらく自作だからこそ、先に取り上げたような歌の主人公の世界を確実に捉えて歌えたということなのだろう。