沢田研二が1983年年頭に発表したシングル「背中まで45分」は井上陽水の作品となったが、前作までEXOTICSと展開してきた曲とは違った印象を受けるためか、前作までに比して見劣りするセールスとなった。沢田がこの曲をシングル曲に選定したのは「歌って気持ち良い」からと述懐したように、吉田建の神秘的なアレンジに乗って沢田の美声が響くのは独特なしっとりとした世界を現出していたが、もっとアグレッシブなサウンドを期待していた向きには肩透かしを喰らったように受け取られた可能性もありそうだ。続く「晴れのちBLUE BOY」(1983)ではランキング上幾分持ち直しているものの、以後シングルレコードの売上は伸び悩む傾向となる。アルバムの方はそこまで落ち込んでいなかったようだが、この時期の沢田は不本意な仕事も多かったようなのも相まって、所属事務所に不満を抱くようになり1985年の独立へと繋がる要因になった印象を受ける。

 

「背中まで45分」を収録したアルバム「MIS CAST」は、シングルより先、1982年の末に発表されている。全曲を井上が手がけているというのが話題になったという。井上の言うところによれば、当初はメロディを1、2曲だけ提供するという話だったのを、自分の曲のときとは違ってプレイボーイを気取った歌詞を書けるのが楽しく、全曲作成にまで到ったのだという。「背中まで45分」を始めとして井上が後年セルフカバーしている曲も多く、井上にとっては自信作を並べられたという自負があったのだろう。アレンジはほぼ白井良明、1曲(「ミスキャスト」)だけ岡田徹というムーンライダーズのコンビが手がけている。ムーンライダーズというと、尖鋭な内容過ぎるため一般には難解と受け取られかねないからと、この時期にCDプレーヤーを導入しているようなイノベーターをターゲットに意識してCDだけで発売したとおぼしき「MANIA MANIÈRA」(1982)がほぼ同時期にリリースされているが、そのようなメカニカルな感触の一端がこのアルバムにも反映されているように感じる。飄々とした雰囲気は井上の作風によるところ大なのだろうが、デジタルな色彩の強いアレンジと相まって、「A WONDERFUL TIME」(1982)までのサウンドとはやや趣きを異にする味わいである。

 

冒頭から不可思議な印象を与えるイントロで、「News」が始まる。これは軽やかで心地よく、短い序曲という印象を受ける。続いて、軽快さは続くもののややアグレッシブな「デモンストレーションAir Line」。イントロがフラメンコを思わせて耳をそばだてる。3曲目が「背中まで45分」。ここでは白井アレンジで収録されているが、個人的には響きが機械的すぎるように感じるのでシングルバージョンの方がいいと思う^^;  次は「Darling」。表記は違うが同じタイトルを持つ過去のヒット曲とは無関係だが^^;、ワサワサとしたサウンドのなか異界から響くようなエコーの歌声が印象的である。ここまでは比較的軽快なタッチで進んできている印象だが、次は一転してノシノシと歩むかのような「A.B.C.D.」へと繋げられる。起伏をつけて単調になるのを防ぐ意図か。

 

LPでB面に変わるのを意識してか「チャイニーズフード」「How Many "Good bye"」でふたたび軽やかな曲調に戻ってくるが、続く「次のデイト」はちょっとビッグバンドっぽい響きで神妙な面持ちとなる。次の「ジャスト フィット」は、冒頭と最後こそ独特な効果音があしらわれているが、このアルバム中では比較的前作「A WONDERFUL TIME」までの雰囲気に近いバンドサウンドが聴ける。最後は表題曲「ミスキャスト」。心臓の鼓動のようなリズムを刻みつつ始まり、沈痛な面持ちで進んでいくこのアルバム中では重々しい方の曲だが、締めくくりとしては暗すぎる印象を受ける。