これまで長く谷山浩子という人の存在は承知していたが、シンガーソングライターとしてなのか作家としてなのかも曖昧であったくらいの認識でしかなかった^^; しかし、最近たまたまFM放送にて谷山の曲を特集する番組を耳にして、そのもの悲しげながら凛としたところのある歌声に惹かれるものを感じたため、目下初期のアルバムを集めて順次聴いている状態である。

 

谷山のキャリアは、通学していた中学校のそばにあったキングレコードに自作曲の持ち込みをするところから始まったという。フィンガー5の前身にあたるベイビーブラザーズのシングルレコードのB面に曲が採用されたのをきっかけに、自分も歌ったレコードを制作しようということになったそうだ。幸運に恵まれたとも思えるが、谷山本人は作品を世に問いたいという思いはあっても自分が歌うということはあまり考えていなかったそうで、この際はアルバム「静かでいいな〜谷山浩子15の世界〜」とシングル「銀河系はやっぱりまわってる」(ともに1972)を発表したきりで、そのまま継続した活動には繋がらなかった。特にシングル「銀河系はやっぱりまわってる」はレコード会社はおろか谷山本人も所蔵していないそうである。普通に考えると記念すべきデビューシングルとなれば本人ないし家族が誰か取っておきそうなものだが^^;、それほど歌手活動には関心がなかったということを伝えるエピソードだろう。

 

サブタイトルにある「谷山浩子15の世界」とは「15歳の世界」の意味であり、谷山が15歳のときに録音されたアルバムということである。谷山本人は後年のアルバムに比して曲や歌唱法に未熟さを感じているようだが、聴く側としてみればすでにその独特の作風は確立していたように見受けられる。アレンジを担当している原田良一は藤圭子「圭子の夢は夜ひらく」(1970)のアレンジが特に知られている人で、もとはジャズギタリストだったそうだが、このアルバムを聴くかぎりあまりジャズらしさは感じない^^; 年代なりのほんわかムードはあるがさほど古めかしさは感じず、このアルバムの出来を高めてくれている印象だ。

 

冒頭の2曲は、デビューシングルのA面B面にあたる「銀河系はやっぱりまわってる」「天使のつぶやき」。「銀河系はやっぱりまわってる」は、メロディにそぐわない終末感に満ちた歌詞で強烈なインパクトを与えられる。キャリア的に近いところがある中島みゆきの「あたし時々おもうの」(1972)に似たものを感じる。15歳にしてこのような歌詞を書いたという谷山の早熟ぶりに驚かされるが、これはその後永井豪「デビルマン」(1972〜73)やノストラダムスの予言ブーム(1973〜)、やや年代は下るが横山光輝「マーズ」(1976〜77)などを輩出するにいたった70年代の空気感の反映だったのだろうか。「天使のつぶやき」の方はそこまでのインパクトはないが、メランコリックな雰囲気を漂わせる佳曲である。

 

3曲目「風船」は雰囲気がガラッと変わり小気味よいピアノのしらべが聴けるが、満面の笑みではなくどこか悲しげなのが谷山らしい。次の「ひとりになりたい」も、明るいとまではいえないが軽やかさの漂う聴きやすい曲だ。LPでいうA面後半は短い曲でたたみかけてくるかのような印象だが、「時の流れの中に」でふたたびピアノメインの曲に戻ったかと思えばいかにも70年代ポップスという雰囲気を感じさせる「こんな素敵な夜なのに」、ギター主体のフォークソングっぽい「今、始まる」とバラエティ重視といった趣きだ。

 

LPでいうB面冒頭は表題曲「静かでいいな」。「銀河系はやっぱりまわってる」よりはソフトな印象だが、やはりペシミスティックな雰囲気濃厚な曲である。これも短い曲だが、B面もA面後半同様、最後の「今、どうしたら」を除き、多彩な短い曲を並べて変化をつけているという趣きだ。「こんな素敵な夜なのに」に近い味わいの「天使の子守歌」「どこかで小さな」よりもピアノ主体の「教えて下さい―加瀬クンのために―」「夜明けまで」に惹かれるのは自分の好みゆえか^^; 最後の「今、どうしたら」は重々しいテーマを扱った曲だが、言いたいことは分かるものの「銀河系はやっぱりまわってる」や「静かでいいな」に比べると説教臭く感じてしまうのは惜しい気がする^^;