松尾一彦はオフコースに中途(1979〜)から加入したメンバーだが、在籍中から他のアーティストへの楽曲提供を盛んに行ってきていた。自分が松尾に関心を持ったのも、稲垣潤一や柏原芳恵などに提供された曲がいいなと思ったためであった。

 

オフコースが解散を意識しつつもそれぞれが独力でやっていけるよう力をつけるため、1986年は各々がソロ活動を試みるようになった。松尾がファーストアルバム「Wrapped Woman」(1986)を制作したのはその一環とされている。同年、小田和正と清水仁もソロアルバムを発表しているが、作曲からアレンジまでほぼ独力で済ませているのは松尾だけであり、演奏楽器もギター、キーボード、シンバルに打ち込みまで多岐にわたっている。また、ジャケットの装幀が凝っていて、トレシングペーパーに文字等と若干の影のような絵柄を刷り込んで下の画像を透かして見えるようにしてある。これをみると、この松尾という人はかなりの凝り性なのではないかと、微笑ましい親近感をおぼえてしまう^^; 冒頭の表題曲のみ、一時一風堂メンバーだったこともあるベーシスト平田謙吾との共作となっている。ちなみに平田は清水のアルバム「ONE」(1986)においても作曲及びアレンジに参画しており、この頃の松尾と清水のソロ活動は基盤に共通となっているところが多かったのではないかと伺わせるものがある(クレジットを見ると、「Wrapped Woman」において清水がサウンドにアドバイスした人として名を連ねているのが分かる)。

 

詞を手がけているのは秋元康だが、これは稲垣のアルバムで組んで以来の交流によるものだったのかもしれない。他者への楽曲提供でも秋元と組んでいるケースが目立ち、相性がよかったのだろうと思わせるところがある。この当時の秋元というと一般的にはおニャン子クラブのイメージが強いのだろうが、このアルバムに聴けるのはそちらでの秋元と同一人物とは信じられないような硬派だったりアダルトな雰囲気を漂わせていたりという、文芸的要素の濃い詞である。自分は特に秋元に思い入れのない人物ではあるが、時折こういった文学少年っぽい顔を見せたりフランス趣味を感じさせたりという多様な顔を持っているところには興味を感じるものである。なお、最後の「Summer of  '67」は歌詞カードだと秋元の詞になっているが、クレジットでは松尾の詞とされており情報が食い違っている。大した分量でもないが、どちらが正しいのか^^;

 

冒頭は、前記のとおり表題曲「Wrapped Woman‐風 are you -」。ほぼインストゥルメンタルで、ミステリアス印象を受ける短い序曲という趣きだが、扇風機のCMソングだったのがサブタイトルに反映されているらしい^^; 続く「アウシュビッツの雨」が強烈な印象を与えるアグレッシブな曲。あの秋元がアウシュビッツを題材とした重厚な詞を書くとはというインパクトがどうしても先に立つ^^; 次の「エゴンシーレの夜」もナチスドイツから「退廃芸術」扱いされた画家の名前をタイトルに入れているが、前曲ほどのテーマ性は感じない。とはいえ、前曲を承けてなかなか情感あふれる曲だ。4曲目「月のイマージュ」はリズミカルな印象で、クラシックでいうならスケルツォ楽章みたいな感じか。LPでいうA面最後の曲「水の中の磁石」は軽快で長いイントロに、少しくつろいだ気分としてもらえる。間奏も長めで、オフコースとは異質なサウンドづくりを志向しているように感じられる。

 

LPでいうB面冒頭の曲「ニュース」は、沈痛な雰囲気に満ちた、やはり重々しい内容。続く「Summertime in Italy」は冒頭に落雷の効果音をあしらったインストゥルメンタル。もっとも、この曲に限らず、このアルバムは前出の「水の中の磁石」のように前奏や間奏の長いものや歌詞がわずかしかないものなども散見され、歌詞をうたう歌というよりはトータルな音楽づくりに比重を置いているように感じさせる。B面3曲目「波音は消さないで」は、このアルバム中だと最も一般的なラブソングっぽい印象で、シングル曲にするなら次の「普通のオフィスレディ」より向いていたのではないかと思ったりする^^; その「普通のオフィスレディ」はしみじみとした雰囲気の曲で、シングル曲とされたのは分かりやすそうだと判断されたからなのだろうか。次の「ジャニスは死んだ」はタイトルに比して曲調は明るめで、終結に向かっていると予感させるような印象だ。最後は前記のとおり作詞が松尾本人か秋元か曖昧な「Summer of '67」で、虫の声をバックにして奏される短いエピローグとなっている。