アルバム「春なのに」(1983)のセールスが好調だったのは、あとになってみると中島みゆきファンがなじみの曲を柏原芳恵がどのようにカバーしているのか興味を抱いて買ったケースが多かったためではないかと推察されるところではあるが、当時としては柏原のアーティスト志向が受け入れられたと判断したのではないだろうか。いまとなっては出典が確認できないが、どこかで柏原本人もシングル「春なのに」が歌手として転機となったというようなことを言っていたのを読んだ記憶があり、続くアルバム「夢模様」(1983)も同じようなアーティスト志向を感じさせるものとなった。その帯には「南こうせつ、田所純一郎(井上陽水)、伊勢正三、松尾一彦他オリジナル作品集」と謳われている。個人的にはアルバム「春なのに」は初めのほうの曲が柏原に合っていないのが気に入らないのに比して、このアルバムの中盤以降の雰囲気を受け継いでいる印象があるので、「夢模様」の方が一層ポイントの高いアルバムだと思っている。もっとも、セールス的には従来の柏原のアルバムと大差ないものに留まったようだ^^;

 

前記の帯のキャッチコピーからも分かるとおり、この「夢模様」は作詞作曲において中心となるアーティストがおらず、シンガーソングライター系の人が目立つとはいえ、必ずしもそれに偏っているという印象ではない。ここが中島みゆき作品ばかりの「春なのに」及び松山千春作品ばかりの次作アルバム「TINY MEMORY」(1983)と異なる点である。前記の顔ぶれ以外だと、作詞では竜真知子・松尾由紀夫、作曲では西島三重子などが目立つ。また、作詞に名前の出てくる微美杏里というのは女優の藤真利子のペンネームであることが有名だ。アレンジでは前作「春なのに」に引き続いて石川鷹彦と服部克久の名前が見えるが、そのほかに山川恵津子・萩田光雄・飛澤宏元が参画している。アルバムのタイトルからして1ヶ月前にリリースされたシングル「夏模様」と関連性が感じられるのに、なぜかこの曲は収録されていない。「夏模様」が柏原のシングル中でもかなり好きな方の1曲だけに、これは残念な気がする。

 

冒頭は電話での会話を思わせる柏原のセリフから始まるという、ドラマ仕立てになっている。1曲目「黄昏通り」は思いつめたようなピアノの伴奏からオーケストラサウンドに繋がるという、いかにも自分好みのアレンジに惹かれる(石川アレンジ。作曲は南)。続く「目覚めると…」もメランコリックな曲だが、こちらの方がより柏原の声質に合っているようで、曲に没入させてくれる。3曲目「約束」は「黄昏通り」と同じ竜作詞・南作曲・石川編曲という顔ぶれだが、やや活発な曲となっていて柏原の歌唱を意識したようなメロディと感じさせる。

 

3曲目までアレンジが石川だが、4曲目「思案のスクリーン」から服部アレンジに変わる。これはボサノヴァっぽいタッチの美しい曲だ。石川アレンジもストリングスのサウンドがなかなか好みのタイプだが、やはり服部の方が一層好みか^^; LPでいうA面最後の曲は「夏模様」と同じ微美作詞・松尾一彦作曲の「ふたたび〜See you again」だが、前半のクライマックスを形成するかのような重々しいバラードという趣き。ドラムロールの使い方がうまく、盛り上がりに一役買っている。

 

LPでいうB面冒頭は一転してポップなスタートを感じさせる「夏のたった今」。なぜ変名を使っているのかはよく分からないが作詞作曲井上の作品である。飄々とした井上のタッチで柏原がキュートに歌っていると思わせる。山川アレンジはこの曲のみ。続く「坂道」はシングル「夏模様」のB面に収録されていたもので、松尾一彦作曲・萩田編曲が共通しているからか「夏模様」と近い雰囲気のセンチメンタルな曲だ(詞は山口薫)。アルバムの構成上、同じような曲を避けた結果こちらを採って「夏模様」を外したということなのかもしれないが、「坂道」の方がアルバムとして曲の続き具合がいいと判断したのか。

 

3曲目「逃げないで」は、いかにも柏原らしい歌唱のリズミカルな曲だが、4曲目「夕凪海岸」はふたたびセンチメンタルな雰囲気を感じさせる曲調に戻る。この曲もサビが前曲同様柏原っぽいリズミカルさを感じさせるが、どちらの曲も作曲が藤田久美子であるところからきているのかもしれない(アレンジが飛澤であるのも共通)。最後の曲は「銀河鉄道」と題されているが、内容は特に宮沢賢治や松本零士のものとは関係なさそうである^^;(松尾由紀夫作詞) とはいえ、ロマンティックな道具立てでアレンジもファンタジックな印象を受ける(B面はこの曲のみ石川アレンジ)。