「哀愁のカサブランカ」「愛の神話」(ともに1982)「比呂魅卿の犯罪」(1983)とオリジナルアルバムが3作連続でオリコンチャートトップ10にランクインしたことは、郷ひろみにとってアルバムアーティストに変遷するチャンスであったが、エンターテイナー的な面も捨てがたいと感じたのか、特にシングルレコードにおいてキャラクターがコロコロ変わっている感が否めない^^; 「2億4千万の瞳―エキゾチック・ジャパン―」(1984)を最後として「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」(1993)まで10年近く、郷はシングルレコードの売上に関しては低迷期を過ごしていたようであるが、そのあたりの曖昧さが災いした可能性はあると思う。
「TAILORED SONG 2」と銘打ちながら前作「TAILORED SONG」(1983)と内容的な関連性のあまり感じられないアルバム「ALLUSION」(1984)は、そのような路線上の迷いがもろに現れたアルバムだといえなくもない(前作と同じテーラードマイクを使っているという点だけ継続しているのは確からしい^^;)。アルバムの帯に「ヘンリー浜口プロデュース」と麗々しく謳われていて歌詞カードにはこの浜口から郷に宛ててのメッセージまで添えられているが、実はこの浜口が郷の変名だというオチがついている。このプロデューサー浜口が全曲の詞と一部の曲を手がけているだけに、それまでの郷のアルバムと比べて格段に郷本人が関与の度合いを高めているアルバムといえるのだが、それをあえて売りとして表記していないことになる。郷がこのような変名を使っていた経緯については確認できる資料が見当たらなかったので推測でしか言うことが出来ないが、アルバムアーティスト的なキャラクターづけが強くなりすぎるのを回避した結果だったのだろうか。どっちつかずになっている感は否めない^^;
「ALLUSION」というアルバムの性格を語るうえでもうひとつ見逃せないのは、大村雅朗が全曲のアレンジを担当しているメカニカルなサウンドである。これをみると、前作「TAILORED SONG」よりも前々作「比呂魅卿の犯罪」を継承する内容であるといえなくもない。ランキング面に関しては「TAILORED SONG」と似たりよったりなセールスだったようだが、郷自身は満足したのか、次作アルバム「LABYRINTH」(1985)においても大村はサウンドプロデューサーとして全曲のアレンジを手がけている。郷本人以外の作曲者では井上大輔・玉置浩二・大沢誉志幸・原田真二が名を連ねていてなかなか豪華な顔ぶれではあるが、いずれも1〜2曲程度なのでアルバム全体を特徴づけるほどの印象ではないように思う^^;
冒頭の「M.9(マグニチュード・ナイン)」はタイトルどおりの衝撃的なインパクトを狙ってくる。リズムの刻み方が異世界的な感触である。続く「CHARISMA」も、冥界を思わせるような不思議なサウンドだ。この曲は翌年シングルカットされたが、12インチだった特異性のためもあったかまったく売れなかったようだ^^;(郷のシングルレコードがオリコンチャートでトップ100圏外になったのはこの曲が初とのこと) 続く「どこまでアバンチュール」もシングル曲で、このアルバムは過半数の曲がシングル発売されていることになる。ある意味シングル単売によってアルバムへの誘引を図りたかったのかもしれないが、前記のとおりあまりその施策は効果がなかったようだ^^; この曲までかなりアグレッシブなサウンドが続く。
4曲目「ESCAPE」においてもメカニカルな感触は変わらないが、やや柔和な表情が出てくる。LPでいうA面最後「EMPTY PAGES」は「愛のエンプティページ」というタイトルで翌年にシングルカットされた曲。A面の最後を飾るのにふさわしい、ゆったりとしたバラードで、アレンジの印象が単一な感は否めないものの、ようやく聴いていてしみじみとしてくる。このアルバム中の白眉だろう。なお、ノンクレジットだが、大村からの伝聞によると曲の後半でバックコーラスで務めているのが松田聖子なのだという証言がある。
LPでいうB面冒頭「美音 LANGUAGE」は歌詞に「ALLUSION」という単語が現れ、主題曲に近い扱いのようだ。これまでと比べて明るい印象に場面が転換される。続く「I FEEL MY LOVE WITH YOU」「女してる?」でも、同様な快活さが維持される。最後はワム!のヒット曲のカバーである「CARELESS WHISPER」。いちおう先行シングル曲だが前出「どこまでアバンチュール」と両A面扱いの2曲目で、シングルバージョンのアレンジは原曲を意識したものになっているが、アルバムでは幻想的なイントロを持つ独自のバージョンとされている。シングルレコードでの発売が1ヶ月と違わないのでたぶん偶然なのだろうとは思うが、西城秀樹「抱きしめてジルバ」(1985)と競作になる。なお、「抱きしめてジルバ」は訳詞を森田由美が手がけているので、詞の内容はまったく異なる。また、アルバムの結びとして、コンサートか何かの情景を思わせる短い効果音が使われているが、いまいち意図が分からない不思議な締めくくりだ^^;