映画『市子』予告編
(町山智浩)で、いろいろと見たんですが。その中でね、今年の日本映画で一番強烈だった映画をちょっとご紹介したいんですが。これ、今週8日(金)に日本で公開される『市子』という映画なんですね。で、これはあの市子という名前の女性の物語なんですけど。演じるのは、杉咲花さんですね。『おちょやん』とかをやっていたりした人ですね。それが市子さんで。それで若葉竜也くん演じる恋人と一緒に同棲して暮らしてるんですね。
で、ちっちゃい幸せを持っていて。彼氏がとうとうプロポーズするところから、この映画は始まるんですよ。で、彼女は泣いて喜んで……ところが、その翌日に若葉竜也くんが家に帰ってきてみたら、市子さんがいなくなってるんですね。で、「一体どうしたんだろう?」と思うと刑事が突然そこに来て。「この人、知ってますか?」って写真を出すんですね。すると、それが市子さんなんですよ。で、「これ、市子じゃないですか?」って言うと「いや、どうも違うんですよ」って言うんですね。「というか、この人はなんか存在しないみたいなんですけど……」って言われるんですよ。
(石山蓮華)どういうことですか?
(町山智浩)で、「どういうことなんだ?」っていうことでこの主人公の若葉竜也くんが刑事と一緒にこの市子と関わる人たちにインタビューをしていく、取材していくという話なんですよ。
(石山蓮華)へー! ミステリアスな話ですね。
町山智浩さんが2023年12月5日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『市子』について話していました。
町山智浩 映画『市子』+『ゴジラ−1.0』感想
『市子』
劇場公開日:2023年12月8日
◆連日完売となった劇団チーズtheaterの傑作舞台『川辺市子のために』を、原作者の戸田彬弘監督が映画化。
プロポーズをうけた翌日に失踪した恋人・市子を捜す男性が、彼女の半生を辿っていく中で市子の壮絶な過去を知っていく。
監督:戸田彬弘(13月の女の子、散歩時間 その日を待ちながら)
主演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希
(町山智浩)そうなんですよ。で、これね、すごくネタを全くしゃべれないので。映画会社も非常に苦労してると思います。批評家の人もね、絶賛をしてるんですけど何も話せないというね。この映画の正体を明かすことができないという。
(でか美ちゃん)その導入を聞いただけでも、情報がない方が面白そうですもんね。
(町山智浩)そうなんですけどね。はい。で、杉咲花さんがやっぱりすごいんですよね。このプロポーズされた時点の26歳っていう彼女と同じ年齢と、それからもう何十年も遡っていくわけですけれども。彼女の人生をね。それを1人で演じていて、全然違和感がないんですよ。
(石山蓮華)じゃあ、どんどん若返っていくんですね。お芝居で。
(町山智浩)そう。セーラー服を着たりしてるんですけど、全然普通な感じで。彼女のその独特の年齢不詳感みたいなものが最大に生かされてる映画なんですね。でね、この映画の正体を明かすことができないので、似たような映画を見てる人がわかるような話をします。はい。
(石山蓮華)すごい! 気になるけれど……なかなか聞けない。
『嘘を愛する女』
(石山蓮華)ええっ! そうなんですか?
(町山智浩)これ、実話なんですよ。
(町山智浩)いや、それすらもわからないんですけど。言えないんですが。そういうことがね、結構あって。日常の中にね、突然落とし穴があるっていう感じなんですよね。でね、あとね、『さがす』っていう映画はご覧になってますか?
(でか美ちゃん)気になったけど、見れなかったんですよ。公開時期に。
(石山蓮華)私も見てないんですよ。
(町山智浩)ああ、本当に? 『さがす』はすごいですよ。これ。
(でか美ちゃん)めっちゃ面白そうだった。予告とかも。
『さがす』
(石山蓮華)市子は市子ではない?
(町山智浩)小学生の頃に友達だった女の子が「あの子、月子って言ってたよね?」って言うんですよね。「どういうことだろう?」って。
(石山蓮華)気になる! えっ、なんかすごい、どんどん気になっちゃう。
(町山智浩)怖い話なんですよ。で、どうも彼女は自分の本当の名前も言うことができない人生を生きてきたらしいんですね。
(でか美ちゃん)単純に嘘をついて、彼氏を騙して……とかじゃないっていうことですもんね?
(町山智浩)人から愛されたりすることもできないし、世の中の表に出てくることもできない人だったことがわかってくるんですよ。市子は。
(石山蓮華)もうなんか、頭の中でどんどんどんどんいろいろ考えちゃいますね。
(町山智浩)人から愛されたりすることもできないし、世の中の表に出てくることもできない人だったことがわかってくるんですよ。市子は。
(石山蓮華)もうなんか、頭の中でどんどんどんどんいろいろ考えちゃいますね。
戦慄すべき6分間
(町山智浩)そうなんですよね。『おちょやん』なんかもすごく朝ドラの流れからすると信じられないくらい悲惨な目に遭うんですよね。でも、ちゃんとそれをなんていうか、ひとつの幸せとして、結末に導いたというのは彼女の演技力だったと思うんですよ。朝ドラって実際はね、悲惨な話とかもインチキして、歴史を捻じ曲げていい話にしちゃってるんですよ。NHKの朝ドラって。いっぱいありますよ。本当に。だから整合性がなくなったりするんですよ。笠置シヅ子さんの描き方とか、同じ朝ドラの中で全然違ってるんですよ?
(でか美ちゃん)なんか一応、史実を基にしつつの、なんかフィクションだけど……みたいな。朝ドラってちょっと不思議なテーマがありますよね。
(町山智浩)そうなんですよ。でも彼女はね、あれだけ悲劇的な話をちゃんと朝ドラの枠の中に収めるだけのね、すごい人間的な深い演技ができる人なんですけど。この戦慄すべき6分間の最後はね、「ありがとう」という言葉で終わるんですよ。
(でか美ちゃん)全然予想つかないな。マジで。
(石山蓮華)本当に今、いろいろと「これか? あれか? こういう説か?」って考えちゃう。
(でか美ちゃん)これは見ないとですね。
(町山智浩)それで今、後ろで『にじ』っていう童謡がかかってるんですが。これは『にじ』なので幸せや夢を歌ってるんですけど。これもね、この映画を見た後ではもうそういったものとして聞くことも歌うこともできなくなるような映画なんですよ。
(でか美ちゃん)本当に幼稚園や保育園で歌っていそうな。
(石山蓮華)みんな、手を繋いで揺れながら歌いそうな感じだけど。
(町山智浩)そうなんですよ。だからこういった夢とか幸せから落っこちてしまった人もいる。そこに引っかかれない人たちもいるんだという話でね。この『市子』は強烈な映画で。ただ本当に宣伝に苦労してるんで、何も言えないという(笑)。これはもう、見てもらうしかないですね。
(でか美ちゃん)とにかく劇場に見に行った人たち1人1人が見て、おのおの感じると思いますけど。口コミしていくしかないですね(笑)。
(町山智浩)口コミ以外にできないんで。本当に監督からみんな、困ってると思いますよ。
(石山蓮華)でもそれだけ、語りたくなる魅力にあふれてるんですね。
(町山智浩)はい。本当に強烈な映画なんで、ぜひ今週公開なんで。ご覧いただければと思いました。
(石山蓮華)今日は今週8日(金)に公開になる映画『市子』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)ありがとうございました。
にじ