歌舞伎 (暫) 05-2003 市川團十郎, 尾上菊五郎, 市川左團治, 河原崎権十郎, ~ | 七梟のブログ

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歌舞伎 SHIBARAKU (暫) 05-2003 Version 市川團十郎, 尾上菊五郎, 市川左團治, 河原崎権十郎, 市川男女蔵, 坂東三津五郎, 片岡市蔵, 市川團蔵, 尾上松助,片岡亀蔵

 
歌舞伎の演目「暫(しばらく)」とは?初心者が楽しめるポイント
 
歌舞伎の登場人物で、一番派手で強くてかっこいいスーパーヒーローと言えば、「暫(しばらく)」の主人公・鎌倉権五郎かまくらごんごろうで間違いないでしょう! 豪勢で巨大な衣装に派手な隈取顔と蟹の足のような異様な髪型は、ひと目見たら決して忘れられないインパクトがあります。

歌舞伎は初心者という人でも、見れば歌舞伎の魅力に一気にハマってしまいそうな人気の演目「暫」の魅力を解説します。
 
 
 
「暫」とは歌舞伎一の痛快なヒーロー物語!
 
「暫」の第1の魅力は、そのストーリーの痛快さにあります。

歌舞伎が始まった江戸時代は、娯楽そのものが今ほど多くなかったので、歌舞伎はとても人気がありました。その中でも「市川團十郎」という役者は、「江戸の氏神」と言われるほど崇拝され、その「にらみ」で病が吹っ飛ぶと言われるほどでした。

そんな人気のある役者が演じる「暫」という演目は、たくさんの手下を引き連れたボスキャラに今にも殺されそうな善良な人たちを、突如現れた一人の若武者が圧倒的な強さで救い出し、悪人たちはその強さにタジタジとなるという、いかにも正義のヒーロー物という感じの荒事のお話です。歌舞伎の他の演目を見ても、これほどわかりやすい単純明快な勧善懲悪ストーリーは見当たりません。

昔からヒーローが弱きを助け悪をくじくのは、弱い立場の庶民にとっては最高のエンターテインメントです。「暫」も江戸の庶民たちに大喝采を浴び、現代では歌舞伎の醍醐味を堪能できる人気演目となっているのです。

ちなみに、暫は登場人物などの設定を変えたバージョンも存在します。主人公が鎌倉権五郎でなく熊井太郎だったり、女が主人公の「女暫」という演目では巴御前ともえごぜんとなっています。
 
 
 
 
「暫」のつらねとセリフに注目
 

」の第2の魅力は、そのセリフの爽快さにあります。

主人公・鎌倉権五郎が登場するとき、「しーばーらーくー!」という大音声が聞こえてくると、敵方はみな何事かと慌てふためきます。

登場した権五郎は、なかなか本舞台に上がってこないで、花道の上で威勢のいい「つらね」と呼ばれる長セリフを披露します。そして敵方の鯰坊主の要求に対して、「いーやーだー!」とまるで子供のような無邪気さで答えます。

敵方が「あーりゃ、こーりゃ」という、化粧声と呼ばれる荒事特有の掛け声をかけて、なぜかヒーローの登場を盛り上げるのも面白い趣向となっており、最後は敵を倒した権五郎の「よーわーむーしーめーらー!」という爽快な捨て台詞が舞台に響きわたり、「ヤットコトッチャ、ウントコナァ」という掛け声と共に花道を引き上げていくなど、セリフの聴き応えも抜群の演目です。

 

 

 

 
あらすじ

天下を我が物にしようと企む、中納言・清原武衡は、大勢の手下を引き連れて鎌倉の鶴岡八幡宮で宝剣を奉納し、天皇から関白となる命令を受けようと悠然と構えていました。そこに失った家宝の「国主の印」を探している加茂次郎義綱と許嫁の桂の前の一行が、朝廷の繁栄を祈って大福帳と掛額を八幡宮に奉納しようと現れます。

かねてから加茂家との因縁があった武衡は、義綱に言いがかりをつけて自分の家来になれと脅し、桂の前には自分の女になれと迫ります。しかし、二人が言うことを聞かないので、手下の成田五郎らに首を刎ねるよう命じます。

義綱一行が絶体絶命のピンチに陥ったまさにそのとき、「しばらく〜」という大音声が聞こえ、悪人たちが動揺している中に、颯爽と鎌倉権五郎が登場します。

邪魔された武衡は手下たちに権五郎を排除するよう命じます。鯰坊主、女鯰、四天王、奴たちが次々と権五郎に立ち向かいますが、まったく歯が立ちません。さらに権五郎は武衡が本当は皇位を狙う悪人であることと、その悪事を次々とバラし、奉納した宝剣も偽物だと断言します。

怒った武衡は「国主の印」がなければ身動きはならぬと言い立てますが、実は間者(スパイ)だった女鯰・照葉が、武衡が隠し持っていた「国主の印」を取り戻し、さらに本当の宝剣・雷丸も小金丸行綱によって届けられ、武衡の悪事が白日の下に晒されます。

ぐうの音も出ない武衡を尻目に、権五郎が「国主の印」を取り戻した義綱一行をその場から逃がすと、武衡の手下の仕丁たちが権五郎を取り囲みます。しかし、権五郎の大太刀が一閃すると、仕丁たちの首はすべてはねられてしまいます。

悪を成敗した権五郎は、大太刀を構えて意気揚々と花道を去って行くのでした。
 
 
 
「暫」の衣装は歌舞伎一の大迫力
暫の主人公・鎌倉権五郎の衣装
」の第3の魅力は、その衣装の豪快さにあります。主人公の鎌倉権五郎の巨大な衣装の総重量は、なんと60キロ!とにかく動くのも大変そうな重装備ですが、上から順に説明していきます。
 
  1. 呪力を宿した力の象徴でもある白い「力紙ちからがみ
  2. 前髪は少年である印。本来は中心から分かれているが、「わけ櫛」で分け目にしている
  3. 車海老をイメージした「五本車鬢ごほんくるまびん」という髪型
  4. 隈取は荒事の典型的な最も力強い「筋隈すじぐま
  5. 結び目の先端や輪っかを上にピンと跳ね上げた「はねだすき
  6. 袖は成田屋の家紋の三升の紋を染め抜いた「大紋
  7. 7尺(2メートル)はあろうかという黒塗りの「大太刀
  8. 高さ30センチもある「継ぎ足
敵方の役も曲者ぞろいです。真っ赤な顔の「赤っ面あかっつら」と呼ばれる隈取で、赤い大きな腹を出した「腹出し」と呼ばれる、乱暴者の成田五郎と五人の手下。鯰のようなヒゲの隈取に、タコの足の衣装を着た「半道敵はんどうかたき(半分道化で半分敵役)」の鯰坊主こと鹿島震斎入道かしましんさいにゅうどう。位の高さを表す「金冠白衣きんかんびゃくえ」という衣装を着た、禍々しい「公家荒れ」の青い隈取をしたラスボス清原武衡きよはらのたけひらなどなど、個性的なキャラクターの衣装や隈取にも注目です。