町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』2019/1/15の中で映画『女王陛下のお気に入り』について話していました。
(町山智浩)女王陛下の話ですから。あとは撮影賞や脚本賞あたりは確実に取るんじゃないか?って言われているような映画なんですよ。で、どういう映画か?っていうと、二大アカデミー賞女優がいまして。レイチェル・ワイズという女優さんとエマ・ストーンという女優さん、2人のアカデミー賞女優の対決映画です。で、一言で言うとイギリス版の百合版『大奥』です。
『女王陛下のお気に入り』予告編
(町山智浩)アカデミー賞のシーズンになりますので、賞を取りそうな映画をどんどん紹介していきます。今回は『女王陛下のお気に入り』という映画を紹介します。これはもうすでに賞レースの中でかなり、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を取ったり、あとはこの映画が取るだろうと言われているのはコスチュームデザイン賞。
(町山智浩)舞台は1708年のイギリスです。で、イギリスはその時にスペイン継承戦争っていう戦争をフランスと戦っています。スペインで王様に跡継ぎがいなかったんで、その血縁であるフランスの王様が「じゃあ次のスペインを継承するのは俺だ!」って言い始めたんで、それをイギリスが阻止しようとしてヨーロッパ全土を巻き込むような大戦争になったんですね。
(町山智浩)実際にあった話で。このアン女王がすごく贅沢なものを買おうとしている買い物のシーンがあるんですね。で、側近の人に「いま、我が国は戦争中ですから、そのような贅沢はちょっと……」とか言われると「えっ? 戦争してるんだっけ?」って言うんですよ。
(町山智浩)そういう人なんですよ。お嬢さんで、全く世間を知らないんですよ。政治とか全然わかっていないんですよ。で、イギリスって非常に優れた政治家の女王が何人かいますよね? たとえばエリザベス一世とか、イギリスをあれだけの大国にした偉大な政治家がいたわけですけども、このアン女王という人は全く本を読まない人なんですよ。
(町山智浩)政治や社会に全く興味がないし、そういったものを見ようともしない人だったんですね。
(町山智浩)そう。ただのお嬢さん。たまたま王家の血の人だから女王になったんですけど、そういう資質のある人ではないんですよ。でも、しょうがないんですね。他にいないから。
(町山智浩)『大奥』です。ただ、お殿様は女王陛下です。
(町山智浩)歴史的にすごく難しい映画かな?って思うと思うんですよ。こういう話を聞くと。でも、そうじゃなくて『大奥』として面白がって見るような映画なんで。たとえば歴史的にあんまりごちゃごちゃ言ってもしょうがないと思うのは、王宮の中でダンスするシーンがあるんですね。ダンスをしているのはすごいドレスを着てやっているんですけど、マドンナが昔やっていた「ヴォーグ」っていうダンス、ありますよね?
(町山智浩)そのヴォーグをしたり、あとはわかりやすいのは『サタデー・ナイト・フィーバー』のディスコダンス、あるじゃないですか。あれを王宮のダンスのシーンでやるんですよ。
Madonna - Vogue (Official Music Video)
(町山智浩)これはね、歴史に結構忠実らしいんですけど。男の人たちはカツラをかぶった上に、その顔におしろいを塗って口紅をつけて、つけボクロをしているんですよね。つけまつ毛とかもしていて。まあ、すごいことになっているんですけども。
(町山智浩)もっと面白がっていいよっていうところでもあるんですね。ただ、ものすごくグロテスクなシーンも多くて。というのは、この貴族の男たちが本当に気持ち悪いんですよ。
(町山智浩)政治的な戦いの話ではあるんですよ。実はスペイン継承戦争をめぐって、2つの派閥が戦っていまして。その当時は議会政治の始まりの頃なんですよ。立憲君主制になっていた頃なんで、政党はあるんですね。で、その戦争に反対する政党と戦争を継続しようとする政党の政治的な戦いが王宮の中で行われるんですけども。その戦いにこの女性2人の葛藤が巻き込まれていくっていう形なんですね。
(町山智浩)だからこれですごく画面は絶対にこの王宮から一歩も出ないんですけど、この王宮の中での変な貴族たちのふざけた人間関係の結果として、戦争で何百万人も死んでいるんですよ。実際は。
(町山智浩)それがまあ、逆に見えないんですけど、想像をすると怖くなるんですよ。この人たちの「あの人が嫌い!」「あの人が好き!」とかっていうそういうので10万人とか死んじゃうんですよ。
(町山智浩)結果として、戦争が動くんでね。基本的にはこの映画、コメディーなんですよ。
(町山智浩)コメディーなんです。これ、ゴールデングローブ賞でもコメディー部門なんですよ。
(町山智浩)コメディー部門です。分類は。だから、ギャグとしてほとんどのシーンを撮っているんですよ。これ、監督がヨルゴス・ランティモスっていう人なんですけども。この人はずーっとコメディーばっかり撮っているんですが、それが笑うに笑えないコメディーなんですよ。
(町山智浩)苦笑いコメディーしか撮らない人なんですよ。
(町山智浩)いや、日本にも結構ありますけどね。だからたとえばいちばんこの人の映画でわかりやすいのは『ロブスター』っていう映画なんですね。これ、話しましたよね?
映画『ロブスター』予告編(1916年)
(町山智浩)『ロブスター』。この映画はね、ヨルゴス・ランティモスっていう監督の3作目にあたるんですが。オールスター大作になっていますね。大作でもないですが。ハリウッド俳優のコリン・ファレルが主演で。で、相手役。ヒロインがレイチェル・ワイズ。この人、アカデミー主演女優賞をとっている名女優ですけども。あと、『007 スペクター』のヒロインでボンド・ガールだったレア・セドゥ。と、『007』でかわいこちゃんの秘密兵器開発者のQを演じていたベン・ウィショーっていう、まあすごい大スターが揃っている映画なんですね。
(町山智浩)どういう映画か?というと、はっきり言うと、彼女ができないやつは罰として動物に変えられる世界の映画です。
(町山智浩)彼女や彼氏がいないと、それは人間としてダメだから。もう人間として生きる価値がないから、人体改造手術によって動物に変えられて、狩りで狩られて食われて死んでしまうという。
(町山智浩)で、『ロブスター』っていうのは、ただ変えられる動物だけは選べるんですよ。で、『何になりたい?』って言われたら、この主人公のコリン・ファレルが『僕はロブスターになりたい』って。
(町山智浩)ロブスターっていうのはね、なんか、寿命が120才ぐらいまであるらしいんですよ。
(町山智浩)で、『静かに長生きできるから、ロブスターがいい』って言うんですね、彼は(笑)。地味な性格すぎるだろ、お前!?それじゃ彼女、できないよ!っていう話ですけどね。はい。で、これ主人公のコリン・ファレルが奥さんが亡くなってしまって独り身になっちゃうんですよ。で、独り身担ったら、45日間以内に新しい彼女、ないし妻を見つけないと、動物になっちゃうんですよ。彼の場合はロブスターです。
苦笑いコメディーの名手 ヨルゴス・ランティモス監督。
(町山智浩)おかしいでしょう? 笑うしかないですよね? これね。でも、笑えないんですよね。こういう笑うに笑えないコメディーを作り続けている人がこのヨルゴス・ランティモスっていう監督なんですよ。だからこの『女王陛下のお気に入り』もね、「ハハハ……」ってこう失笑するというか、ため息をつくような笑いが連続して起こるというね。すごく……でも、『大奥』ってそうじゃないですか。
(町山智浩)『大奥』の中でよく出てくるセリフで「私たちは大奥という牢獄に閉じ込められているんです」っていうのがあるでしょう?
(町山智浩)ねえ。「ここは女たちの牢獄です」って言うじゃないですか。この女王も王宮という牢獄に入っているんですよね。
(町山智浩)そう。だって誰も女王を愛していないんだもん。彼女が王家の血を持っているからチヤホヤしているだけで、誰も自分を愛していないっていうことを知っているからものすごく辛くて。そのへんはね、結構かわいそうなんですけどね。一歩間違っちゃうと志村けんのバカ殿になっちゃうようなギリギリのところで非常に深いドラマにしているなって僕は思いましたけど。ただ、これを演じたオリビア・コールマンっていう女優さんが言っているんですけど、「私自身は自分の女王という役をドナルド・トランプだと思って演じました」って言っているんですよね。
(町山智浩)「政治のこともよくわからないのに国のトップになっちゃって、わけがわからなくて癇癪を起こして。身内ばっかり味方につけて、身内の言うことだけを聞いているんだけど……」っていうね。
(町山智浩)そうそうそう。で、いつもギャーギャー言っているっていう。「トランプのつもりでやりました」っていうことを言っているのが面白いですね。
(町山智浩)そう。大統領のお気に入りの言う通りにして……みたいな。で、国自体を傾かせるっていうね。どこにでもありますよ。日本でも、なんか世間知らずのお坊ちゃんが政治を振り回したりするじゃないですか。どこででも起こっているっていうね。全然古い問題じゃないですよ。