福島事故 2024 その7: 引火
毎年恒例の事故の話、同じ内容になりますが、視点を変えてみる努力をしながら、問題点を挙げてみようと思います。
東電のサイトから。
露出した燃料棒の表面温度が崩壊熱により上昇したため、燃料棒の表面が圧力容器内の水蒸気と反応して、大量の水素が発生しました。格納容器の損傷部(温度上昇によって生じた蓋接合部等の隙間と考えています)から漏れ出た水素は、原子炉建屋上部に溜まり、何らかの原因により引火して、津波襲来から約24時間後の3月12日午後3時36分に爆発しました。また、溶融した炉心が圧力容器の底を貫通し、格納容器の床面のコンクリートを侵食しました。
「何らかの原因により引火して」
いまだに原因不明?
燃料棒の破損が起きた時の温度を、セシウムが気化した後の700℃としてみます。
燃料棒から吹き出たセシウムの温度は700℃。
水蒸気の温度は290℃ですから、作られた水素と水酸化セシウムの温度は500℃。
吹き出したキセノンの温度は不活性ガスですから外部の影響は受けず700℃。
水酸化セシウムは水蒸気と絡み合って水酸化セシウム親和水蒸気が作られますが、絡んだ水の分子の量が多いので温度は320℃程でしょうか?
大量に生成された水素で圧力容器の圧力は一気に高まり、気体が排圧弁から格納用に排出されます。
排出時の温度は、
キセノン 700℃
水素 500℃
水酸化セシウム親和水蒸気 320℃(推)
水蒸気 290℃
これらが圧力抑制プールの水をくぐって格納容器に排出されました。
圧力抑制プールの水の温度はどれ程だったのか?
原発運転時は圧力容器の表面の温度は中の水蒸気の温度の285℃、この熱が格納容器に放射されます。
圧力抑制プールは格納容器に繋がっていますので熱が伝わって来ることになります。
風呂の湯くらいの暖かさはあったでしょう。
圧力抑制プールは燃料棒の破損に至るまでの水位の減少分だけ290℃の蒸気が通過していました。
150トン分の蒸気が排出されて、多くが圧力抑制プールで液化したとすると、水の温度は30℃ほど押し上げられます。
高温の気体が通過の瞬間にどれ程の熱を奪われるのか?
75気圧以上の圧力で一瞬で通過しますから、気体の温度は幾らも下がる事はないと思われます。
11日の20時~21時頃に燃料棒の損傷が起こり、圧力容器から気体が格納容器に噴出しました。
ベントが実施されたのは12日の14時30分ですから、気体は17時間30分ほど格納容器に滞在した事になります。
気体はベントが実施されるまで格納容器の壁に冷やされながら温度を下げて行きました。
700℃で燃料棒から噴出したキセノンは建屋に還流した時の温度はどれ程だったのか?
500℃で圧力容器から噴出した水素は建屋に還流した時の温度はどれ程だったのか?
私には計算できません。
格納容器に触れた部分はどんどん温度は下がって行くのでしょうが、圧力容器に触れた部分は下がりそうもありません。
燃料ペレットが圧力容器の底に落下して底に水がなかったら、圧力容器が熔けるほどの話なら、真っ赤になった容器に触れて、却って温度は上昇するのかもしれません。
気体の熱伝導度からして17時間以上経っているとは言え、それ程冷えていないような気もします。
ここでは建屋に還流した気体の温度を「仮に」キセノン500℃、水素300℃、水蒸気200℃として考えてみます。
還流して10℃の空気で満たされた建屋に吹き出した気体の内、軽い水素は一気に建屋の上部を占めます。
次に軽いのが空気なのですが温度が10℃、高温のキセノンや水蒸気、水酸化セシウム親和水蒸気が空気の上を占めます。
空気は上層のキセノンや水蒸気に暖められて温度が上昇します。
空気が一定温度に達すると上部の気体との入れ替わりが起こります。
空気が水素との境界に達しても軽い水素と交じり合う事は無いのですが、境界部分だけは高温の為に分子運動で交じり合いが起きます。
空気の温度が100℃になっていたとして、300℃の水素と混ざり合ったらどうなるのか?
接し合って直後に境界で破裂が起きました。
温度の問題だけなのか、下からキセノン133やセシウム137が発するガンマ線の応援がなければ破裂しなかったのかは分かりません。
1号機では12日14時30分にベントが行われ、15時36分に破裂が起きています。
空気とキセノンや水蒸気の入れ替えに1時間6分を要したということです。
1号機では上部のベント管から気体が排出された為に、最初は水素を主体とした気体が建屋に吹き出しました。
空気との交じり合いで破裂が起きても良さそうなのですが、空気の温度が低すぎたのか?応援のガンマ線の量が足りなかったのか?破裂は起きなかったようです。
噴出孔の位置や形状により、十分な交じり合いが起きなかった可能性もあります。
「何らかの原因により引火して」
特別な「原因」があった訳ではありません。
破裂の条件が整ったから破裂が起きたのです。
実際の温度は上記の仮定とは差があるのかも知れませんが、高温の水素と空気(酸素)が層をなした境界にガンマ線を照射すれば破裂が起きて当然なのです。
福島第一原子力発電所事故の経過と教訓
https://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline/
1号機の事故について
https://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline/2_3-j.html