以前一度読んだことがあるが、数年前に新装版が出ていたので購入した。
やっと時間ができて、気力も回復しつつあるので再度読んでみた。
700ページほどもある長編なので読み切れるか心配だったが、思った以上に捗った。
しかし内容が複雑なのでちゃんと理解できているかは判らない。
覚えていたのは登場人物の名前くらいで、読み進めていくうちにあれ?こんな話だったっけ?とまるで初めて読むような感覚だった。
なので先入観なしに読むことができた。
現時点での感想を記しておく。
コンピュータで管理されビルディングだけしかない鐶(わ)の星では13歳の少年たちが生活している。
名前はあるが、彼らは登録番号で管理されている。
アナナスとイーイーが同室でジロとシルルが同室だ。
彼らが主な登場人物になる。
4人は13歳になり児童宿舎から生徒宿舎に移った。
その夏休みに起こった出来事が小説になっている。
ビルディングの中にはどこでもスクリーンがあり、いつでも映像が映っている。
映像と音は別管理で映像と音は一致していない。
アナナスはママとパパがいるはずの「碧い惑星」の映像を見て、その星に子供っぽい憧れを抱いていた。
しかしイーイーは真実を知っていて醒めている。
アナナスは時々意識が飛び、忘れっぽくなる。
イーイーのこともよく知らないと思い込んでいる。
この星の管理者のことをアナナスは知らないが、イーイーは大体知っている。
管理者としてヘルパー、同盟、ホリゾンアイ、AVIANなどがいるようだ。
ハッキリと登場しないものもいるので、それらの実体は不明である。
イーイーとシルルは精油がないと生きていけない身体だ。
イーイーはヴィオラの精油でシルルはジャスミンの精油が命綱だ。
それさえあれば彼らは生きていける。
アナナスは普通の人間ぽいが味覚と臭覚が欠落している。
アナナスは時々記憶が曖昧になり、少し前のこともすぐに忘れてしまう。
頭がぼーっして突然眠ることがある。
イーイーは頭脳明晰で運動神経もずば抜けている。
アナナスの前では眠ることはない。
アナナスはイーイーのことを常にもっと知りたいと思っている。
イーイーはアナナスがいずれ自分のことも忘れてしまうのではないかと時々不安になっている。
彼らは名前のついたスマホのような機械を持っている。
アナナスのはCANARIA、イーイーはROBINという。
アナナスはイーイーとシルルが2人にしか判らない暗号を使い通信していることを知り、シルルに敵意を向ける。
イーイーの中で自分が一番になりたいのだ。
ジロとは最初から反りが合わない。
このビルディングの中で様々な人間模様が織りなされていく。
ビルディングの中では気温も天候も快適に設定されている。
服は支給され必要がなくなれば処分される。
チケットを配給されるが紙ではなく機械の中で精算される。
この星ではゴミが殆ど出ない。
なのに大きなダストシューターが設置してされている。
アナナスはそれがなぜか知りたがっている。
何しろ記憶を奪われているのだから解らないことばかりなのだ。
そのうちイーイーの体調が変になる。
タフなはずなのに眠り込んだり疲れていたり、バランスを崩したりする。
管理者に対して反抗的なイーイーに罰として精油が配給されなくなってきたのだ。
手持ちのものを少しずつ使って凌いできたが時間の問題になって来た。
きっと碧い惑星に行けば手に入ると思い込んだ2人は脱出を試みる。
ロケットがあるという屋上のゾーン・ブルゥに行けば飛び立ち15億光年離れた碧い惑星に着くと思い込んでいた。
アナナスがたまたま迷い込んだゾーン・ブルゥはシンと静まり返ってロケット発着の形跡はなかった。
コンピュータで管理されて安定しているはずの気温が変動したり、アナナス以外の人達に異変が起きて物語が佳境に入る。
とにかく色んなことが起こるのだ。
ここまでがあらすじでここからが感想というか考察というか覚書ぽいものになる。
アナナス、イーイー、シルル、ジロは人間なのか?
イーイーとシルルは最初からロボットめいている。
アバターなのかもしれない。
真の管理者は誰なのだろう?
もしかしてAVIAN(コンピュータ)ではないのか?
時間も便宜上碧い惑星に合わせて流しているだけで、有って無いようなものだ。
上も下もない輪のような世界だ。
この世界ではママとパパに手紙を書くことを強要されている。
アナナスはまめに書いている。
その日付が一番最後にはまた最初の時間に戻っていることからまた夏休みの最初からやり直すのだろう。
イーイーとシルルはそのことを知っていたようだ。
都合が悪くなるとADカウンシルは生徒の記憶を消去する。
それでアナナスは記憶に欠落があるのだ。
しかしイーイーとシルルはしっかりと覚えている。
〈クロス〉をしているとAVIANには計算外になり、挿入ができなくなる。
それでイーイーは記憶が残っているのかもしれない。
なぜだかアナナスの手首にはリングがはめられていた。
それが彼の不調の原因だったのだ。
イーイーがそれをすり替えたことで今度は彼の体調がどんどん悪くなり身体の自由がきかなくなった。
リングがロケットの鍵であることもイーイーは知っていた。
イーイーはアナナスが思うよりもずっとアナナスのことを想っている。
シルルもそのことを知っている。
シルルはイーイーのために消されてしまった。
イーイーもいつか自分も消されると知っている。
夏休みが終わるとリセットされるのだ。
アナナスはテレヴィジョンで放送される「アーチイの夏休み」という連続もののフィルムを楽しみにしていた。
それはママのいる碧い惑星にあるカナリアン・ヴュウの映像だ。
その中に登場するアーチイとファン・リという2人の少年も重要人物だ。
アーチイとファン・リはアナナスとイーイーの前世(前の設定)ではないのだろうか。
イーイーが崩壊し始めて意識が朦朧とした時にファン・リとアナナスのと思い出の「ハルシオン」の名を口走っている。
記憶が蘇ったのではないか?
イーイーはずっとアナナスのスピリットに深い想いを抱いていたのだ。
イーイーが作中でアナナスに最期に捨てるのはボディかスピリットかと悩むことになると言っている。
アナナスはボディだと答えた。
それでイーイーはボディを捨てスピリットを残したのだろう。
彼のボディはカナリアン・ヴュウにある。
ひと夏のゲームが終われば管理者はアバターとスピリットを入れ替えて、また最初から始めるのだろう。
今回はアナナスが最後まで残ったので彼だけはそのままなのではないか。
新しい夏がスタートした時にアナナスは元のイーイーのNo.に手紙を書いている。
No.はイーイーのものだが、別のアバターになっている可能性もある。
イーイーという名前は出てこなかった。
新しいゲームではカナリアン・ヴュウには自由に行けるようになっていた。
ひとりでそこに着いたアナナスはなぜだか涙が止まらなくなった。
その場所住むイーイーらしき少年とは近くにいてもお互いを認識できない。
あのボディとスピリットではもうないのだ。
しかしスピリットだけは彼の傍にいるのだろう。
例えアナナスが忘れたとしても暗号を残している。
それはイーイーからの手紙だ。
イーイーとシルルの記憶が残っていたのはなぜだろうか?
アナナスは欠落していた。
恐らく精油が関連しているのではないか。
ジロは精油を飲むとイーイー(紫)やシルル(銀灰)のような瞳になるが、アナナスは精油を飲んでも変化しない。
記憶が残っていることは管理者は把握しているのだろうか?
イーイーやシルルに指示していることから分かってはいるようだ。
アナナスの記憶だけがどんどん失われていくのだろう。
管理者は彼らを使って実験というか遊んでいるようだ。
もしかすると人間らしい感情を持ち合わせていないのかもしれない。
次のカナリアン・ヴュウでの上映作品は「アイビスの秘密」らしい。
イーイーのボディが主人公のようだ。
イーイーの残したアナナスへの暗号は「ことばは消えても文字は残る……、それがぼくの望みだ」(『テレヴィジョン・シティ』頁694.2)
暗号だったのにこの文字が読めるということは、もう前のアナナスではないということだろう。
イーイーのNo.の人とは前と同じような関係なので、それがイーイーのスピリットであることを願う。
この作品は謎が多く難解であるので何通りでも解釈ができる。
読む度に新しい発見があるのかもしれない。
次はイーイーの心理を読み解いていくのも面白いかもしれない。