これは追いかけて欲しいのだナと思うが、
クセになるといけないので追いかけない。
イッちゃんは私に抱かれたことはない。
悲しい。
……
去年あたりから、他の小さい子が私に甘えて遊んでいると、
指を口にくわえて、じっと見ている。
これをやめさせなければ。
産んでくれたお母さんに死なれ、お父さんはわからず、
籍だけ、パキスタンの人。
それじゃかわいそう。
……
イッちゃんに、愛する人を見つけさせなければならないと思っていた。
……
誰から抱かれにくるか、見ていると、
小さい子を、手でどけて、
イッちゃんが私のそばまで来て、
また、後ろを向いた。
抱かれたくて、抱かれたくてならないイッちゃん。。
また先頭に出た。
私は職員に見られてもいいや~と思って、転がった。
ワッと私の上に上がってきたチビふたりの中で大手を広げて、
「イッちゃん、さあ、ここにおいで」
その時、初めてイッちゃんは声を上げて、
両手をまっすぐ広げ、
まっすぐ私の胸に飛び込んできた。
私の胸に顔をすりつけ、
私の顔に自分の顔をすりつけ、
ぎゅっと抱いた私の手の中にしっかりつかまった。
私は預かって10年目に
初めてイッちゃんを抱いた。
イッちゃんも抱かれるために飛びつくのに
長い年月が経った。。
……
これほど小さいとは思わなかった。
これほど細いとは思わなかった。
私は大切に見よう。
抱かれることを知らなかったイッちゃん。
まっすぐ飛び込んでくることを知らなかった子は
ひとりもあってはならない。
愛されることを知らなかった子は
愛することを知らない。
心からの愛は、きっと心に通じる。
私はそう思う。
人を信じることができるよう、教育しよう。
『まり子のねむの木45年』より
宮城まり子さん。。

*本日のあじさい
今日は子供の運動会、雨で延期。。