整形外科疾患と皮膚は非常に関係が深く、シビレや痛みの部位から脊椎疾患の責任神経レベル判定や、皮膚色、熱感、発赤、圧痛、内出血痕から、炎症や骨折の有無を推察します。

また皮膚疾患と整形外科疾患は、一見関係が無さそうですが、皮膚疾患の有無が整形外科疾患の診断に有用な事が多々あります。皮膚症状から整形外科疾患を指摘することは困難ですが、整形外科症状から皮膚疾患を推定する事は比較的容易です。

帯状疱疹:最近、テレビのワクチンCMでおなじみですが、コロナ禍から患者数が劇的に増えています。赤い湿疹と強い痛みが出れば診断は容易ですが、湿疹が出ない帯状疱疹の方が多いと思います。ヒリヒリ・チクチク感は、上肢は縦、胸部はやや斜め、肩甲骨周囲、体幹は横、下肢は縦~斜めに広がります(図1a,b)。胸部であればほぼ帯状疱疹ですが、肩甲骨周囲と上肢は頸神経根炎(正直整形外科「頸部痛のトリビア:各論 頚椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア」図3参照)と、下肢は腰神経根炎(正直整形外科「身体から出される赤信号、黄信号」図2参照)と区別することが困難です。整形外科受診時のMRI撮影でヘルニア像があれば、ついつい頸・腰椎ヘルニアと診断されがちです。

鑑別のポイント:頸・腰神経根炎の場合は、痛みを和らげるために、自然と筋肉の隙間を指で押す動作をします。頸椎後屈や腰椎前屈で症状が悪化し、就眠時に腕を頭上に挙げたり、膝を曲げると症状は和らぎ、1-2か月程度で軽快方向に向かいます。帯状疱疹は疲れや体調不良による免疫低下に引き続き生じ、自然と皮膚を摩る動作をし、症状は1-2週程度で軽快します。

掌蹠膿疱症、SAPHO症候群:掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏側に膿疱(小さい水・膿の入った袋状のもの、水ぶくれ 図2a,b 水色●)が出来る病気です。SAPHO症候群は掌蹠膿疱症に合併し、前胸壁(肩鎖関節、胸鎖関節・胸骨柄結合部 図2a赤)や、脊椎、仙腸関節に痛みを生じ(図2b赤)、症状は消退を繰り返し、レントゲンでは関節が硬くなる像が特徴的です。

SLE:SLEは顔面の蝶形紅斑(図3a赤)が特徴的で、膠原病の一種のためリウマチのような関節炎を引き起こすことがあります。

アトピー性皮膚炎:皮膚は身体全体を覆うだけでなく、免疫バリアの役割も果たしています。よって皮膚表層の炎症は、皮下組織や関節にかけての細菌性炎症を引き起こすことがあります。骨折治療に使用した金属に細菌感染が生じ、骨癒合に拘わらず金属を抜去する場合や、化膿性関節炎を引き起こすこともあります。

乾癬、乾癬性関節炎:乾癬は治癒しにくい皮膚疾患(図3a,bンク)で、手指・足趾、脊椎の関節痛が合併することがあります。通常の関節炎は関節内の炎症ですが、本疾患は腱・靱帯の付着部である関節外に炎症変化が出現します(図3a,b)。乾癬と診断された方は、整形外科受診時に申告すると、診断の一助になります。

神経線維腫:皮膚にカフェオレ斑と呼ばれる発疹が現れ(図4a,薄茶〇)、思春期頃に神経線維腫と呼ばれる腫瘍が皮膚に多発します(図4a,b 濃茶・)。この疾患は側弯症や中枢神経腫瘍を合併しやすく、脊髄神経鞘腫による手足のしびれ・知覚低下・脱力などで日常生活に支障が出れば外科的治療を行います。腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、腫瘍が多発するため何度も治療が必要となり、また手術には危険性や後遺症を伴うので慎重な判断が必要です。

蜂窩織炎:皮膚の発赤、疼痛、熱感、腫れがあり(図4a赤)、悪化すると全身の発熱や体調不良に発展します。皮膚傷や免疫バリアが低下した皮膚由来の細菌や、免疫力が低下した重度糖尿病血液中細菌が原因となります。炎症が重症化すると敗血症に移行し、高熱や悪寒、倦怠感、頭痛どが生じるので、その場合は入院安静と抗生剤投与が必要です。

ミューカチスト:指の第一関節(爪の近く)に水疱が出来る病気です(図5a,b水色)。ヘバーデン結節(正直整形外科「手関節痛のトリビア」図a参照)が原因で、変形した指関節の骨棘部から関節液が漏れて袋に溜まります。水疱だけであれば特に問題はありませんが、水疱が裂けるとダラダラと関節液が漏れ続け、細菌感染を生じると治癒しにくくなります。水疱切除と骨棘(図5a,b濃グレー部分)を削る手術が必要となります。 

下腿静脈瘤:血管がこぶのように盛り上がり、血管が浮き出ます(図6a紫)。症状は下腿の重だるい疲労感、就眠時のほてり感、下腿~足部のむくみ(浮腫)です。通常静脈血は足から心臓に向かって流れますが(図6b白↑)、下腿静脈瘤は立位や座位で静脈血が逆流・滞り(図6c黄色↓)、血管外に血液成分が漏出し、かゆみ、湿疹、色素沈着が生じます(図6a茶楕円)。下腿静脈瘤は良性の病気ですが、同じ静脈疾患である深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)は、血栓が肺、心臓、脳に梗塞を起こす危険な病態です。下腿静脈瘤があると必ず深部静脈血栓症を発症するわけではありませんが、遺伝的に下腿静脈瘤になりやすい人は深部静脈血栓症になる可能性があるようです。静脈血が滞らないよう、運動、筋ストレッチ、筋・リンパマッサージ、安静時・就眠時の下肢挙上など、毎日のケアが重要です。



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皮膚は、暑さ・寒さ・太陽光線・摩擦・毒物などから身体を守るだけでなく、触覚・圧覚・痛覚・温覚・冷覚の5センサーが備わる、身体で最も大きな感覚器官です。皮膚と脳の発生が外胚葉に由来することから、皮膚は脳と非常によく似た機能をもちます。皮膚刺激のすべてが脳に伝達・処理され、脳の命令で皮膚機能を変化させるのではなく、微細な情報は皮膚自体が情報処理し反応しています。また手の皮膚の癒し力は古代から“手当て”として語り継がれ、手は第二の脳と言われるくらいに人間の生活に関与してきました。しかし、コロナ禍に手はウイルスを媒介させる悪役にされ、ことあるごとに消毒液を吹きかけられてきました。先日、近所の幼児がお迎えのスクールバスに乗り込む際、保育士さんが消毒液を子供の手に吹きかけていました。大人でも数年続いた習慣を見直す事が難しいのに、小さな子の未来に、コロナ慣習が大きな影響を及ぼしそうな気がしてなりません。そしてコロナ禍後にインフルエンザやマイコプラズマ、手足口病、帯状疱疹の流行が、連日過去最高と報道されています。人間の進化・歴史は常にウイルスとの戦いで、コンピューター・ウイルス対策ソフトよろしく、その都度免疫をバージョンアップすることこそが大事であると思います。

 

次回は正直整形外科「内科疾患と整形外科疾患」です。