国鉄VS国労!軍艦島にも上陸!左プロダクション/国鉄労働組合「遠い一本の道」左幸子監督・主演 | 東映バカの部屋

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東映制作作品を主体として書いていますが、たまに他の話題も…一人でも多くの東映ファンが生まれる事を望みます!

皆様、おはようございます。

 

 

休み三日目…昨日の夕方から日付が変わる直前迄就寝し、明日からの昼夜逆転に備えています。外は降雨ですが夜でも衣服を調整さえすれば暖房を使用しなくても過ごせる暖かさです。

 

 

 

さて本日は「実力派女優姉妹」の一組である左姉妹の姉・左幸子が監督/主演を兼任した作品で、今年に入り日本映画専門chで複数回放映されています。

 

 

 

「遠い一本の道」昭和52年9月11日公開・宮本研脚本・左幸子監督・左プロダクション/国鉄労働組合の共同制作。

 

 

VHS化作品ですが未DVD化で有料動画配信も行われていませんが、日本映画専門ch内に於いて本日以降、3/23(月)07:00より放映されます(字幕付きHD放映)。

 

 

 

 

 

 

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昭和50年の鉄道記念日に勤続30周年表彰を受けた、北海道で保線一筋に従事して来た井川比左志は或る日の晩、女房の左幸子や実子で同じく国鉄に就職をした磯村建治、同僚等々と共に細やかな祝賀会を開いていた所に、実娘で銀行員の市毛良枝が交際相手で長崎出身の営林署職員である長塚京三を連れて帰省したのですが…左さんが事前にお膳立てをしていたにも関わらず井川さんは「順番が違う!結婚は許さん!」と激怒、更にその態度に対して「お父さんの考え方が間違っていると思う…」と長塚さんが火に油を注いでしまった上、、磯村さんが「親父は表彰を受けないと思っていたのに何故行ったのか?」と咎めた為にちゃぶ台をひっくり返し部屋に籠ってしまいます。

 

 

そして場面は「国鉄職員の嫁に行けば安泰」と「見合いと婚姻が一緒であった井川さんと左さんの出逢いのから勤続30年表彰を受ける迄の回想」に移行、井川さんは「国労組合員として他の職員達の為に先頭に立つ事」を決断し、苦悩と葛藤に見舞われると共に様々な妨害を受けながらも勤め上げます。そして先述の騒動の後、枕木の製造に必要な木材の伐採現場で長塚さんの仕事振りを見て気持ちが変わり…

 

 

 

「国鉄職員とその家族の軌跡を描いた作品」としては東映東京制作「大いなる旅路」が在りますが、この作品は国鉄が協力をしていた為に「家庭は波乱万丈だったものの、国鉄職員としては理想的・模範的な視点で描かれた作品」他、東映東京制作「裸の太陽」は組合活動も描かれてはいたものの何方かと言えば「恋愛と友情の狭間に立たされた若き国鉄職員の葛藤を描いた趣」東映東京制作「大いなる驀進」は「職員同士の連携・信頼関係・恋愛に重点を置いた演出」東映東京制作「喜劇・列車シリーズ」は文字通り「完全なる喜劇」東宝制作「父ちゃんのポーが聞こえる」は「難病物」更に井川さんは松竹制作「男はつらいよ・望郷篇」で国鉄職員を演じられていますが(他に松山省二=現・松山政路が国鉄の機関士役として出演しています)渥美清が「額に汗をかくいい仕事」と絶賛している程度。

 

 

しかしこの「遠い一本の道」は国労が共同制作している為か「組合側の視点での日常を強調した演出」に注力しており、政治色・思想色が相当に強めではあるものの「亭主の収入だけでは家族を養えないばかりか貯蓄もままならない女房達の苦悩と現実…そこで国労と一体になり「駅長に婦人部独自の要求を突き付ける」等々、生活向上に尽力しようとした軌跡」「御用組合による第一組合の切り崩し…両組合の狭間に立たされた職員達が「理想と現実」を天秤にかけ苦悩する姿。そしてこの「組合勢力図」が官舎内・教育機関内にもそのまま持ち込まれ村八分・虐めの温床になっていた現実」(同様の例は警察関係等々にも存在している為、国鉄独特のものではありません)「合理化による人員削減…機械化を拒む古参職員と労務軽減と歓迎する若手職員・上層部の軋轢」等々「話としては知ってはいたが、その凄まじさを実話を元に映像化し、現実を更に深く感じ取る事が出来る貴重な作品」ましてや「国鉄分割民営化によりJR北海道として分社後も現在に至る迄、JR東日本と共に他のJRグループ各社と比較して国労系職員の人数が多く影響力も相当なもの」と言われている「北海道の国鉄職員のインタビューを所々挿入する形での流れ」ですから重みが違う!

 

 

終盤の「営業時間外の深夜に発生した線路上への土砂流出…それを指令室と保線区による総力戦で始発列車の通過に間に合わせる場面」で対立構造は幾分中和されていますが…当作品を鑑賞して感じたのは「国労・御用組合云々ではなく、無責任な政府と有権者の騙し討ちの為に鉄道政策を利用した多くの議員達の犠牲になったのが国鉄でありその職員…或る程度の合理化は止むを得なかったにしても、接客業である以上は他の国策企業以上に民間組織の感覚を確立させなければならない事に気付くのが遅く、更に広く意見を拾い上げずに上の感覚を押し付ける一方になり(過酷な労働下の中で毎年の様に行われる試験・肩書主義・甘い餌で部下をいい様に利用する管理職等々)末期的状況を生み出した事実を開けっ広げに見せている。そしてこの状況下では「生活基盤を優先したい職員・権利獲得の為なら団結を優先させる職員・事勿れ主義の職員」等々による対立構造は常軌を逸して当然」と。

 

 

「旅客運送業で国が大きな影響力を保持していた企業」には、当時は特殊会社であった日本航空が在り、此方も「多数の労働組合が立ち上げられ対立構造も激しかった」と言われていますし「待遇面では国鉄とは雲泥の差」「世界が舞台で広い視野が必要不可欠であった」等々の差異はあるものの「国鉄よりは客側の視点に立っていた姿勢が見える点」から、一定の範囲でいい面を吸収し生かす事は可能であったと思うのですが…そこ迄思考が行き付かぬ程国鉄職員は疲弊していたのでしょうね。

 

 

 

 

 

そして最終盤で「長塚さんが実父・吉田義夫の職務上、幼少期を過ごした地」である長崎・端島、通称「軍艦島」に左さん・井川さん・市毛さんが長塚さんと共に上陸する場面が挿入されているのですが…端島に関しては東映京都制作「冒険者カミカゼ-ADVENTURE KAMIKAZE-」でも上陸を果たしているものの「アクション場面中心」の為屋外が中心、しかし当作品に関しては「学校内の教室に残された自画像」「島内に存在した神社の全景を空中撮影で追う」等々、端島内での実生活風景をより感じられる映像となっているのが物語の内容と同等の見所!

 

 

考えてみると「端島と北海道」「炭鉱夫と国鉄の職員、特に保線等々の現場作業員」との共通点は非常に多く、この端島上陸は更に作品を奥深くする演出として大いに評価が出来ます。

 

 

尚、当作品には「井川さんの先輩作業員」として殿山泰司・駅長として小松方正・保線区に作業の合理化を説明に来る職員として大滝秀治・長塚さんの友人として西田敏行が出演をしています。