皆様、おはようございます。
今晩20時の勤務開始に備え、昼夜入れ替えをしています。昨日は遅めに起床し夕方から仮眠も取り…しかし「久々に堪能しよう!」と、時代劇専門chで放映されていたテレビドラマ「白虎隊・後篇」(昭和61年制作版で日活出身の斎藤武市監督作品。武市監督が演出に携わった映像作品では傑作に入ると思っています)を見逃してしまいました。
録画したブルーレイディスクが在りますから何時でも鑑賞は出来ますが「放映されているとついつい視聴してしまう好きな作品」俺を含めて東北地方に生まれ、現在に至る迄生活の拠点としている者達にとっては「会津戦争の一部始終」は普段から接する機会が多いですので、それも「この作品に魅せられる理由」なのかもしれません(但し、平成19年制作の「白虎隊」は出来の非常に悪い作品の印象が拭えません)。
さて、先日「東宝出身の女優で、昭和42年に小林旭との婚姻後引退された」青山京子の訃報が報道されました。心からご冥福をお祈り致します。
この報道が冷めやらぬ昨日の午後、時代劇専門chで「青山さんの出演作品」が放映されていましたので(「追悼放映」ではなく、先月の時点で既に放映が明らかになっていました)再鑑賞したのですが(今回を含め、鑑賞回数は総計四回です)初見時の今一つの印象は再鑑賞を重ねる毎に少しずつ払拭されていたものの、昨日の鑑賞でやっと「これは傑作」と思える様になりました。
「若さま侍捕物帖・黒い椿」(「若さま侍捕物帳シリーズ」第九弾)昭和36年9月23日公開・鷹沢和善/山崎大助の共同脚本・沢島忠監督・東映京都制作。
DVD化作品で有料動画配信は行われてはいませんが、時代劇専門chに於いて本日以降、1/27(月)13:00・2/16(日)19:00の二回放映されます(字幕付きHD放映)。
保養目的で伊豆大島を訪れていた若様・大川橋蔵は島民の一人である若い娘の丘さとみと出逢いますが、中々心を開きませんでした。それもその筈…さとみさんの実母は江戸から来た侍と恋仲になりさとみさんを出産したものの待てども婚姻の約束を果たしに来ない事に絶望し、さとみさんを残し自害!結果、祖父の水野浩に育てられていました。しかも「狭い島の田舎根性=余所者との間に生まれた不義の娘」と言わんばかりの目で見られ、心に傷を負っていました。そんな時現れた橋蔵御大を「父親では?」と追い回すさとみさんは「橋蔵御大の一言」で心を開いたものの、それが更に島民達の「話の種」にされてしまう事となります。
そして「島内には怨みを抱く者が数知れずであった網元の阿部九洲男の殺害事件」を切っ掛けに、平和そのものだった島では十手持ちの千秋実が中心となり、江戸から橋蔵御大を追っかけて来たお馴染みの沢村宗之助と共に犯人捜しを始めるのですが、さとみさん・水野さんの他にも「旅館兼酒場を営む余所者女将・青山京子と番頭・田中春男」「椿油造りに従事する若旦那・坂東吉弥」「椿油の買い付けに来た江戸の商人・山形勲」「田中さんが兄と称する謎の男・河野秋武」等々、疑いをかけられる人物は多岐に渡り…
俺が初見時に「今一つ」と云う印象を持ってしまったのは「事件が起きた所に橋蔵御大が顔を出すのではなく、先を暗示するかの様な事態(=さとみさんの出生の経緯と実母の自害)が既に存在している」「明朗活発な東映時代劇作品の主役の王道路線と、橋蔵御大のお家芸である「軽妙な台詞回し」が封印されている」「橋蔵御大の殺陣が無く、しかも頭脳勝負に終始しながら「物語の転がし役」に徹し、トップクレジット表記ながらも実質「さとみさん主演・青山さん助演」の趣となっている事」(実際、場面数及び総出演時間はさとみさん・青山さんが橋蔵御大を大きく上回っています)等々が理由だったと考え「沢島監督・橋蔵御大が既存手法に頼らず心機一転、新たな意思を持って徹した作品ならば、俺も頭を無にして鑑賞すれば見方と印象が変わるかも…」と再鑑賞をしたら「傑作」の結論に!
「目から鱗が落ちる」と言えば言い過ぎか?いや、そう言ってもいいです。只、俺と同じく「頭の中を無にして鑑賞する事で当作品の良さに気付かれた方々も多いのではないか?」と…
沢島監督の狙いも「今迄赴いた事の無い伊豆大島を舞台に、ロマンチック・スリラーを遣ろうと考えた」等々「既存手法の打破に挑戦した事」は自著を読んでも明白ですし、後に人気を得た「東映仁侠映画路線」等々でも同じ事を繰り返す結果となったものの「動脈硬化に陥った東映時代劇路線の再活性化を目論んだ新機軸を発案・実行し、風穴を開けようとしたのでは?」と感じさせ、この「沢島監督を始めとする当時の東映制作陣の危機感から生まれた発想力・行動力」は大きな財産として後の人気作品群の動脈硬化時にも大いに参考とされ、また生かされたと考えます。
しかし「沢島監督自身が自信を持って送り出した当作品」の公開当時の評価は「低かった!」ともお話をされていました。これは「明るく楽しく、単純明快な勧善懲悪の娯楽時代劇を好んだ、当時の東映の客層の嗜好」を思うと「娯楽志向を最小限に留め、本格的ではあるものの複雑怪奇な印象を持たれてしまう可能性も否めない推理展開が続く物語に抵抗を示してしまった方々が多かった可能性」が在ります。「東映ファン」の俺も先述の通りの印象を初見時に持った位ですから…寧ろ「比較的新しい事件物を好む方々」には「最終盤迄実行犯を予想する事すら難しい物語」である点からすんなりと受け入れられる内容かと思いますし、事実最近になり再評価されている作品です。
そして当作品は「橋蔵御大を含めた俳優陣の芝居」もいいのですが、さとみさん・青山さん・「謎の老婆」を演じた金剛麗子の「三人の女優」の名芝居が見所!あっと驚く大どんでん返しを見せる青山さんにとっても「生涯の代表作品の一つ」となるでしょうが、昭和36年度の「京都市民映画祭」の「助演女優賞」を当作品の出演で獲得したさとみさんに関しては「生涯一の代表作品」と言っても過言ではない程の熱演!
俺は所有していませんが、さとみさんは自著の中で「沢島監督は怖い!」と書いていたのを目にした沢島監督は「何が怖いの?あんたのいい所はあの「黒い椿」に出ているんだよ」と伝えたそうですし、この受賞は沢島監督ご自身にとっても非常に嬉しい出来事であったそうです。
最後に、当作品制作・公開から数年後に橋蔵御大は劇場公開作品群から離れ、テレビドラマ「銭形平次」の主役としてご逝去の大凡八か月前迄出演を続け(この「テレビドラマ版」の前段階を描いた劇場公開版「銭形平次」が橋蔵御大の「最後の劇場公開作品出演」となっています)ギネスブックにも「連続テレビドラマの放映回数の世界記録(888回)として認定される大金字塔」を打ち立てましたが「善良性のスター俳優だからこそテレビドラマに最適」と云う東映/フジテレビジョン側の判断の他に「主演した劇場公開作品の興行成績不振による出演作品数の減少に加え、深夜興行形態や仁侠映画路線に馴染めず、東映との専属俳優契約が切れたままになっていた所に「銭形平次」の主役依頼が来た(因みにウィキペディアによると、フジテレビジョンが候補に挙げていた俳優は宇津井健・宝田明・里見浩太朗・本郷功次郎だったそうです)…その際に「黒い椿」への出演時に感じた「時代劇に本格推理を持ち込んだ物語の面白さ・奥深さ・横展開の幅広さ等々の魅力」を存分に生かせると判断し、承諾したのでは?」とも思います。