大人になる前に-29 | もうひと花咲かせます

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『妻が夫を捨てるとき』の花子と息子吾郎の
その後・・・のおはなし

前回のお話はこちら



勇作の微笑んだ顔が、忘れられなかった。



あんな顔見たの・・・久しぶりだったな。

付き合い始めた頃、勇作はいつも、あんな顔してた。




まるで小さい子を見るような、やさしい目。

「はいはい、分かった分かった。」って。

ふくれる楓に、勇作はいつも、子供をあやすような言葉をかけた。



勇作のそういうところが、楓は好きだった。



背伸びしなくてもいい。

素のままでいい。

子供のままでいい。



大学生から社会人になるまで、ずっと一緒にいた恋人。

大人になるってことがどういうことなのか、まだよく分からずに、ただただ夢中で過ごしてた時間。

無理をして、背伸びをして、大人ぶってた頃。

勇作の前でだけは、子供のままの素の自分でいられた。



無理をしなくていい。

本当の自分でいい。




勇作も、きっと同じだったと思う。



楓の前では、格好つけずにいられた。

男だから、格好つけたい時はもちろんある。

でも、それは、無理をするってことではなかった。

楓の前では、自然体でいられた。





勇作の微笑んだ顔を思い出し、楓は、その頃の勇作と自分を思い返していた。




大人になる前に、一緒に過ごした恋人。



あれから私たち、どう変わってしまったんだろう。



大人になるって、どういうことなんだろう。





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