前回のお話はこちら 。
勇作の微笑んだ顔が、忘れられなかった。
あんな顔見たの・・・久しぶりだったな。
付き合い始めた頃、勇作はいつも、あんな顔してた。
まるで小さい子を見るような、やさしい目。
「はいはい、分かった分かった。」って。
ふくれる楓に、勇作はいつも、子供をあやすような言葉をかけた。
勇作のそういうところが、楓は好きだった。
背伸びしなくてもいい。
素のままでいい。
子供のままでいい。
大学生から社会人になるまで、ずっと一緒にいた恋人。
大人になるってことがどういうことなのか、まだよく分からずに、ただただ夢中で過ごしてた時間。
無理をして、背伸びをして、大人ぶってた頃。
勇作の前でだけは、子供のままの素の自分でいられた。
無理をしなくていい。
本当の自分でいい。
勇作も、きっと同じだったと思う。
楓の前では、格好つけずにいられた。
男だから、格好つけたい時はもちろんある。
でも、それは、無理をするってことではなかった。
楓の前では、自然体でいられた。
勇作の微笑んだ顔を思い出し、楓は、その頃の勇作と自分を思い返していた。
大人になる前に、一緒に過ごした恋人。
あれから私たち、どう変わってしまったんだろう。
大人になるって、どういうことなんだろう。