大人になる前に-13 | もうひと花咲かせます

もうひと花咲かせます

『妻が夫を捨てるとき』の花子と息子吾郎の
その後・・・のおはなし

ひとりの男が、車のドアを開けて、後部座席に乗り込んできた。

刑事なのか。

私服の警察官だった。



「お嬢ちゃん、大丈夫か?」



楓は、うなずくのが精一杯だった。



「通報したのは、お嬢ちゃんだね。」



もう一度うなずいた。



「事故だったんだって?」



えっ?



「示談にするから大丈夫やって、相手が言うとるんやけどなぁ。」



はぁっ?



顔を上げて、車の外を見た。



さっきまで暴れていた男たちは消えていて、20代半ばの大柄な男がひとり、数人の警察官と話をしている。



事故?

示談?



「ちがう・・・ちがう・・・」



「こんな時間にこんなとこ通りよったら、いかんわな、君たちも。

学生やろ?

こんな遅くまで、女の子が夜遊びしとったら、いかんよ。」



そう言って、刑事は外に出た。



何がどうなってるのか、さっぱり分からない。



でも、そのとき見てしまった。

さっきの刑事と大柄な男が、まるで古くからの知り合いであるかのように話していた。





おかしい。

何かがおかしい。





外で警察に事情を聞かれていた時田が、車に戻ってきた。



「あの男、どうやら暴走族のOBみたいやな。

あの連中の誰かが、呼んだんやろう。

警察に顔が利くらしい。

昔から悪さして、何度も捕まってるからな。

あいつ、警察に、事故だから話し合いで解決するって言いやがって。

車のガラスも弁償するし、示談で済ませるって言うとるんや。」



「勇作は?勇作はどうなるの?」



「あいつは怪我してるから、どこかに連れて行かれたんや。

あの怪我を見たら、事故だなんて言えんやろう。」



「でも、事故じゃないわ。おかしいじゃない!」



「俺も何度もそう言ったけど、どういうわけか、警察はあの男の言うことしか聞かんのや。」



「そんな・・・」



「俺らが騒いだら、勇作の居場所を教えないって言うんや。

だから、何も言えんかったんや。

楓、ごめん。

でも、勇作はちゃんと返すって言ってるから大丈夫や。」



パトカーは1台もいなくなり、警察はみんな引き上げてしまった。




暴走族のOBらしい男が、車に近づいてきた。




「お~悪い悪い。なんか、行き違いがあったようやな。

もうすぐ、あいつをここに連れてくるから。

心配せんでいい。」




~つづく~






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