夜。
404に戻ると、空気が静かだった。
ドアを閉め、
電気をつけ、
靴をきちんと並べ、
カーテンを引く。
無意識ではない。
意識しながら、流れるように体が動く。
(……落ち着く)
そのまま、床に座った。
外では、まだ少しだけ雨の音がしていた。
(……静かや)
何もない。
でも、それがよかった。
しばらく、そのままでいた。
身体は軽い。
頭も、静かだった。
(……拾っとらん)
昼間のことを思い出す。
冷蔵庫。
洗濯機。
古いタンス。
触れても、流れ込んではこなかった。
一瞬だけ、よぎる。
でも、それだけ。
持っていかれない。
悟は、ゆっくり息を吐いた。
天井を見上げる。
白い。
何もない。
(……これが、おいか)
そのとき。
ふ、と。
何かを感じた。
遠く。
下の階か、隣か。
はっきりしない。
でも。
(……誰か)
一瞬だけ、意識が向いた。
腹のあたり。
鈍い、違和感。
(……痛い)
すぐに、分かった。
でも、それ以上は入ってこなかった。
悟は、そのまま息を整えた。
(……違う)
自分のものではない。
ただ、それだけ。
少しして。
その感覚は、消えた。
何も残らなかった。
(……できとる)
悟は、立ち上がった。
台所に行く。
米を研ぎ、
水を入れ、
炊飯器のスイッチを押す。
(……整う)
音がする。
水の音。
炊飯器の小さな機械音。
それだけ。
でも。
空気が、まっすぐになっている気がした。
悟は、少しだけ笑った。
(……なんや、これ)
言葉にはならなかった。
でも、分かっていた。
前とは、違う。
悟は、錆臭い水を飲んだ。
窓の外を見る。
雨は、もう止んでいた。
(……明日も、同じやろな)
それでよかった。
悟は、電気を消した。
目を閉じる。
島のことが浮かんだ。
(……元気やろか)
(第三十話へ)
