アンテナ-学生編- 第二章 第二十八話 雨 | 見えない世界の真実が此処に®

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その日は午前中で講義が終わった。

 

悟は、源さんの店で働いていた。

 

 

 

午前中に源さんが引き取ったという冷蔵庫や洗濯機がかなりあった。

 

古いタンスに、売れるかどうか分からないような洗面器や食器まで。

 

源さんの事だから、情で引き取ったに違いない。

 

 

 

悟は、冷蔵庫や洗濯機を掃除しやすいように並べ直した。

 

売れないものは、大きな鉄製のゴミ箱に入れる。

 

 

 

「それは売れる」

 

 

 

源さんの一言で、また手を止める。

 

さっき分けたものを戻し、洗うものとして並べ直した。

 

 

 

触れると、キンという音がした。

 

一瞬だけ、何かがよぎる。

 

でも、それだけだった。

 

 

 

悟は、そのまま手を動かした。

 

 

 

昼から夕方まで、休憩なしで作業を続けた。

 

拭く。

 

並べる。

 

分ける。

 

また拭く。

 

 

 

17時。

 

 

 

「今日はここまでで良いぞ」

 

 

 

(本当に人使いがあらいばい)

 

 

 

「なんか言ったか?」

 

 

 

悟は一瞬固まった。

 

 

 

「おいの心の声が聞こえとるんですか?」

 

 

 

「知らん」

 

 

 

(本当にこの人は……)

 

 

 

「ほら、雨が降りそうやけん、早く帰れ」

 

 

 

外に出ると、空が少し暗くなっていた。

 

湿った空気がまとわりつく。

 

 

 

(……降るか)

 

 

 

ぽつり、と落ちた。

 

 

 

すぐに、雨になった。

 

 

 

強くはない。

 

でも、止みそうにもなかった。

 

 

 

悟は、軒下に入った。

 

 

 

濡れた地面の匂いが立ち上る。

 

 

 

(……夏の終わりやな)

 

 

 

しばらく、雨を見ていた。

 

 

 

足音が近づいた。

 

 

 

隣に、誰かが入ってくる。

 

 

 

視線を向ける。

 

 

 

由子だった。

 

 

 

少しだけ、間があった。

 

 

 

「……降ったね」

 

 

 

小さく、言った。

 

 

 

「うん」

 

 

 

それだけ返した。

 

 

 

二人とも、外を見た。

 

 

 

雨が、静かに落ちている。

 

 

 

人が走る。

 

傘が開く音。

 

 

 

その中で、二人は動かなかった。

 

 

 

(……近か)

 

 

 

距離は近い。

 

 

 

でも。

 

 

 

混ざらない。

 

 

 

身体は、何も変わらなかった。

 

 

 

ただ、呼吸だけが静かだった。

 

 

 

由子も、何も言わなかった。

 

 

 

ただ、そこにいた。

 

 

 

雨の音だけが続いていた。

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

「……最近、どう?」

 

 

 

由子が、ぽつりと言った。

 

 

 

悟は、少しだけ考えた。

 

 

 

「……まあ、普通」

 

 

 

それだけ言った。

 

 

 

由子は、小さくうなずいた。

 

 

 

また、静かになった。

 

 

 

雨が、少し弱くなった。

 

 

 

空が、少しだけ明るくなる。

 

 

 

由子が、一歩前に出た。

 

 

 

「……じゃあ」

 

 

 

振り返らずに言った。

 

 

 

「うん」

 

 

 

悟は、それだけ返した。

 

 

 

由子は、そのまま歩いていった。

 

 

 

背中が、少しずつ遠くなる。

 

 

 

悟は、見送らなかった。

 

 

 

ただ、立っていた。

 

 

 

(……由子)

 

 

 

それだけだった。

 

 

 

雨が、ほとんど止んだ。

 

悟は、ゆっくり歩き出した。

 

地面は、まだ濡れていた。

 

空気が、少しだけ軽くなっていた。

 

 

 

(……由子)

 

それだけだった。

 

 

 

悟は、そのまま404へと帰った。

 

 

 

(第二十九話へ)

 

 

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