幸せになるはずだった。
お腹の中でクルクル動き蹴り上げてくる時に幸せを感じた。
早く会いたい。早く抱きしめたい。声を聞きたい。
お腹の中にいる赤ちゃん。唯一の本当の家族だと、心から思えた。
清貴君(夫37歳)とは、結婚する時も、プロポーズされた時も、付き合い始めた時も、不安だった。不動産の営業をしている彼は、気分の浮き沈みが激しく、週に数回は付き合いだと言って飲みに行く。去年、冬を感じるようになった頃の深夜だった。寝ていたのに、携帯電話が鳴っているのに気づいた。着信5回。彼からだった。私の家の前から電話をしていたようで、ドアを開けると、デロンデロンに飲んだ彼がドアの外で座り込み寝ていた。外は寒い。仕方ないので家の中に引き入れると、彼は強引にせまってきた。
それから8ヶ月が経った時の母子手帳に、こう書いてあった。
幸せになるぞ!
早く会いたい。早く抱きしめたい。どんな顔かな?
幸せになるはずだった。
たとえ、彼と離婚する事になっても、どんなにお金が無くても、心からこの子を守り、楽しく生きようと決めて産んだ。
2歳の誕生日のお祝いをする日に、清貴は帰ってこなかった。
「悪い悪い、仕事の付き合いで」
電話の向こうからは都会の喧騒が聴こえた。
「悪い悪い、仕事の付き合いで飲んでそのまま飲みつぶれてた」
私は都合の良い女。付き合っている時からわかってはいた。それでも、妊娠したと分かると彼は、私の実家の秋田まで2人で行き頭を下げたのだ。微かに希望を持ったと思う。もしかしたら、清貴は心を入れ替えて父親らしくなるのではないかと。
そんな彼に期待した私がダメだ。無駄だ。どうしようもない。
1人で子育てした。保育園へ送り、迎えにいくまでの時間でパートで働いた。
信用を失いたくないのか。彼は家賃や光熱費などしっかり払ってくれた。清貴はいない。いないものと考えよう。だってこの子と2人で生きていくって決めたのだから。そう自分に言い聞かせる為に、母子手帳に書いている日記を読み返す。
今日で5歳となるこの子。聞き分けが良過ぎて将来どうなっていくのか、この子は。
もし私がいなくなったら、施設に入るのね。秋田の両親は高齢だし、頼れる兄弟もいない。従姉妹が面倒を見てくれる?いや、ないない。ドラマや映画ではないのだから。やっぱり施設に入るのね。そして運が良ければ誰かが養子縁組してくれるのかな。
幸せになるはずだった。
どんなに辛くても、きつくても、お金が無くても、この子と生きていくと決めた・・・はずだった。
授業参観の日、発表会の時、いつも母親しか来ていない事に気づいた息子の友達が私に言ってきた。
「ね〜○○君! ○○君のお父さんはいつもいないね〜!」
うちの子供はその言葉に対して叫んだ!
「パパは忙しいんだ!」
子供があんなに大声で叫ぶなんて。
今日も、彼は帰ってこないのだろうか。我が子の誕生日をもしかして忘れた? 産まれた日、涙を流して喜んでいたくせに。1歳の誕生日には3人で写真を撮ったのに。せめて離婚してくれれば、母子家庭になるのに。
ある時、同じスーパーで働くパートさんとLINEの交換をした。「シングルで母子家庭なの!」と明るく話す姿に、どこか自分を重ねてしまっていた。
LINE交換の時、他人にスマフォ画面を覗かれながら文字を打つのが本当に久しぶりで、私は彼女に見られないように顔に近づけ、角度を変えながらやっていた。なのに、彼女は私の文字変換に突っ込んできたのだった。
ちょっと〜、「り」の変換予測が「離婚」じゃなかった!?
彼女はそう言うと、微妙な笑顔で私を見てきた。
ち、違うよ!
その時はうまく誤魔化せたと思う。
パートが終わると自転車をとりに家に帰り、息子を迎えにいく前にわずかな時間で、文字変換をチェックしてみた。
「り」と押せば、離婚
「ぼ」と押せば、母子家庭
「よ」と押せば、養子縁組
「じ」と押せば、・・・。
「む」と押せば、無理・・・。
「し」と押せば、幸せではなくて、死にたい。
あたしって・・・。
そう、ちょうどあの頃からだったと思う。
例の感情が消えなくなってしまったのは。
子供を寝かしつけた後にネット検索をいつもしていた。
無理しん・・・のやり方。
養子に出す方法。
幸せになるはずだった。
身体も心も限界が来ていた。
それを忙しさで誤魔化していた。
誤・魔・化していた。
今日は私の可愛い子供の5歳の誕生日。
でも
いつからか手にかけたい衝動が止まらない。
誰か、誰か助けて。
終わり
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こんな状況の相談者が出てきてもう何年経ったでしょうか。
私は毎回同じ言葉を相手に伝えます。
「その感情は、本当にあなたのものですか?」
状況をお伺いすればするほど、当然そうなっても仕方がない。
当然、そう感情が動いていくのは当たり前です。
こんなに辛いのだから。こんなに大変なのだから。夫がダメだから。環境がダメだから。ワンオペだから。行政が悪いから。
毎回、だいたい、そうやって少し喧嘩腰で、少し主張される。
幼子がいる今の私だから同じ状況では無いにしても、全く分からないわけでは無い。でもそれでも、改めてもう一度、尋ねてみるのです。
「その感情は、本当にあなたのものですか?」
「今日は、なんで此処にご相談にいらしたのですか?」
(誰か、誰か助けて。
スピリチュアルをやっても、宗教をやっても何をやっても無駄だった。
ここが最期に頼ってみたいところ・・・)
これが心の奥底の声でしょうか。
見えない世界の影響に対して、霊媒体質の方は抗えないと思います。心と身体のバランスが良いのであれば問題が表面化しない事もあるでしょう。でも、そうでなければ、見えない世界の影響は、誤魔化せないのです。
本当は幸せになるはずだった。
いいや、そうではないのです。幸せになる為に行動は間違いなくやってきたはずです。
でも、幸せを目指して生き続ける事は、見えない世界の影響があっては・・・難しい体質だった。
ただそれだけだと思います。
此処ならば大丈夫。そう心から思います。此処でしか助けてあげれらない人はまだまだいっぱいいると思う。
シックスセンス管理人