あなたは東京駅の丸善本店の「松丸本舗」へ行ったことがあるだろうか。

残念でならないのだけれど、この本屋は9月30日で閉店した。


奇跡の書店は、この地球上から姿を消してしまった。


この本は、松岡正剛さんが、丸善に依頼されて「松丸本舗」という

まさに奇跡の書店を作り上げて、閉店するまでの3年間のドキュメントのような本だ。


松岡さんは、生涯を賭けて作りたかった本屋の夢を実現させた。

一軒の本屋にこれほどのエネルギーをかけたひともいないだろう。


これほど本を愛しているひとはいない。

読書の醍醐味を知っているひとならわかっているはずだ。

一冊の本に出逢うことで人生が変わってしまうことを。


著者の作品への情熱が力を持っているからかもしれない。

しかし、その出逢いはどうやって作ることできるのか。

松岡さんは、ずっとそのことを考え続けたのだと思う。


そのひとと<本>を巡り合わせるために、どうしたらいいのか。


本の前書きの、福原義春さんの言葉に胸が詰まる。

「あれは幻だったのか。

 東京駅北口の丸善丸の内本店の四階に、松岡正剛の魂が呼び寄せられた。」


あそこは松岡さんの魂の場所だった。

こんな言葉が書かれている。


・読書というあの香ばしい行為  (実はこの本から、いつも素敵な香りがしている)

・本をひとりぼっちにさせるべきではありません。

・本は一冊の劇薬であって、かつまた無限の連鎖なのである。


わたしは、学生時代に東中野の書店で平積みされている松岡さんの作った雑誌<遊>

を手にとってパラパラめくっているうちに、地球がグルグル回ってしまうような経験をした。

全く新しい地平がそこにあった

わたしの真の生は、そこから始まったと言ってもいい。


この本は単なるドキュメンタリーではない。

全国の書店がおかれている状況や、本とは何かについて、松岡さんの熱い想いや、

松丸本舗を閉店させざるを得ないことへの<無念>が書かれている。



松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。/青幻舎

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この本屋を愛し支えてきた、各界のひとのメッセージが後半に書かれているが、

読むだけで、熱いものがこみ上げてくる。


「じぶんが探したいものなど、じぶんの中からしか出てきていないわけだから

大したことはない。

<じぶんの探したいものではないもの>からしか、飛躍的な思考など生まれてこないのだ」

安田登

「わたしは、彼の存在が日本のエピステーメーだと確信を持って信頼を捧げてきた

ひとりである。

その信頼とは、恋情と慕情である」川崎和男

「熱恋はどんなに素晴らしいものだと最近思うようになった。

蓄積された豊かな知性と感性から生まれる深い恋愛。

僕には松丸本舗がそういう本屋だった。

本屋に入るだけでたくさんの知的体験ができた。」エバレット・ブラウン


松岡さんは、各界のひとたちのメッセージを読んでいて、しんしんと泣かれたそうだ。


ここは奇跡であり、魔術的空間だった。

真のワンダーランドがここにあった。


9月30日には、多くの関係者が集まって、松丸本舗でお別れ会が行われた。

わたしは、行けなかったので、ある関係者にお願いをしていた。

リアルタイムで状況を教えていただいた。

感謝の想いで一杯だった。


この3年間一度しか行けなかったけれど、まるで初めてルーブルにきたとき

のような夢を見ている瞬間だった。数時間だろう。

店を離れるとき、何度も後ろを振り返った。

まるで恋人との一時の別れのように。


ひとは生涯に、これ以上ないような幸福感に包まれることがあると思う。

わたしにとって、このときがそうだった。


この書店から新たな、出逢いを教えられたひとたちは、新たな<知の地平>へ

向っているだろう。

それぞれの想いは固いだろう。


松岡さんは、編集工学研究所を作ってきた。

連塾を作り、多くの塾生を輩出してきた。

まさに現代の吉田松陰だと思う。

編集学校の生徒たちも多い。


わたしの書いた言葉を知って、編集学校へ行ったひともいた。

松丸本舗へ行って、松岡さんと話したひともいた。

東京へ行くと松丸本舗へ行ってくれたひともいた。

ほんとうに感謝している。



今では、松岡さんを愛するひとたちと、細いけれども繋がりが持つことができてきた。



松岡さんは事務所探しをしているという情報があった。


12月3日に編集工学研究所が東京世田谷の豪徳寺へ引っ越すことになったとのこと。


ここで、6万冊の本が公開されることになるようだ。

閉店のときに、<反逆>という言葉を使われていたと思う。

すでに始まったのかもしれない。


<千客万来>という言葉もでている。

松岡さん自身が「誰も見たことがないような本棚空間が出現する。

茶会もダンスも共読音楽会もブックパーティもやるからね」と話している。


千夜千冊 番外録 3・11を読む/平凡社

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日本に新しい地平が生まれるヒントは、このひとの<智>のなかにある。


松岡さんが、現在の日本をどうするかについて命を賭けていることは、わかっている。


「3.11を読む」はどれほど読まれたのか、わからないけれど、

驚くべきことがたくさん書かれている。

じぶんの生命ももどうなるかわからない覚悟で書いたことををあらためて感じた。

<蝦夷>のこともだ。



松丸本舗はどんな魔法の世界だったのか、その一部を編集学校のひとたちが動画に納めた。

ぜひ見て欲しい。

夢のような空間がここにあった。正剛さんの声も聞える。



松丸本舗とイシス編集学校 共読の記憶




「懐手して宇宙見物」もいいけれど、わたしは、未だに松岡さんに逢っていない。

逢いに行こうと思う。チャンスを作ろう。

師への熱い想いがあれば実現できるだろう。


松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦/中央公論新社

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豪徳寺で行われることは、松丸本舗の発展形態かもしれない。



「わたしは本の力を信じている」 松岡正剛


生涯の師がいることは、幸せだ。

そしてその師への恩返しを忘れてはならない。


 境界の手前で生き、境界を跨ぐことである。

    あたかも夢のように。