音楽と初恋と後悔のない人生と 1 | ぴおのブログ

ぴおのブログ

50代シングル なんとか暮らしを立てています。目まぐるしく変わる時代の中で、ぽつりぽつりと思うことを書いています。

とある ものがたり




彼の家族は昔から不仲でした





金銭の困窮やしがらみ

保身 罵り合い 言い訳




複雑な事情もあったようですが

幼い彼には大人たちのその

微かで確かな苛立ちは

気持ちをざわざわさせる嫌なものでした





両親と祖父母とで

いくつかの県を転々とし

彼もまた

いくつかの学校を転々とし





友達を作る間もなく

彼の小学生時代は過ぎていきました





相変わらず不仲な家族は

日常でも罵り合いが絶えないようになり

彼は自分の殻にこもるようになりました




時に暴言は子供たちにも向かい
彼は弟を庇いながら部屋の隅にうずくまる
そんな日々もありました




貧しさ
暴力
孤独
憤り



そんな彼には
自分を表現できるものがひとつだけありました




それが ピアノでした



🎹♪



彼の祖母は
そんな家庭の中にあって 何故か彼に
ピアノを勧めてくれました



そしてどんなに貧しいときでもそれだけは
自分のお金を出してでも習わせ続けてくれたと
言います




いまにも切れそうな細い糸を
にぎりしめて
彼はピアノをひきつづけていました




ピアノという自己表現の術を持ちながらも
やがて
多感な時期に入った彼は
やり場のない心の暗い熱を
万引きや煙草にあて
授業をさぼり 遊び回るようになります




もちろん楽しいはずもなく
虚しさも哀しみも募るばかりで
そんな風にしか生きられない自分が大嫌いで




ピアノに向かうと




叩きつけるように鍵盤をはじき
時に一心不乱に弾き続け
その時だけが
嫌な自分を忘れられる瞬間だったと言います




笑顔を失い
いく先も見えず
暗い時代は
永遠に続くように思え



お月様星お月様星




そんな中学時代に
彼はひとりの女の子と出会います





彼女はクラスメイトで
目立ちもしない もの静かな生徒でした



美人とは遠く
幼さの残る表情は垢抜けなくて
教科書がたっぷり詰まったカバンをもち
流行おくれの地味な着こなし
以下同文・その他大勢のような存在




そんな彼女が見せる
素朴な小さな花のような
素直な笑顔に彼は惹かれるようになります




同時期に彼はビートルズに出会い
彼らの音楽にものめり込んでいきます




ピアノを弾きながら ビートルズを聴きながら
自然と彼は作曲を始めます



彼女には直接言えない
ラブソング
彼女のために言葉を紡ぎ
彼女のために美しいメロディを並べて
彼は 曲を作ります




いくつもいくつもいくつも…





やがて彼と彼女は同じ
高校へ進みます




彼女に見て欲しくて
彼は生徒会長に立候補し(落ちますが)
学業に励み成績を上げることで
目立つ存在になろうとします




僕を見て!
僕を見て!
ねえ君 僕はここにいるよ




隙あらば彼女に話しかけてみたり




一度だけ彼女の制服の袖にふれては
心臓が破裂するほどに苦しくなったり




だけれど どんなに彼が奮闘しても
彼女はその思いに気づくことはありませんでした




あたりまえです




言わないんだから




ですが勉学に励み
成績に手応えを感じ
努力することの心地よさを覚えた彼は
将来への ひとつのをみつけました





小さな子供のこころを救える人になりたい





あの頃の自分を救えるような
そして彼女に誇れるような
そんな自分になりたい




いや
なる






一度遅れた学習を取り戻すのは
容易ではなく
浪人生活もありましたが
彼は目指す大学に入り つきたかった職につき
実績を重ねていきました




彼女の面影を
いつも描きながら



チューリップ赤チューリップ赤チューリップ赤




経済的にも安定した頃
社会人になって出会った女性と家庭を持ち
家も建て





高校ではバンドも始めていたので
その仲間と一緒に社会人になってからも
音楽から離れることはなく
ピアノを奏で 作曲をし
メンバーで時に演奏したりしながら
豊かで温さに満ちた日々を過ごすようになります





多くの友人
穏やかな日常




貧しさに屈折した日々の
笑わない彼はもはやどこにもいません




時は過ぎ




50歳をいくつかこえたある日
彼は思います





ああ自分もずいぶん歳をとったなあ
このあとは老いていくんだなあ
人生が終わっていくんだ






後悔のない人生だろうか?







そして彼は鮮やかに思いだします





逃げてきたことがある
やり残したことがある





*彼女に好きだと伝えること*




今だけれども
こんなに遅くなったけれども
今なら言える
もうあの頃の弱い自分じゃない
今なら言える




そして彼は



チューリップオレンジチューリップオレンジチューリップオレンジチューリップオレンジ




とある男性のものがたり
続きまた次に…ニコニコ




星星ぴお