「幸(さいわい)警察署です。夜間検問にご協力をお願いします。」
おお、久しぶりに飲酒検査か。年末の夜中だもんな。助手席側の窓を下げる。
「危険物を積んでいないか、車内を照らして見ても良いですか?」
え? ああ、そういう検問ね。
「後ろも開けてもらっていいですか? ロックを解除してもらえばいいですから。」
横から後部座席をチラッと懐中電灯で照らした警官が言う。まあ、いろいろ積んでいるからな。
ロックを開けた。あ、でも、荷物スペースはちょっとマズ……
「それって、普通の竹ですか?」助手席側の警官が訊いてくる。
へ? あ、そういえば……
薪ストーブを持ついとこに頼まれて、火吹き竹を作りかけで、乾かすために後部座席に立ててあったっけ。
「普通の竹ですよね? 爆発物とかじゃないですよね?」笑いながら訊いてくる。
「そりゃ普通の竹ですよ。」
詳細な説明はいらない。彼らはおしゃべりをしたいわけではないのだから。
「工作とか好きで、やりかけのを積んでるだけです。」
そこへ、後ろのハッチを持ち上げた警官が、ガサガサと諸々の荷物を探りながら訊いてくる。
「お仕事、作業員系の方ですか?」
まあ、そう思われても仕方ない。なにせ荷台はこんなだもの。
泥だらけで乾かすために広げたままの皮軍手、同じく冬の作業用のジャンパー、使い古しの作業ブーツ、などなど。
しかしマズいな。スコップはいいとしても、草刈り鎌3丁が袋から顔を出しているし、箱まで開けられて、ナタだのナイフだのノコギリだの工具類だの見られたら、説明がかなり面倒くさくなる。
さいわい、今は薪割り斧は積んでいないから、刃渡りの長いのはないけれど、他に何を積んでいるか、咄嗟に全部は思い出せない。
もしかしたら、銃刀法違反だって言われちゃう?
ああでも、たしか銃刀法違反は単独で検挙されることはまずない、って聞いた気がする。何かもっと重大な犯罪の「別件逮捕」の口実になるんだとか。
そもそも、刃物でも所持している正当な理由があれば、違法ではないはず。
それに、もし正当じゃないと言われて逮捕されちゃったら、誰かに身請けしてもらうまでの間に、警察や留置所の中を観察して記録して、ブログに書いたり、本でも物してやろうか。ジェフリー・アーチャーみたいに。
それでは、と。
「えーと、作業員じゃないですけど、庭仕事とかが趣味で、お寺の押しけ寺男みたいなことをしてるんで、ノコギリとかナタとか色々と積んでますけど。」
助手席の脇の警官は訝しそうな表情。ハッチに手をかけている警官も、中を探る手が止まった気配。
こりゃ長くなりそうだ。と、後ろを見ると車の行列。2車線道路で1車線を封鎖しているから、渋滞になってしまったわけだ。
これは邪魔だよな。それに、攻撃は最大の防御。
「あのぉ、後ろが詰まってますから、そっちの車線に入れましょう。ちょっと退いてもらえますか。」
と、ハッチの閉まる音。
「オッケーです。問題ありません。」
後ろの警官の方が上官とみえて、横の警官は今ひとつ納得していない様子ながら、通してくれた。
しばらく走ってから、何だか急に笑いが出て止まらなくなってしまった。
しかしまあ、これもこのコートとベストとマフラーの御加護(※)のひとつかな。
(※)2021年12月07日付け拙ブログ「私の遊び場」参照。
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