四国中国地方への旅行に出てから20日、拙ブログの投稿はまだわずか5本だが、急遽帰宅することになってしまった。

 

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鳥取は三朝(みささ)温泉のあまりの心地良さに、ズルズルと逗留すること8泊、そろそろ家の方向へ移動を始めなければと思いつつ、せっかくこんなに西方まで来たのだから、曹洞宗の大本山、越前永平寺にも参拝しようと考えた。

 

ちなみに我が家の菩提寺である東京・四谷のお寺も、そのご住職が兼務されている木更津東泉寺(過去記事参照)も曹洞宗のお寺である。

 

しかし、鳥取県の真ん中あたりにある三朝から、福井県の北部にある永平寺まで、直線距離にして350キロ近く、移動時間にすると、高速もあまりないのでノンストップでも6〜7時間はかかりそうだ。

 

そこで、途中の若狭あたりで一泊しようと宿を探し予約してから、三朝を後にした。

 

この移動中の話は別稿に譲るが、10時間あまりかけて到着したのは福井県若狭町の世久見(せくみ)という小漁村。

 

小なりとはいえ、日本海の豊かな恵みのおかげで、定置網漁の漁獲と釣りなどの観光資源があり、若者も定着して活気を失っていない、現代日本の地方集落としては稀な地域だった。(民宿の女将さんとのおしゃべりで得た印象。)

 

と、いったことは朝になってから知ったことで、到着した時には真っ暗で、経路の国道の左手にあるはずの海も、右手の山も、何一つ見えなかったし、港も全き闇に沈んでいた。

 

これは寝に寄るだけではもったいないと思って、投宿してすぐに、もう一泊予約を取った。

 

ところがその晩、荷解きもろくに済まないうちに電話があり、父(94)が亡くなったとの知らせ。

 

このところずいぶん衰弱してきていたし、旅行に出る前にも一時的にせよ入院していたので、いつ何時こういう知らせがあっても不思議はないと覚悟していた。

 

毎日のように実家には電話で様子を聞いていたが、その日によって父の調子は良いこともあれば思わしくないこともあった。

 

しかし20日も保ってくれるとまでは、実のところ期待していなかった。

 

いずれにせよ、すぐに帰らねばならない。翌朝、連泊をキャンセルして早めに発つことにした。

 

その晩は早々と(旅行中の私にしては、であるが)寝たためか、4時に窓外から聞こえてくる音で自然に目が覚めた。

 

どうやら漁船が朝の漁に出るためにエンジンをかけたらしい。まだ暗いので二度寝をしようとした。

 

ところが、4時半になると「ウゥ~~ウ~~」というサイレンの音が鳴り響いた。これは出港の合図らしい。

 

そうなると目が冴えてしまい、明るくなり始めた外に出てみて、防波堤とその上の空を眺め渡した。

 

なかなか見事な朝焼けではないか。

 

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今日はずっと車を運転して帰らなければならないから、マンドリンの練習はできそうにない。

 

宿の朝食まで時間があることもあり、うん、そうだ、ここで練習をするのも悪くない。

 

波止場の係船用の杭に腰を下ろし、最近習熟度を高めている4曲と、マンドリン用の難しい練習曲2曲をさらった。

 

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空にはカモメや海猫が飛び交い、さかんに鳴き立てている。漁船の帰りを待っているのだろう。

 

その鳴き声をバックに、だんだんと薄れゆく朝焼けに向かって、一人マンドリンを弾き続けた。

 

最近では、聴衆とまでは言わないが、人に聞こえそうな/聞こえる場所で弾くことが多かったので、その緊張感からだいぶ上達したと、自分では思っている。

 

しかし今日の客は、父一人だ。

 

きっと、空の方へ昇っていっている最中の父にも、聞こえたのではないか。

 

追悼になってくれると良いのだが。そう願った。