第9回 トランプ 「ドリルベイビードリル 英語」 Drill, Baby, Drill(令和5年5月25日)

(令和7年2月20日改訂版)

 

 トランプさんが言ったことで有名になったセリフですが、最初は誰が言ったのか、その後はどうなったのでしょうか?

 

1. ドリル、ドリル、ドリル  (共和党キャンペーン)

2. ドリル、ベイビー、ドリル (サラ・ペイリン・アラスカ州知事)

3. ドリル、メイビー、ドリル (ワシントン・ポスト)

4. プラン、ベイビー、プラン (ワシントン・ポスト)

5. ドリル、ベイビー、ドリル (モスクワ・タイムズ)

 

 前回、反トランプで有名なCNNがトランプ前米大統領を出演させたということを書きました。

アメリカでは大変な評判になり、CNNの視聴率がグンと高くなったそうです。

番組の途中、観客から「大統領に当選したら、このインフレ対策のためにあなたは何をしますか」と問われたところ、トランプ氏が「ドリル、ベイビー、ドリル」と発言し、会場はヤンヤの喝采に包まれました。

観客は全てトランプ氏の支持者だったそうですが、CNNはその条件を呑んでまでトランプ氏に出演して欲しかった、視聴率を稼ぎたかったと言われています。

 

さて、観客が盛り上がった「ドリル、ベイビー、ドリル」Drill, Baby, Drillって何?と思い自分の社説データベースで調べてみたら、けっこう出てきました。

 

1. 「ドリル、ドリル、ドリル」

最初は共和党のスローガンだった(Wikipedia(英語版))

 

(引用開始)--------------------------

 「ドリル、ベイビー、ドリル!は、2008 年の共和党の選挙キャンペーンのスローガンで、後に共和党全国委員会の委員長に選出された元メリーランド州副知事マイケル・スティールによって 2008 年の共和党全国大会で初めて使用されました。このスローガンは追加エネルギー源としての石油とガスの掘削増加への支持を表明し、共和党の副大統領候補サラ・ペイリンが副大統領討論会で使用したことでさらに注目を集めた。ドナルド・トランプ前大統領は、2023年5月11日にCNN大統領タウンホールで有権者の質問に答えてこのフレーズを使用した。<Trump Promises To "Drill, Baby, Drill" If Elected | OilPrice.com

(引用終了)----------------------

 

 関心のある方は、上のリンクを辿ってみてください。

 

2.「ドリル、ベイビー、ドリル」

 サラ・ペイリン アラスカ州知事の発言

 2008年10月11日 ニューヨーク・タイムズ社説

【 Up and Down the Learning Curve 】(エネルギー問題の理解度はどうか)

 

 全体を要約すると、米大統領選の共和党のジョン・マケイン氏と民主党のバラク・オバマ氏の討論会があり、エネルギーと環境問題についてNYT紙はオバマ氏を支持している、というところです。

 

(引用と試訳の開始)---------

 Ms. Palin’s strategy is frighteningly simplistic: drill for more oil. Any doubt on that score was erased in the vice presidential debate, when she delightedly corrected Senator Joseph Biden about the party’s new slogan. He had complained that the Republicans stood for “drill, drill, drill.” No, she said, it’s “drill, baby, drill.”

ペイリン氏の戦略は、「石油をもっと掘る」という恐ろしく単純なものである。その点に疑いがある人々に対して、彼女は副大統領候補の討論会で喜んでジョセフ・バイデン上院議員の間違いを訂正しました。彼は共和党が「掘れ、掘れ、掘れ」というスローガンを採用していると不満を述べました。彼女は、いいえ、そうではなく、掘れ、ベイビー、掘れ 」なのです」と言った。

 (引用と試訳の終了)----------------

 

(注)サラ・ペイリンは共和党の政治家、2006年から2009年までアラスカ州知事

 

 Drill, Baby, Drill を最初に言ったのは、実は、トランプ氏ではなくサラ・ペイリン氏(当時、アラスカ州知事、共和党)だったのです。

 

 いったい、共和党のdrill, drill, drillとペイリン氏のdrill, baby, drillの違いは何でしょうか?

 いろいろと調べても分からなかったので、ChatGPTと会話してみました(笑)。

 

(ChatGPTの回答(略))------------------------

"Drill, drill, drill"

・単に「掘れ、掘れ、掘れ」と繰り返しているだけで、命令口調や単調な響きがある。

・軍隊の訓練(drill)を連想させる可能性もあり、硬い印象を与える。

・少し機械的で、スローガンとしての魅力に欠ける。

 

"Drill, baby, drill"

baby」を入れることで、次のような効果があったのではないでしょうか?

①   攻撃的なトーンを和らげる

・「drill, drill, drill」だけだと、単なる命令のように響き、冷たく機械的な感じがする。

・「baby」を加えることで、親しみやすさや軽やかさを演出し、対立的な印象を和らげる。

・特に環境問題に敏感な層に対して、少しでもソフトな印象を与えたかったのかもしれない。

②   ポピュリズム的なノリを強める

・「baby」という言葉には、カジュアルで遊び心のある雰囲気がある。

・政治スローガンとして「カッコよく、覚えやすく、親しみやすい」ものにする狙い。

・強硬な政策のイメージを、明るく勢いのあるものへと転換する。

③   女性政治家としてのバランス調整

・ペイリンは当時、共和党の中でも珍しい女性の全国的リーダーだった。

・攻撃的なスローガンをそのまま使うと、より硬派で強権的に見えすぎる可能性があった。

・「baby」を加えることで、強さと親しみやすさを両立させる狙いもあったのでは?

 

(ChatGPTの引用終了)--------------

 

 ChatGPTとのやりとりは、なかなか面白いのですが、疑問点を厳しく突っ込むと、どんどん言うことが変わってきますし、間違いを認めることもあるので、こちらの質問の仕方を工夫する必要がありますね。今回の彼(彼女?)の回答が本当かどうかは別にして、そういう可能性があるなという程度に受け止めておきます。

 

 私自身は、上のNYT社説でペイリン氏が共和党のスローガンに「NO!」と言ってから、babyを入れて言い直しているところを見ると、彼女はアラスカの環境問題を意識したのではないかと思います。環境に気をつけて「そっと」掘れというニュアンスがあるのでは、と思っています。はずれかも知れませんが。 

 

 なお、石油や天然ガスの掘削に反対する人々や環境保護団体なども多く、ネットにはペイリン氏の「ドリル、ベイビー、ドリル」をからかった次のようなYubute動画がいくつか見られます。

サラ・ペイリン 

Drill Baby Drill (the Sarah Palin song-by Rob Park Mitchell)

 

 

 

 この動画では、アメリカの環境破壊が酷いような印象があります。しかし、規制はどんどん厳しくなっているのも確かです。そのため、アメリカで採掘しない分を他国から輸入するとなると、その国がアメリカほど環境保護に厳しくなければ、世界全体では環境汚染が広がる可能性があると思います。

 

世界のメディアでは、ペイリン氏の発言の後、いろんなメディアや他の政治家もbabyを入れた3語のフレーズを使うようになりました(トランプ氏が使った後ではなおさら)。

 

 

3.「ドリル、メイビー、ドリル」

【 Drill, Maybe Drill 】( ドリル、もしかしてドリル)

   20081001 ワシントン・ポスト社説

 

(引用と試訳の開始)-----------------------

 AT MIDNIGHT last night, the chanters of "drill, baby, drill" got their wish. The congressional ban on offshore drilling for oil expired after it was not included in the continuing resolution that will keep the federal government funded until March. This is a triumph for President Bush, who rescinded an executive order prohibiting exploration of the outer continental shelf (OCS) in July and who then used consumer anger over high gasoline prices to erode resistance by the Democratic leadership on Capitol Hill to lifting the 25-year-old congressional moratorium on such exploration. But the victory will not have the impact Mr. Bush implied.

 昨夜の夜半、「ドリル、ベイビー、ドリル」の大合唱は願いを叶えた。3月まで連邦政府の資金を維持するための継続決議案に盛り込まれなかったため、議会が禁止していた海洋石油掘削が失効したのだ。ブッシュ大統領は、7月に大陸棚外探査を禁止する大統領令を撤回し、さらにガソリン価格の高騰に対する消費者の怒りを利用して、25年来の議会でのモラトリアム解除に対する民主党政権の抵抗力を削ぐことに成功したのである。しかし、この勝利はブッシュ氏が示唆したようなインパクトはないだろう。

 

(引用と試訳の終了)------------------------

 

 ここでは、baby に代えてdrill, mayby, drill というダジャレを使って、共和党を揶揄した感じだと思います。

  海外の英字新聞では、社説にもけっこう駄洒落が使われていて、見つけると、ダジャレ好きな私は小躍りしてしまいます(笑)

 

4.「プラン、ベイビー、プラン」

  2009年2月12日 ワシントン・ポスト社説

【 Plan, Baby, Plan 】(計画しよう、ベイビー、計画だ)

 

(引用と試訳の開始)---------------------

 (サブタイトル)

・Interior Secretary Salazar keeps his options open on offshore drilling.

 サラザール内務大臣は、海洋掘削について選択肢を広げ続けている。

 

 HERE'S THE ultimate midnight regulation: On the very last day of the Bush administration, the Interior Department proposed a new five-year plan for oil and gas leasing on the outer continental shelf. All hearings and other meetings on the scope of the plan, which would have opened as much as 300 million acres of seafloor to drilling, were to be completed by March 23. On Tuesday, Ken Salazar, President Obama's interior secretary, pushed back the clock 180 days, imposing order on a messy process.

 これが究極の深夜規制である。ブッシュ政権の最終日、内務省は大陸棚の外側に石油とガスをリースする新たな5カ年計画を提案した。3億エーカーもの海底を掘削するために開放されたであろう計画の範囲に関するすべての公聴会やその他の会議は、3月23日までに完了する予定であった。火曜日、オバマ大統領の内務長官ケン・サラザールは、180日間延期し、混乱したプロセスに秩序を与えた。

 

 We applauded when the presidential and congressional moratoriums on drilling on the outer continental shelf were lifted last year. A nation that consumes 20 percent of the world's oil should be exploring its shores for fresh energy resources. But Mr. Bush's midnight maneuver would have auctioned oil and gas leases without regard to how they fit into a larger strategy for energy independence. More can be done on the shelf than punching for pools of oil to satisfy the inane "drill, baby, drillmantra that masqueraded as Republican energy policy last summer.

 昨年、大統領と議会による大陸棚の掘削の一時停止が解除された時、我々は拍手を送った。世界の石油の20%を消費する国は、新鮮なエネルギー資源を求めて自国の海岸を探索すべきである。しかし、ブッシュ大統領の深夜の作戦は、エネルギー自立のためのより大きな戦略にどのように適合するかを考慮せずに、石油とガスのリースを競売にかけるものだった。昨夏の共和党のエネルギー政策を装った無意味な「ドリル、ベイビー、ドリル」のスローガンを満たすために、石油プールを掘るよりも、棚の上でできることの方が多い。

 

(引用と試訳の終了)-----------------------

 

 この社説のタイトル「Plan, Baby, Plan」はどうやら、「政権最終日」の深夜に、過去込みで新5カ年計画を提案したことを、共和党の「Drill, Baby, Drill」に引っ掛けて「最後っ屁のようだ」と揶揄しているかのようです。

  またもや駄洒落に出会えて嬉しいのですが、こんなにも社説で使われるのは、元ネタのインパクトがよほど強かったからだと思います。

 

5.「ドリル、ベイビー、ドリル」

  2012年9月17日 モスクワ・タイムズ 

 【 Why Putin Should Vote for Romney 】プーチン氏がロムニー氏を支持する理由

  By Alexei Bayer

 

 最後にロシアのものを紹介します。

 ロシアはアメリカに次ぐ原油生産国です。

 その国のメディアは何と言っているのでしょうか?

 (これは社説ではなく、署名入りの論説です。)

 

Drill, Baby, Drill の前後の部分を抜き出してみます。

 

(引用と試訳の開始)---------------

 

 Moreover, Romney has unveiled an energy plan that aims to make North America self-sufficient in oil by 2020. The plan, which epitomizes the slogan of 2008 Republican vice presidential candidate Sarah Palin, "drill, baby, drill," will open some federal lands for drilling, ease restrictions on oil production in some national parks and even wildlife preserves, and stimulate offshore exploration. Incentives will be given to energy companies to produce oil from shale, import Canadian shale-sand oil and invest in more efficient oil production in Mexico.

 さらにロムニー氏は、2020年までに北米大陸の原油を自給することを目指すエネルギー計画を発表した。2008年の共和党副大統領候補サラ・ペイリンのスローガン「ドリル、ベイビー、ドリル 」を象徴するこの計画は、一部の国有地を掘削のために開放し、一部の国立公園や野生生物保護区における石油生産の制限を緩和し、海上油田開発を推進しようとするものである。またシェールオイルの生産や、カナダ産シェールオイルの輸入、メキシコの油田開発の効率化のために投資した企業に補助金を出すことも含まれる。

 

(引用と試訳の終了)------------

 

 このモスクワ・タイムズの論説全体を要約すると「共和党のロムニー氏は2020年までに北米大陸の原油自給を目指すエネルギー計画を持っている。どんどん石油を掘れということだが、そうするとロシアの石油価格も下がってしまうしかし、ロムニー氏の計画のためには莫大なコストがかかり、実現が難しいと見ている。そのため、プーチン氏は、オバマ氏よりロムニー氏の方が都合が良いと考えている。」というところです。

 

 自国のエネルギー資源の他に売り物のないロシアにとって、原油の価格が下がることは大問題ですから、アメリカのエネルギー政策には常に敏感です

 

(余談)

 以前、共同通信の海外論説速報(世界各国の主要新聞の社説について和訳のみを配信。既に廃刊。)という刊行物がありました。一般には馴染みが薄く、一部の大学図書館などで読むことができただけだと思います。それが丁度この論説を配信していたので、Drill, Baby, Drillをどう訳しているかと確認したら、何とそこはスルーされていました。残念!

 

 では、今日はこれで終わります。

 

(注)このブログの内容を使った結果について、管理人は一切の責任を負いませんので、自己責任でお願いします。