2018.8 NO.100 インパクト VS コンパクト(2)
欧州牝馬の血を引いても日本産のDI産駒が思うように通用しないのであれば、馬場の違いに基づく育成の仕方が異なるだけかもしれない。日本の馬場は軽くて固い。その上を飛ぶように走る。後ろの位置で足を溜め、一気に差し切ることもできる。深くて重い芝で起伏もある欧州レース場では好位につけ抜け出していく走法になる(凱旋門賞で後方から差し切ったのは欧州史上最強馬ダンシングブーレヴぐらい)。前肢でかき込で激走する様は、ちょっと大げさだが映画『ベンハー』に出てくる馬の戦車を見るがごとし。
育成・鍛え方が日本よりハード(日本ではDI産駒の連闘などありえないがSWは連闘した)なのだろう。調教師や騎手の問題ではなく、育成の段階から変えないと内国産馬が凱旋門賞を制するのは困難。だが、マッチョになれば日本の高速馬場では勝てなくなるかもしれぬ(私は後ろから飛んで来て差す今の日本競馬が好きだが)。
欧州競馬と日本競馬は別物と思うべし。日本の競馬関係者は内国産馬の凱旋門賞制覇が悲願かもしれないが、(私の孫娘は日台のハーフだが没問題なのと同じで)我々DIファンは欧州娘の仔であろうと、欧州で生まれようと、欧州で育とうと何の問題もない。
今凱旋門賞にSMやSW(回避?)が出馬するなら例年より期待が持てる。勝てば日本競馬界の至宝としてDIが一段と輝きを増す。それだけのことだ。
欧州の競馬界がDIに注目したのは、日本での圧倒的なパフォーマンスを見せるDIに2006年の凱旋門賞で初めて欧州以外の馬に勝たれてしまうとの危機感を持った(DIが日本では認められている薬物の使用で失格になったが、仏競馬関係者の陰謀説も囁かれたほど。真相は関係者が口を閉ざすので藪の中)ことから始まる。
横道に反れるが、2006年凱旋門賞へのDIの挑戦について触れておこう。戦う前から、ぶっつけ本番で大丈夫か。タフな欧州の馬場で430㎏台の細い体で59.5㎏を背負って日本のように飛んでくることができるのかと心配していた。凱旋門賞当日のアンラッキーな事柄は以下の通り。①馬の体調が悪かった。②ゲートの出遅れ癖のあるDIに現地が配慮してか一番最後にゲートインしたらスッと出てしまった。いつも最後方からまくってくるのに、先頭の方に押し出されDIが戸惑っていたと現地記者が分析していた。③4コーナーあたりでテレビ解説の岡部元騎手が「まだ! まだ!」と声を上げていた。早めに先頭に立ったが持ち堪えられず、3着に終わる。DIが後ろから差されるのは悪夢を見ているようだった。
DIをもってしても凱旋門賞を勝てないなら永久に勝てないと皆悲嘆に暮れた。武騎手としては翌年にリベンジしたかっただろう。我々ファンも同じ気持ちだったが、薬物違反判明後金子オーナーがその年末での引退を決断してしまった。
閑話休題。DIは、種牡馬になってからも日本のリーディングサイヤーに君臨し、しかも優秀な産駒を多く輩出した。2017年3月末に「ディープインパクトは世界の最高種牡馬としてガリレオに取って代わる」との海外記事が出たが、それ以前にも2016年2月フランスの日刊の電子版競馬紙『ジュールドギャロ(JDG)』が「ディープインパクトが欧州を征服する」の見出しで種牡馬DIの特集記事を組んでいる。その当時ですでに世界ランカーとされる『115』以上の国際レーティングを獲得する現役競走馬にDI産駒が18頭含まれていた(欧州連続リーディンクサイヤーとして君臨する大種牡馬ガリレオでさえ12頭に過ぎない)。
2011年~1018年上半期でDI産駒は日本のG1を42勝もしている。その上世界主要の競馬場でG1を勝利しさらに衆目を集める。エイシンヒカリは仏イスパーン賞と香港カップを、ジェンティルドンナとリアルスティールはドバイシーマクラッシックを、制覇した。元プロ野球選手佐々木主浩氏が馬主のヴィヴロスがドバイターフを制した。この他豪州においても、リアルインパクトが1度、トーセンスターダムが2度豪G1レースを制している。
加えて、海外で育成されたDI産駒はまだ数が極めて少ないのに、2009年にビューティーパーラーがG1仏1000ギニーに勝ち、DIの血が欧州に通用することが証明された。今般SMが仏G1をSWが英GIに2勝していることに世界は驚きDIの血の評価が高騰する。
さらに、DIの血を求める理由が欧州競馬界にある。競馬は血のスポーツと呼ばれるが、欧州では大種牡馬ノーザンダンサー(ND)の血の後継はサドラーウェルズ→ガリレオ(欧州のリーディングサイヤー)がサイヤーラインの本流で、サドラーウェルズ、ガリレオの血が飽和状態にある。NDにはダンジク→ディンヒル(豪州のリーディンサイヤー)という系統もある。ガリレオを父親とし、母親の父、祖父をディンヒルとするニックス(優秀な仔が生まれる可能性が高い組合せ)をとくにガリディンと呼ぶ。ガリディンの最高傑作が史上最強のマイラー、怪物フランケル。
ガリディンやサドラーウェルズ系以外の大種牡馬として我らのDIに白羽の矢が向けられた。先陣を切って、ガリディンを母として、我らのDIが父として誕生したのがSW。その成功を受けて、アイルランドを拠点とする、ガリレオ、SWも所有する世界的生産者クールモア(正式名称:クールモアスタッド)から、英1000ギニー(3歳牝馬限定1,609m)、英オークス(同2,400m)の2冠で2016年には年度代表馬に選出されたマインディング(牝5)、英愛1000ギニーを連覇したウィンター(牝4)ら同じガリディンの名牝3頭の繁殖牝馬がDIと交配すべく日本に送られて来ている。さらに来年は10頭の牝馬が押しかけてくるという。SWを上回る産駒が2021年以降欧州競馬を席捲していくかもしれない。
一方SMについては、愛ダービーの結果を受け、例年とは違い英ダービー出走組より仏ダービー出走組の方がレベルが高いとの見方が出てきた。その仏ダービーを勝ち切ったSMはもっと評価されてよい。SMは母親が名牝ミエスク(父は米国の大種牡馬ストームキャット)。SMは日本で成功している、父DI、母の父ストームキャットのニックス(上述のキズナ、エイシンヒカリの他桜花賞を制したアユサンなど)。サドラーウェルズ、ガリレオの血が入っていないので、日本ほど近親交配を忌避しない欧州ではあるがSWよりSMの方が選り取り見取りいろんな牝馬に種付けることができる(もっともSM自身が選べる訳てはないが)。
DIの種を求めて内外から肌馬が押し寄せ種付料が4千万円から5千万円(ガリレオは公開していないが同額らしい)以上になり世界一になる公算が高い。DIは今年で16歳。人間で言えば50歳。後4年もすれば還暦を迎える。そんな歳になり早春からの半年間で200頭以上の牝馬の相手をするのなら、羨ましいとは思えない。もっと楽させてあげたい。
そろそろ誰もが認める日本での後継種牡馬が出てきてもと思う。この数年の間に3冠馬でも出れば文句なしだが。既に産駒の中ではダービー馬キズナの仔が評判らしい。2019年からその仔らが走り出し好成績を収めれば、キズナが後継種牡馬になれるかもしれない。
浅い知識しかないド素人の私が、知ったかぶりして、DIファンの誰かに頼まれた訳でもなく、DI礼賛を書いてみた。競馬ファンの方にとっても、ゴルフのサンドウェッジみたいなSWやサドマゾと間違うSM等の略語が溢れ、読みづらかったのではと思う。
競馬に興味のない方も、DIが将棋の羽生永世七冠、世界体操6連覇の内村選手と肩を片を並べる、世界に誇る日本の宝であることを何となくでも理解賜ったならば、幸いである。