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ブスでごめんなさい

どこにでもいる女子大生のどこにでもある話


今日のバイトは二名体制で、一カ所の売り場に2人販売員がいた。


当日までどんな相手とペアなのかわからず、不安と緊張でアワアワしていた。
が、お店の入り口で会ってみると、見た目が優しそうなオバサンがいた。

安心した。話してみても少し高飛車な感じはするものの、すこぶる悪い感じでは無かった。


いけなかった。
安心した私は、それからずっとヘラヘラしていたのだ。



気分を良くしたのか鼻息ふがふが、オバサンは話し始めた。

「私、きのう六万売り上げてるの!一人でよ?」


正直、

いやいや、普通だろwwww

これが本音ではある。

それに店によって打てば響くところもあれば、そうでも無いところもある。

ある種、運でもある。


ベテランなのかと聞いてみると、そうでもないようだ。
私よりも2、3か月ほど先輩らしいが、


なんとなく、
ああ、この人は駄目だと気づいてしまった。


初対面の相手との間で主導権を握ろうと必死すぎるのが見え過ぎてしまっている。

本当に主導権を握る人間は、そんなことはしない。
というよりも、そこが巧みで誰も気がつかないから、主導権を握れるのかもしれないが。


この人は、能力を過信しすぎていた。




そして案の定、売り場には人通りの少ない左側と、多い右側があった。
3対7くらいの割合で通るらしい。


やはり私は人通りの少ない通路を任された。


はじまってすぐ、
人通りは少ないものの、私の売り場はにぎわっていた。

飛ぶように売れるとは正にこのことなんだなあと思いつつ、横目でチラ見してみると、やはりあの人の周りには誰もいなかった。
人は通るのだが、誰も試食を受け取らない。


それはそうだ。
何せあの人はなにもできていない。
獣の餌のような汚い試食に、不愉快極まりない作り声、ファーストトークも最悪だ。
お客を馬鹿にしているのが見え見えであった。


まあそれで六万売れたなら、相当な運の持ち主であることは確かだ。


しかし、彼女はすごかった。

私が少し目を離した隙に、サッと自分の作った試食と私の作った試食を何食わぬ顔で取り替えたのだ。

驚いた。
驚きすぎて何も言えなかった。


自分で言うのもなんだが、私の作る試食は人目を惹くのだ。美しいのだ。

実際、彼女の試食を断ったお客さんでも私の試食には足を止め、食べてくれるのだ。



それを獣の餌と取り替えられ、ただ呆然とするしか無かった。



それから私は一時間ほどふてくされていた。

というより、考えていた。


他人の武器で戦うことには恥はないのか?

20以上年下の小娘が知恵を絞り、作り出した武器を自身の粗末な武器とスッと取り替える姿は恐ろしすぎるものであった。
太宰治の親友交歓を彷彿させた。
そうだ、あの時太宰が見つけようとした相手の良いところを、私も探してみた。



しばらく考えなくても、彼女から学ぶべきものは、要領の良さだけのような気がした。



そしてやはり、私には独りが似合っている。




電車で、左手に指輪をはめた男性がカーネーションの花束を抱えながら座り、ニヤニヤそわそわとしていた。
時々花束を撫でたり、眺めたりしていた。


誰に向けるためでも無いニヤケ顔もとい笑顔は、こちらまでつられてしまう感染力があったように思う。

最近疲れ気味だったが、久しぶりに緩やかな気分にさせてもらった。



だがしかし。
一つ目の駅に着いた時、電車が止まった。

動かない。
一向に動く気配すらない。


しばらくするとアナウンスが入った。
なにやら前の電車で人身事故が起こったらしい。


向かいの男性の先ほどまでのニヤけ顔はこわばり、綺麗な紙袋の端を指でつまんでいた。


荷物の量も相当なもので、歩くことは難しそうだ。


携帯を取り出し、少し悩みながらも耳にあてた。


「今、手前の駅で電車が止まっちゃってさ。そうそう。人身らしい。帰るまで時間かかりそうだから、先に食べてて。いいよいいよ、俺の事は気にしないでさ。あ、もしあれだったら寝ちゃって。うん。じゃ。」


一気に明るい声で話し終わると、しばらくディスプレイを眺めていた。

紙袋の中からガラスの箱のようなものを取り出しあけた。中のものを指先で摘んで取り出す。

よく見ると、それは透明なケースに入ったネックレスだったらしい。


そうか、きょうは母の日だ。


私の最寄り駅は歩いても15分程で着く場所だったが、電車が動くまで待つことにした。

電車が動くまで、なにかあるかもしれない。




終電を逃し、友人と近くの飲食店で暇をつぶすことになった際の事である。


彼女とは他愛もない堂々巡りの会話を長い時間続けていた。
楽しいともつまらないともないが、暗黙の了解、義務であった。


義務はいつかお互いが幼い頃の話になり、順々というよりも彼女が一方的に話し出した。


「うちは…」


少し興奮気味に幼少期の話をしはじめた。

明るい話はひとつもなく、聞いていると気が重くなっていくのがわかったが、逆に彼女は話せば話すほどに揚々としていく。

いつから不幸自慢大会になったのだろうか。
遠くなっていく気を引き止めるように、頷いてみたり、彼女が欲しているであろう言葉を返したりしていた。


しかしこれがいけなかったのかもしれない。


「うち、万引きしたことあるの」


しばらく経たないうちに、彼女は爆弾発言を放り込んできた。

私の気がどこかに逝きそうなのがわかったのか。

いやいや、そんなはずはない。