東陲ネンゴロ庵 存じ寄りのネコより | 東陲ネンゴロ庵

東陲ネンゴロ庵

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東陲ネンゴロ庵 存じ寄りのネコより

 我が輩は、ネンゴロ庵に住み着いている猫である。ご存じであろうか。今日は、ブログ開設にあたり、挨拶をせよということであるので、恥ずかしながら出てまいった。特別にでござる。何が特別かというと、説明は全くありませぬ。我が輩は、ネコでござるが、お分かりでありましょうや。名前を問われれば、ありましたというより他になく、もう忘れてしまいもうした。確かにあったのでござるが、長いこと生きてござれば、記憶の他でござる。

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さて、何か話をせよということなので、もう随分昔でござるが70年ほど前のことでもお話ししようか。我が輩は寒いのが苦手じゃ。その時期は、南の暖かいところにいっておる。

 その年は、徳之島というところにおった。船に紛れ込んで行ったのじゃ。船乗りたちからは、ネズミを捕るので重宝がられておった。全部駆逐してしまうと、今度は我が輩がお払い箱になってしまうので、とどめは刺さず逃がしておった。こうすると、我が輩は安泰なのじゃ。昔の有名な本にも、「狡菟(こうと)死して、走(そう)狗(く)烹(に)らる。」とあるからのう。何!、何のことか分からんとな。面倒でごわすな。これは、戦国策に載っておったかのう。間違っておったらお許しを。つまり、畑を荒らす狡(ずる)い菟をすばしこい犬が全部退治してしまうと、もう犬の役目は残っていない。そうすると、犬を食する風習のあるところでは、煮て食べられてしまうという事じゃ。こうならないためには、役目を新しく見つけるか、役目がなくならないようにするかどちらかの方法を取るとよいのじゃ。我が輩の場合は、後者じゃ。期間が限定されるような場合にお勧めするぞ。
 
 話が脱線してしまった。元に戻すぞ。我が輩が無理矢理に乗り込んでおった船は、徳之島の亀津という港に着いた。ここで船から下りることにした。それは、すでにもう充分暖かいところであったからじゃ。それに、目ざとい船員が、我が輩のたくらみ(ネズミの延命を図っている。)に気がついたからじゃ。船だけに、ここらが潮時と思い、未知の島であったが同行しておった親戚のネコ、セルと思い切って飛び降りたのじゃった。セルは、のんびりした性格じゃから、我が輩は後ろからドンと押してやったわ。後ろで船頭が何か叫んでおったが、後も見ずに港特有の狭い路地に走り込んだわ。

 地元のネコたちに挨拶をして、土地の事情などを聞いた我が輩たちは島の南部へと向かった。それは、なだらかに下った斜面で日当たりもよく、海を見下ろすいい景色のところじゃと聞いたからのう。土地の人も長生きの人が多いそうじゃ。後に世界で一番長生きという人もあったと聞くぞ。それから、ネンゴロ庵の庵主である後聞(こうぶん)殿から聞いた話であるが、温暖な気候を利用して、コーヒーの栽培もしておるそうな。後聞殿は賞味されたよし。ネコに小判ではないが、ネコにコーヒーで我が輩には、その妙味は解せぬ。島に来る前に、枕崎というところでよい匂いを味わった。これが、ネコにかつお節でござる。

 またまた話がそれてしまった。もう少しがんばるでござる。我が輩達は、鹿浦という所まで歩いて参った。いい天気でござった。小高いところに小さなお社のようなものが見えた。日向ぼっこをしようと連れだって上っていった。すぐ下に学校らしき建物と広場が見えた。そこに子ども達が並んでおって、こちらに頭を下げておったわ。我が輩達に敬礼しているのかと思ったが、それではあまりのことであろう。我が輩達は今ついたばかりである。我が輩は振り返ってみて合点がいった。このお宮に敬意を表しているのじゃ。子ども達の様子を眺めながら、我が輩達は暖かい日差しにまどろんでおった。いい気持ちじゃった。

 どれくらい寝ておったかのう。我が輩の耳がピクッと立ち上がった。遠くから響いてくる音を感知したのであった。ゴロニャンと起き上がると、上空にキラキラ光る機体と翼に星のマークが見えた。我が輩は、まだ寝ているセルを蹴飛ばして起こすと、木立の中に一目散に逃げ込んだ。セルを引っ張ってくればよかったのだが、ネコ背に腹は代えられない。セルもようやく逃げてきた。我が輩達が寝転んでいたあたりは、機銃掃射の嵐であった。我が輩は、恐ろしくてそこには二度と行けなかった。我が輩達は、近くにあったくずれ残れる民屋に、セルと共にお互いの無事を喜び脚力を讃え合った。後年、そこを訪れた後聞殿によると、奉安殿と呼ばれるそのお社は今も弾丸の痕と共に残っているそうである。

今も残る徳之島伊仙町鹿浦奉安殿

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どこの小学校にも戦前こうした奉安殿があったそうである。ここで言う戦前とは、1945年(昭和20年)以前を指す。もう今はほとんど残っていない。何のための施設であったかについて、我が輩はもう書き記す元気は残っていない。続きは、後聞殿にお願いする。随分たくさん書いてしまった。ネコの手にはキーボードはちょっと手間がかかる。ネコ語での音声入力をどなたか開発してもらえんじゃろうかのう。きっとノーベル賞ものじゃぞ。それではこれで、お暇仕る。また、何れ。