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ここのキャンプ場名物のひとつともいえる、自慢のバリスタ相葉ちゃんからうまいアイスコーヒーを届けてもらい、翔くんにはタープの日陰で休んでもらって。
少しでも快適に過ごせるように、翔くんをおもてなしするべく、せっせと作業をすすめていた。
オイラのキャンプの腕前にホレなおしてくれっかなぁ……
と、言ったって今更だが、それでも少しでもイイトコを見せたくて、翔くんにも作業を手伝ってもらいつつ、火を起こすのはちょっと危ないところもあるから、離れてもらってた。
あの真っ白な肌に火傷なんかありえねぇ。
あの肌に触れていいのはオイラだけだ、ククク……
このキャンプでついに……
なんて、絶対に翔くんには言えないようなアタマん中で浮かれた妄想をしながらせっせと火を起こしをしていた、
の、だが。
......しまった。
相葉ちゃんと翔くんの相性の良さを見誤っていた。
二人とも基本的に真面目で礼儀正しい、けど、お互い友達認定したら、近づくのはもう一気で。相葉ちゃんは持ち前の明るさとミラクルで翔くんを爆笑させてる。翔くんは、ときにひっくり返るのではないかと心配になるくらい身体をのけぞらせて笑っている。
彼の楽しそうな声が聞こえてオイラは嬉しい。
嬉しい。
嬉しいよ。
めちゃくちゃ嬉しいんだよ。
だけど。
くっそ。
翔くんはオイラの前では見せない無邪気な顔して、ちょっとラフな言葉づかいで、相葉ちゃんとじゃれ合ってる。
いつの間にか肩を組んだり、耳打ちしたり。
おいおい、ちょっと距離感、おかしくね?
......気に入らねぇな。
2人を見ていたら翔くんの肩越しに相葉ちゃんと目があう。顔をこれでもかってくらい歪ませた、本人いわく、ウインク、をして、それを見た翔くんが楽し気に笑ってる。『しょーちゃんうまい!』とかなんとか言って相葉ちゃんも笑ってるってことは、こっちから顔が見えない翔くんもウインクを披露したのだろうか。
んだよ、オイラもみたことねーのに。
あー、やべぇ。
開放的になれるこんな気持ちいシチュエーションで、腹ン中にこんなやっかいな感情を溜め込むなんて最悪だ。
友達同士、あれくらいの距離感なんてザラだ。
そうそう。
友達。そうだよ!
ほらだって、相葉ちゃんだってコイビトいるし!
考えてみれば、相葉ちゃんのコイビトだって、めちゃくちゃオイラに絡んでいつも相葉ちゃんに怒られてるな、そういえば。
あいつはアイツで可愛いからついつい構っちまうし、ちょっかい出されても許してっけど......そっか、あれ、ダメだな。
相葉ちゃんに悪ィことしてたな。
......こんな気持ちだったんか。
ひとり反省会を終え、深呼吸。
緑と土の香りを胸いっぱいに吸い込み、気持ちを落ち着ける。
饐えたような独特な土の香りを味わいたくて二度、三度と呼吸を繰り返す。すっかり緑になった桜の葉から甘い香りを放っていて、思わず笑みがこぼれた。
「よし、リセット、リセット」
タープへ向かえば、ちょうど相葉ちゃんが受付小屋へ向かって戻る後ろ姿が見えた。
「翔くん、相葉ちゃんなんだって?」
「あとでビアサーバー持ってきてくれるって!」
翔くんの弾む声をきいて、落ち着いたと思っていた気持ちが、またざわめく。
「ふーん、そっか」
思わず不機嫌そうな声音が漏れてしまう。
そんなオイラの音色を察した翔くんがでかい目を上目遣いにして言う。
「どうした?なんかあった?あ、オレまじでなんもしてなくてごめんね?」
「うんにゃ、そんなのはオイラがやりたくてやってることだから問題ねぇ」
リセット……できてねーや。
翔くんにいらん気遣いをさせちまった、くそ。
せめて笑顔でいよう。
それに安心してくれたのか、翔くんがまた楽しげに続ける。
「うん、ありがと。あとでビールたくさん飲もう!」
「おう、そうだな」
遠くで相葉ちゃんがこちらに手を振っている。翔くんを笑わせたいのか、ずいぶんとサービスがいいじゃねーか。ふだんはこんなに来場者に構うこともなく、人見知りな相葉ちゃんなのに。
「見てよ智くん、相葉くんウケるんだけど!」
楽しそうな翔くんを前に、複雑な想いが心を占める。
「みんなで外で飲むなんてたのしみだなぁ」
…ダメだ。
我慢できねぇ。
いま我慢して、今日をつまらない日にしたくない。
「......翔くん、ちょっと」
「え?」
強引なのは承知で、翔くんをぐっと引き寄せ、森の中へ引き込んだ。
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