こんにちは

ぼく、栞吏ちゃん




今朝は

いつもより早くに目が覚める




隣を見ると

おーねいちゃんもおーにいちゃんも

まだ眠っている





起きたからといって

何かするわけではない



寝そべったまま









それにしても


おーねいちゃんの寝相

めちゃめちゃ悪いよな





なんて思っていると





「栞吏ちゃんもう起きてるん?

早いねー良いこちゃんですねー」




口先だけは愛想は良いが

目はほとんど閉じている






返事はもらえないかもしれない


そう思いつつ

最近気になっている事を

尋ねてみる



ぼくの血は赤い色?










「あかーいろー」





夢と現実とを

フラフラと行き来しているのだろう




レスポンスは遅いが



辛うじて返事はある






ほんでも

おーねいちゃんは緑色なのじゃろう?




続けた質問に




「おーにいちゃんが意地悪で

言うてるだけで

私も赤なんやけど!」



今度は返事の早いこと





すっかり目の覚めた様子の

おーねいちゃん





どうしてぼくの血の色を知っているのか

更に尋ねると


「栞吏ちゃんの採血は

何度も見ているじゃないの」






そうじゃった


3ヶ月に一度の定期検診




毎回

採血をしている




おしり側は看護師さん


おーねいちゃんは

顔を包み込むように両手で支えながら

顎の下をこちょこちょ


「良いこねー直ぐに終わるよー」





今まで

たったの一度だって

噛み付いたことなんてないのに





お医者さんは手際良く前脚から採り終えると

ぼくの顔を覗き込む



「大人しいねぇ」





文句ひとつ言わない上に

顔まで可愛いこちゃん!
 



そう感心しているに違いない









何度も採血を受けているのに


「逆に何で知らないの?」


と不思議そうなおーねいちゃん






ぼくは病院が怖くてたまらない


ましてや

注射針の刺さる前脚なんて

どうして見られるだろう




おーねいちゃんは察しが良くない




こういう時は

返事なんてしないの










二度寝を決め込むぼくを見て

やっとこ

おーねいちゃんは気付いたようだ




「私も注射は大苦手で

ニ年生まで泣いていたのよ」






ぼくは


泣きはしないじゃない




つい、返事をしてしまう









おーねいちゃんは

ふふふと笑うと

ぼくの背中に手を当てる




流れに逆らって擦るものだから

毛が逆立っている


「ティラノやねぇ」





逆立てたり整えたり

ぼくの体をこねくり擦りながら

注射の思い出話は始まる






物心ついた頃から

注射が大の苦手だった

おーねいちゃん




“痛い”から怖いのではない




体に針を刺し入れるという事が

妙ちくりんで

恐ろしくて仕方がなかった






転んだりして怪我をする事も

妙ちくりんな事のひとつだった




傷口があるという事が怖くて


「テープテープ」

とよく泣いていたらしい




ほとんど傷はない時でも

絆創膏を貼ってもらうと

ピタリと涙は止まる



不思議と痛みも和らぐのだ








おーねいちゃんが幼い頃は



注射をするのだと

分かった瞬間から泣くものだから



「お使いに行くよ」



嘘を言って

連れて行く





診察室に呼ばれる間際まで

いかにして気付かせないようにするか

親は苦労したようだ








小学校に上がると

一年生の時に

ツベルクリン反応検査 



それに伴う

ハンコ注射と呼ばれているBCG接種があった






月の行事予定表を先生から配られ

日程を知った時から

憂鬱な日々は始まる





注射は怖い

けれど

学校で泣く事は恥ずかしい





友人に

「怖い」

なんて相談出来るタイプでもなかった





ただただ重苦しい気持ちで過ごす





体育館へ移動する直前

注射は嫌いと漏らしたクラスメイトに

「一瞬で終わるわよ」なんて励ました記憶がある









けれど



おーねいちゃんは

やはり泣かずにはいられなかった




他に泣いている子を見た記憶はなく

ひとりだけだったかもしれない







つい先程

励まされたばかりのクラスメイトも

驚いたに違い無い










「何で苦手な人に限って

BCGまでセットなのじゃろうね」



ぼくのしましま模様を指でなぞりながら

おーねいちゃんの話は続く





ツベルクリン注射の痕に赤みが出てきて

それが規定のサイズまで大きくならないと

所謂、陰性
 



陰性の人のみ

ハンコ注射を打つ必要があるのだとか







おーねいちゃんは悉く

陰性だった









ニ年生の時にも

学校での注射はあった




「ツベルクリンじゃったと思うのやけれど

そんなに何回もしたのじゃろうか?」




いい加減な記憶でも

忘れられない事はある





翌日のことに


担任の先生から

綺麗な字で綴られた

原稿用紙を受け取る




“ニ年生になって

お姉さんになったのだから

これからは泣かないようにしましょうね”





先生からの手紙は

居た堪れない気持ちになった












針が皮膚を破るってどういう事なのだろう



腕を爪で強く強くつまみ

痛さには耐えられる事を確認する





でも

やはり針を刺すという事は怖い






アニメで見たコロ助みたく

長袖の中に大根を仕込んで








確かコロ助は

見付かってしまっていたよね








注射を受ける機会がないままに

迎えた中学一年生の春



やはり待っていた

ツベルクリン反応検査




ところが




微熱でも出たのじゃろうか






理由は思い出せないけれど

学校での集団接種は出来ず




後日

隣の中学校での集団接種に

参加するよう指示を受ける






中学生なのに

他校なのに

泣く訳にはいかない!

 




母の運転する車の助手席で


“同い年の人たちが耐えられているのだから

自分だけ耐えられない事はない”


不安に震えながらも

一生懸命に自分を励ました




そして




伸ばした腕から

180度顔を背け





“何でもない”ふりをして

終わらせたのだ








ところで


大学生の頃




通学に使う乗換駅で

献血ルームの呼び掛けを良く目にする




掲げられるボードには

血液型毎に


“あと何人”


必要数が書かれている





B型は毎回足りている方だった


それでも

まだ必要数には達していない





善良な気持ちというよりも

好奇心だった








問診票

体重測定

医師の問診


他には何かするんだっけ





最初の頃は200mlの全血献血



回数を重ねると

インターバルが短くて済む

成分献血を勧められる






成分献血は全血献血に比べ

時間は掛かる



ベッドに横になり

DVDを観るだけ



ぼーとしていても良いし

寝ていても良い




何も苦ではない

寧ろ快適に過ごせるような気配りを感じる





けれども

この日は何かが違う





突然

血の気が引くのを感じる



鏡は見ていないけれど

顔が青白くなっていく様な


「サーっとなるのよ」









おーねいちゃんは

巡回する看護師さんに声を掛ける




血圧を測り終えると

装置の方を確認してから

「ここまでやれたから、もう少し頑張ろうか」






血圧は問題ない

あと少しで終わる



中途半端な所で止めるなんて

きっと迷惑だ





けれども

目からちょぼちょぼと溢れる

不安の涙







早く終わって欲しい





必死であまり覚えていない





それでも

DVDのドラえもんは

おーねいちゃんよりも

遥かに青かった事は確かだ







ドラえもんより青くなきゃ

大丈夫やんな







学校を卒業し

滅多に利用しなくなった駅





自然と献血にも行かなくなってしまった









32才になったばかりの冬


おーねいちゃんは

手術を受けている






良性腫瘍と悪性腫瘍の

中間に位置付けられる病変と言うらしい







病気は治癒したのだが

再発と転移を確認する為

定期検診は続いている








献血には

“ご遠慮いただく場合”

が定められている




 
その中の

特定の病気に指定されている悪性腫瘍



治癒後5年経過していないと

献血は出来ないようだ






おーねいちゃんの病気については

明記されていない




詳しく調べたら

分かる事かもしれないけれど





「貰い受ける人も

元気な血の方がええじゃろう」








悪性腫瘍に準ずる扱いだとして

手術から5年経過していないという事もある




この間に精神科の薬を飲んでいた時期もある





仮に献血は出来ると分かっても

かしこまってしまう






おーねいちゃんは元気だ


それでも


もっともっと達者な方からお先にどうぞ
  




もしも足りない時にはお手伝いしましょう





そんな心持ちなのだ










ところで



「栞吏ちゃんの気が散って

上手に出来なくなったら困るわね」



なんて言いながら

こそこそ隠し撮りをする

おーねいちゃん




だけれど




この写真も

ひとつ前の写真も




お目めはバチクソに合っている










思い出して

尻尾でバシバシと抗議するぼくに



「すんまへん、すんまへん」








ゴールデンウィークに

大阪を楽しんだおーねいちゃん




下手くそな関西弁で

嬉しそうに詫びてくる






店員さんが

「おおきに」って言ってくれるのは

想像つくけれど




「すんまへん」も

店員さんに言われたのじゃろうか


トラブルでもあったのじゃろうか










「それがね

居酒屋さんのお手洗いで

おじさんがね…」







ここまで言い掛けておいて


「まだ寝られるって幸せねー」





そわそわ顔のぼくを

ニンマリ見つめると




お楽しみ話は後で




と言わんばかりに

ぼくを小脇に抱え

二度寝を始めるおーねいちゃん





むぅっとしたぼくも

いつの間にか寝てしまって







こういう日は









だいたい















揃って大寝坊なのだ



今年も藤棚と鯉のぼりを見られたね!また一緒に見ようよ栞吏ちゃん♪