こんにちは
ぼく、栞吏ちゃん
「卵うでたよ」
おーねいちゃんは
キッチンから顔を出し
得意気に言う
ぼくは卵は食べないのだけれど
偉かったねと微笑んでみせる
でも
卵を【うでる】?
【ゆでる】のではなくて?
おーねいちゃんに聞こうと思った時には
キッチンへの扉はもう閉まっている
キッチンは
ぼくにとっては危険がいっぱい
「怖い怖いじゃよ」
らしいのだ

リビングとダイニングから
扉で完全に遮断出来るキッチン
おーねいちゃんは
料理の間に間に
扉を開ける
リビングへ顔を出しては
ぼくを見つめる
話し掛ける
「どうされた!」
…
ぼくは大体いつも
どうもしてはいない
そして
この場合の
「どうされた」には
大して意味はない
おーねいちゃんにとっては
「可愛いこちゃん」
と同義語
話したいだけ
触りたいだけ
「我慢ならぬ」
そう言って
ぼくを撫でると
直ぐにキッチンに戻る
パタン
ぼくは
決して入れてはもらえないのだ

ところで
おーねいちゃんは
見ての通り猫派なのだけれど
不思議な事に
好きになるキャラクターは
うさぎさんが多い
ストーリーも
キャラクターの名前も
ほとんど詳しくないのだけれど
可愛らしい洋装より
世界観より
ただただ
動物たちの絵のタッチが好きだというのは
ピーターラビット
「服を着ていなかったら
もっと可愛い気がする」
動物の毛並み
色柄を眺める事が大好きな
おーねいちゃんらしい感想

何年も前の事
仕事終わりのおーねいちゃんが
電車で向かったのは
博物館
台風前の強風の中
来場者で賑わう
ピーターラビット展
不潔恐怖が強かったおーねいちゃんは
音声ガイドのイヤホンを着けられずに
ただただ読み進む
興味深いのは
作家
ビアトリクス・ポター
初めて見聞きする
彼女の生涯
動物と自然を愛し
得た印税で広大な自然の保護
…
展示を
思い出しながら
懐かしむ様に
「凄い人ね」
ぼくが
頷くよりも早く
「よっぽど
うでられないもの」
と首を横に振るおーねいちゃん
…?
卵?
何、を?
傾げたぼくの白い首元を
優しく撫でながら
おーねいちゃんは続ける
詰まる所
彼女は可愛がっていたペットが亡くなると
茹でて骨を取り出す
そして
骨格から理解して描く事で
リアルで可愛い動物たちの絵が出来たのだと
…
ビアトリクス・ポターの絵本には
ちょうどキジトラ柄のような
子猫がいる
いるよね?
念のため確認するぼくに
「トムも可愛いね」

おーねいちゃんは
ぼくの顔を覗き込むと
にっこり微笑み

3月に13歳になったぼく
そして
2026年6月6日は
おーねいちゃんとおーにいちゃんと
家族になってちょうど10年
「大事大事にするからね
くれぐれも長生きしないと損じゃよ」
おーねいちゃんは
昨日も
今日も
そして明日も
その先もずっと
ぼくに話し掛けている

ブログの中だけの名前【栞吏ちゃん】
ぼくの
本当の名前は
名前の由来は
次に話そうか
だって
今は
眠たいんじゃもん







