ジャズカフェの晩、お別れのハグの余韻に浸るのもつかの間、吉野氏は、全財産の520ドルの入った財布をなくしたことに気づきました。天才吉野氏は、無銭飲食を試み、トイレの窓から抜け出そうとしましたが、肉が挟まって失敗しました。入り口には、ブルースウィルスみたいな人がモンモンをむき出しにして睨みを効かせています。吉野氏は、たまに想定外の行動をして、私もよく驚かされたことがあります。コンサートで裸になってガードマンに取り押さえられたり、パレードで裸になってガードマンに取り押さえられたり、聖火式で裸になってガードマンに取り押さえられたり。そんな吉野氏が悩みに悩んで考えついた苦渋の決断とは、強行突破でした。野生のいのししと化した吉野氏は、ドア目掛けて突進しました。もちろん結果は、ブルースウィルスに羽交い締めにされて、身動きが取れない状態になりました。店長が来て、警察に通報されるところでしたが、間一髪、奇跡的にも救いの手が差しのべました。「店長待って、彼と話しがしたいわ」。毛皮のコートに、全部の指に高価な指輪をはめた、日本人らしき上品な老婆でした。「あなた日本人ね、恥ずかしいことしないでよ、いったいどーしたの?」。吉野氏は、事情を話しました。その老婆は、考える間もなく即決で、吉野氏の飲食代を肩代わりしてあげました。解放された吉野氏はその老婆に誘われてついていきました。「あなた無一文でこれからどーするの?」しばらくうつむいたままの吉野氏は、孤独と不安に耐えきれず、思わず泣いてしまいました。「いい大人が泣かないの」、彼女は少し考えた後、「いいわ、私のアパートに来なさい。ここには仕事で2ヶ月滞在するから、その間は面倒みるわ」吉野氏は、彼女の優しさに甘えることにしました。さぁ彼女は?
わ・た・し

うふっ

鯉料理屋で私たちが注文のときボケるのは、ウェイトレスが超美人だったからです。彼女のケタ外れのドS顔と、チーターのようなアグレッシヴな体つきは、私たちにとってはファラオの呪いでした。2回ボケたのに、2回とも笑ってくれず、冷たくあしらわれました。私は、マゾヒストではありませんが、冷たくされると燃えるタイプであり、吉野氏は、寛大で超ドMなので、意見は一致し、彼女を氷結の天使と呼び、口説く作戦を企てました。次来た時私は、得意のノンバーバルコミュニケーションで頬の詰め物を取った宍戸錠で攻め、吉野氏は、イタリアのサラミをプレゼントする作戦に出ます。帰り道、氷結の天使になら、いくら貢いでもいいし、だまされてもいいなぁと2人で冗談を言ってましたが、数ヶ月後、氷結の天使に私たちは、本当にだまされてしまいます。これが、私にとっては一回目の結婚詐欺になるわけです。

千石先生

「あさって、3番街のジャズカフェで私ライヴやるの。よかったら来て」もちろん吉野氏は2つ返事で約束をしました。いざという時のために持ってきた背広に袖を通し、はちきれんばかりのパッツンパッツンの背広姿に落胆しながらも、少しでも細く見せようと、ライヴまで、韓国ショップで買ったあさりのお菓子とオリーブの塩漬けだけで我慢しました。当日、開演は19時でしたが、あさりのお菓子に当たったらしく、行く途中のスシバーのトイレで、苦しんでました。40分遅れで到着し、幸い彼女の出番はまだでした。サラミを注文し、演奏を楽しみました。吉野氏はここで食べたサラミの美味しさに感動し、毎年このサラミをクリスマスカードと一緒に送ってくれます。イタリア産で、とても酸味の効いたサラミです。よかったらどうぞ。…彼女目当ての観客がほとんどでした。それも納得です、フレンドリーで、サプライズ満載のMCは、どんな人でもネバーランドへ引き込んでしまう勢いだし、なんといっても曲は、知的ぶらず、感情的になりすぎず、垢抜けた声が、マイナスイオン一杯の滝に打たれてるようだと吉野氏は言ってました。ライヴ後、吉野氏とお別れのハグをしてインドへ行ったとさ。

千石先生