神戸市の久元喜造市長はいよいよ市内人口の社会減が顕在化してくるのではないかとの危惧を発信しています。



こちらは5月5日付の「久元喜造ブログ」のリンクを貼らせていただいております。内容にも触れられております通り、現状の神戸市の人口減は出生数と死亡数を差し引きしたうえでの自然減で、社会増減に関しては大阪・首都圏への転出がみられる一方、県内および瀬戸内各地域からの転入もほぼ同数となっていて、地方中核都市としては健闘している部類と考えて良いと思います。


大阪を除く関西各府県庁所在地の実情。

関西の中心都市である大阪市は関西全域からの社会増で人口が増え続けていますが、それ以外の府県庁所在地の現状を見て行きましょう。

京都市は昨年1月の住民基本台帳ベースで外国人を含む総人口は3617人減の138万5190人、日本人に限るとなんと1万人あまりの減少となり3年連続の日本人人口減少ワースト1となっています。門川大作市長(当時)は会見でも何度も厳しさを口にしていまして、その理由として大学生の流入が他都市よりも多い一方で20〜30代の現役世代の流出が神戸市以上に深刻であることが挙げられます。合計特殊出生率ベースにも顕れていて、東山区や上京区・下京区など市内中心部では1を下回っています。京都市がことしの「こどもの日」に合わせておこなった調査では年少(0〜14歳)の人口が14万0039人と昭和22年以降で最低となったとのことで、深刻さが伝わります。


豊かな文化が育まれている反面、生活しづらい面も。

(京都市中京区・先斗町にて撮影)


滋賀・奈良・和歌山各県の県庁所在地のなかで検討しているのが滋賀県の大津市。おもにJR琵琶湖線沿線でマンション建設が増え、京都市から子育て世帯の流入が目立つことで、ことし4月時点の最新人口は34万3371人。全国で人口が減少するなかで西暦2010年代から30万人中盤をキープし続けています。

奈良市も子育て世代の流入が多く、令和4年時点での社会増が842人となり4年連続の社会増を達成、また年少の転入超過数は413人となり、関西の自治体でトップの結果になったとのことです。大阪に近く、帝塚山学園などが所在し関西きっての文教地区として知られる近鉄奈良線沿線やゆたかな環境に恵まれた近鉄けいはんな線沿線で良質な住宅が供給されていることがその勢いを支えていると考えられます。奈良市の人口も2000年代より安定して推移しており、直近(ことし4月)で34万8285人となっています。

一方でボロボロなのが和歌山市。総人口こそ35万4943人(ことし5月1日時点)で他の3都市と見劣りしないものの、令和5年1月の住民基本台帳ベースにおける高齢化率は33.3%、つまり1/3が高齢者となっていることから今後の自然減の加速が懸念されています。先月30日の市内部での会合では西暦2050年には人口が30万人を割る試算が出され、GWの合間の庁内には激震が走りました。かねてより和歌山市の都市機能は人口30万人以上を前提として維持可能としていて、それを割り込むことに加えて団塊ジュニア世代が高齢者となることで深刻な労働力不足や税収不足による社会保障の停滞など、市役所そのものが機能不全に陥る懸念も指摘されます。


神戸市発表の恐るべき試算。

神戸市に話題を戻します。

神戸市の人口動態を語るうえで、各区ごとに特色や問題点があるため、全市的な論評はしにくいのですが、総じていえるのは高齢化の加速と今後見込まれる社会減であります。ことし1月時点での市の人口は149万7802人と昨年に150万人を割ったとはいえ関西では大阪市に次ぐ人口を誇ります。しかしながら29%にまで至っている高齢化率は2047年には40%に、その結果として総人口は2063年には100万人を下回り、さらに2070年には 89万人にまで落ち込むという恐るべき推計が発表されています。


長田区の高齢化率は35.18%(20年現在)。

兵庫区・須磨区も高齢化率が高止まりしている。

(新長田1番街にて撮影)


不可抗力の人口減にどう立ち向かうか?

私は昔より「変数」と「定数」というお話を度々申し述べていて、「変えられる未来」と「変わらざる未来」の切り分けこそ議論の要諦とすべきだと考えています(マーケティング学には「変わらざる未来」を「初期的条件」と定義するものもある)。その意味では人口減少そのものはわが国全体における問題で、自治体ベースで根本的に解決できるものではないという意味で「変わらざる未来」と言わざるを得ない。さりとて放置して良い問題でもないので、その中で自治体としてできることは大きくふたつ、まずは人口減少社会における都市機能の維持であります。労働力不足に対応した機械化などの新たなテクノロジーの導入や、庁内のスリム化による住民サービスの維持などが挙げられます。

そして、とりわけ神戸市のような大都市に強く求められるのは社会増に結びつける施策を強力に推進することであります。神戸市においても20〜30歳代という現役世代の流出が目に見えて増えており、高齢化率の高止まりに対応すべく、環境に恵まれた神戸市でしっかり子育てをして頂けるような施策が必要です。市営地下鉄西神・山手線沿線の名谷駅(須磨区)と西神中央駅(西区)、神戸電鉄線沿線の鈴蘭台駅や岡場駅(いずれも北区)などでは定住人口増加を企図した駅前再開発「リノベーション・神戸」を実施していて、先行事例であった名谷・西神中央の両駅前では公共施設の再配置に加えて駅前SCの利便性強化、民間活力を導入した駅直結タワマン建設などで装いの変化がみられます。


平成10年(1998年)と現在の神戸医療産業都市。

神戸空港に面した絶好のロケーションが売り。

(出典:神戸医療産業都市推進機構)


新産業の育成・強化も急務です。長らく神戸を支えた鉄鋼・造船産業に代わり、震災後に立ち上がった「神戸医療産業都市」は360の企業・団体が進出する世界有数の医療クラスターに成長しました。大小の医療系の学会等の国際会議で市内の会場は活況を呈しており、コロナ禍前の2019年のJNTO発表のデータでは市内における国際会議開催件数は438件と東京23区の561件に次ぐ堂々の国内2位(単一自治体としては国内トップ)となっています。


県を含めた広範な議論が必要。


神戸市では市内在住、在学の高校生通学定期を無料に。

(地下鉄西神・山手線三宮駅にて撮影)



ただ、これらの施策の恩恵がまだ市民にきちんと届いていないのも事実。この現状で大阪府の高校授業料完全無償化という周辺自治体からみれば「悪夢」(久元市長)に繋がる取組がスタートするわけで、久元市長の懸念は非常に的を射たものであると思います。上掲リンクで触れた通り、神戸市では市内在住の高校生が市内の高校に通う際の通学定期の全額補助を決めていますが、それ以外にも県下の各市、そして何よりもやらなければならないのが兵庫県でありますが、オール兵庫として大阪に対抗する強力な施策の実現を強く望むところであります。


※次回の記事は5/13(月)に公開します。


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