わが国の100均業界におけるフロントランナー・大創産業(広島県東広島市)の創業者・矢野博丈さんが逝去されたことが2月19日に同社より発表されました。

大学を卒業後に尾道(広島県)で養殖業を営むものの失敗し借金を抱えて一家で夜逃げ、その後、さまざまな業種に転職しつつ昭和52年(1977年)、大創産業を設立し均一価格ビジネスに本腰を入れ始めます。平成3年(1991年)には高松(香川県)で現在の〈DAISO〉に繋がる直営1号店を出店、そこから瞬く間に国内で4360店、海外25ヵ国・地域で990店(昨年3月現在)を営むグローバル企業に育てた人物であります。



私が特に凄みを感じるのは、従前の業態でフロントランナーになったわけではなくて、「100均」たる新たなフィールドを創り出し、国内だけで1兆円近いマーケットに育て上げたことにあります。まさにわが国におけるチェーンストア業界を率いた往時の中内ダイエーなどに近似したものといえるでしょう。ただし当の中内さん率いるダイエーは「100均」とは相容れず、自社の催事場から追い出していることだけはここに記しておくことにしましょう。

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当初は雑貨のみでアイテムごとに粗利30%計算、つまり売価100円の商材を一律70円で仕入れるビジネスモデル。勿論、それでも価格破壊を支持する消費者にはウケたのだが、その一方で「安かろう悪かろう」の負のイメージもつくことに。そこで矢野さんは一気に原価を引き上げた商材も100円で売ることにします。グロスで粗利を取っていく戦術によりアイテム数を増やし、チープなイメージを打破していきます。

矢野さん含めて100均業界にとって大きな追い風になったのは90年代中盤から20年近く続くデフレと円高でした。デフレにより調達コストが下がるうえ、安いモノが消費者により評価されるようになったこと、また円高により輸入に依存する業界にとってはまさにプラス材料でしかなく、100均の成長期はここに築かれていったのです。

デフレ脱却そして円安と、昨今の100均業界は「成長期」とは逆に試練の時といえます。同社はじめ多くの100均業界は「100円均一」を脱し、「高額商品」と呼ばれる200円、300円…中には1500円の商品も陳列されています。確かに「高額商品」を忌避する消費者も少なからずいますが、それなりの商材にはそれなりのプライスでも良いと考える層も増えてきており、販売は比較的好調とのこと。加えて同社では主力の100均業態の〈DAISO〉のほか、若年女性層をターゲットにした〈THREEPPY〉(スリーピー)や、シンプルさを極めた〈Standard Products〉(スタンダード プロダクツ)といった300円均一のショップも開設し、好評を得ているのだそう。

現代の消費者は100均に何を求めているのか…そこが凄く気になっていて、地道に聞き取りつつリサーチを進めていますが、やはり多岐に亘るんですよね。引越の際のリビング・キッチン雑貨をまとめ買いする人もいれば、急な雨の日に傘を求める人も。意外なのはお悔やみごとの際のネクタイや数珠、蝋燭、香典(奠)袋。あらかじめ日時が定められている祝い事とは異なり、死ぬことなんて予定されておりませんから、駆け込みで買っていかれるということなのでしょう。その意味では、消費者に身近で、困ったときに立ち寄ればワンコイン程度のプライスでニーズに応えてくれる存在になっているのかもしれません。
一方で、大創産業だけで15万SKU数の取扱があり(大創産業コーポレートプロフィールより)、これらが集積した1000㎡超の大型店も出現しています。

目下、大きな課題としては食品の粗利率向上でしょう。事業者によって若干の差異はあるものの、雑貨においては原価率がおよそ60%、食品は75%設定といいます。そのうえ昨今の原材料高は食品調達コストを大きく引き上げていて、最近はやや治まったものの政情不安による物価の不安定には予断を許せない状況であります。業界内で業績が比較的安定しているセリア(業界第2位・岐阜県大垣市)は食品をほぼ扱わないことで利益率の高い企業を目指しています。業界第4位のワッツ(大阪市)は食品スーパー(SM)内に出店してレジをSMに集約させることで、人件費軽減と入金等の負担を軽減する手法を取りつつあります。

大創産業をめぐっては昨年末、韓国で〈DAISO〉を運営する企業が大創産業の出資分を全額取得して独立するというニュースが報じられています。韓国サイドでは、日本側は韓国側の商材を高く評価して独占取引を持ち掛けたバーターとして韓国側が独立を果たした、というような報道がなされていますが、国籍批判というよりも、韓国のジャーナリズムはきわめて自国寄りに報ずる傾向があるためすべてを鵜呑みにはできません。ただし韓国で培ったノウハウで日本に「逆」進出する可能性もあり、消費者にとっては面白くもあり、日本人としては「日の丸」を掲げた企業を応援したくもなるものであります。この「合弁解消」だけで記事一本書きたいのですが、はて、いつのことになるのか。。。

帝国データバンクの調べによると、今期は業界として初めて市場規模が1兆円を突破するとみられているほか、店舗数においてもトータルで9000店を突破し毎年300店以上の出店ペースであります。また同調査において100均における1ヶ月あたりの1人あたり購買額は665円と試算されており、100均を単に「100円のモノを買う場所」から「コスパの良いアイテムが買える場所」として認知されていることが窺えます。国内でもかつてスーパーにポップアップですら忌避された歴史が嘘のように、今や大手デベロッパーやグレード思考の抜けない百貨店までもが出店オファーを掛けつづけています。矢野さんが蒔いた種は、これからまだまだ育ってゆくことでしょう。

※次回の記事は2/26(月)に公開します。


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