「トラス・ショック」と言うのは、22年9月に英国首相に就任したリズ・トラス首相の経済政策が引き起こした金融市場の混乱を指し、英国債やポンド、株価が大暴落し、まさに「英国売り」となったものでした。
①「物価高」にもかかわらず、「財源の裏付けがない」、つまり「国債増発」に頼る「大規模な減税やエネルギー料金凍結による物価高騰対策」を打ち出したこと、
② またそれが英国の中央銀行(イングランド銀行)が「利上げ」で景気を冷まそうとする動きとチグハグであったこと、
③ それに巨額な国債発行を極めて短期間で行おうとしたことなど、
「英国財政への市場の不信感」、「無理筋の発行計画」、さらには「年金基金の運用の混乱」(金利急騰=国債価格下落に伴う追証の発生をカバーするための国債売り)などが重なり、このような事態が生じたと一般に説明されています。
これを見た日本のマスコミは、これは高市政権がやろうとしていること(減税・投資などの財政拡大)と、経済の状況や中央銀行の方針も含めそっくりじゃないか!
このままでは、日本も英国の二の舞になる!
市場もそう受け止め、債券安(金利上昇)、円安、株安の「日本売り」が生じているんだ!
と騒ぎ立てているのです。
確かに日本も物価高です。トラス首相がその「物価高対策」としたのが「大規模減税」や「エネルギー料金凍結」であったことも、高市首相と基本的には同じです。そして日本も結局は「国債増発」に頼ることになるでしょう。
このように一見すると英国の二の舞になるというのがもっともらしく聞こえてくるのです。
しかし、前回ご紹介した海外格付け機関や世界最大級の債券運用会社は、日本の政策をしてトラスショックと重ねて語ることはありませんでした。
彼らは理解しているのです。
「英国の当時のインフレは、パンデミック対策として実施した財政拡大政策(直接的な家計支援は日本の3~4倍)がもたらした「繰越需要」の爆発とウクライナ戦争(22年2月~)を起因としたエネルギー価格の高騰がもたらしたもので、人手不足(人件費増)や円安が主要因である現在の日本の物価高とは異なるものだ。
つまり英国ではディマンドプル(需要牽引型)とコストプッシュ(供給不足・制約型)の物価高が同居し、しかもその水準は10%を超える歴史的な水準だった。
これに対し、日本は未だコストプッシュが主要因であり、需要そのものは弱いままだ。インフレ率も3%程度に留まり、これも次第に落ち着くとされている。
よって日本での減税(物価高対策)は、その規模からしても過度な需要を引き出すものではない」
ということを。
また、先のインタビュー記事にもあったように、高市首相は、市場とのコミュニケーションも慎重に行っています。
実はトラスショックが生じた大きな原因のひとつに「市場への配慮不足」があったのです。
政策実現を急ぐあまり、市場規模からして過度な国債発行計画が組まれました。それに、不幸にも年金基金による想定外の国債売却が上乗せされ、あまりの国債の洪水に市場が慄いたのです。
この点、トラス首相と違い高市首相は、格付け会社が評価するほど市場への配慮を怠っていないということです。(昨今の「円安ほくほく発言」報道は、高市下げを狙った悪質な「切り取り」報道であり、発言全体は首相という立場を弁えたものでした)
また経済の基礎的な状況も当時の英国と日本ではかなり異なります。
繰り返しになりますが、当時の英国経済は、日本と違い、パンデミック経過後に爆発した「強い内需」による「需要超過状態(デマンドプルインフレ)」にもありました。
そして英国は、「経常赤字」、「対外純債務」の国である一方、日本は真逆の「経常黒字」、世界最大の「対外純資産」国なのです。
強烈な需要超過時に需要を上乗せ、インフレを加速させるだけではなく、基軸通貨国でもない対外純債務・経常赤字国が財政を大きく膨張させ、財政リスク重ねようとするのですから市場が心配したのも頷けます。
もっとも、英国国債は、日本と同様ほとんどが自国通貨建て(ポンド建て)なので、財政が債務不履行を起こす心配はなく、その意味で財政リスクを過度に心配する必要はないのですが、残念ながら市場は未だそうした理解に至っていないのです。市場参加者の大半が主流派の経済学に毒されている所為です。そのことは念頭に置くべきでした。
中央銀行の方針も異なります。イングランド銀行は純粋にインフレ対策として金利引き上げを行っていたのに対し、日本銀行はマイナス金利にまで至った過度な金融緩和政策を修正しようとしているということです。
3%辺りにある現在のインフレ率も次第に日銀の目標である2%に近づくとみており、10%超の歴史的なインフレ率に晒されたイングランド銀行とは全く状況が違うのです。
足元の円安や株安についても触れておきます。
足元の円安の原因は、「積極財政政策によるインフレ率の高止まり見通し」(物価高は貨幣価値を引き下げるという意味で円安要因)や、「日銀、FRBの政策金利変更に対する慎重姿勢」から「日米金利差が縮小しにくい」と見る向きなどが主体でしょう。
言われるような「財政悪化懸念」もあるでしょうが、主要因とは思われません。
株安は、これまで市場を爆騰させてきた「高市トレード」の反動、一服感が主要因でしょうし、米株式市場のもたつきもあるでしょう。
長々と語ってきましたが、結論としては、高市政権の政策は、「日本売り」(円安、株安、債券安)を招いておらず、また英国のトラスショックの二の舞にはならないということです。
よってそれらと結びつけて語るのは出まかせによる「高市下げ」ということになるのです。
皆様方に於かれましては、よくよくこうした下種な「高市下げ」報道には騙されないよう、高市首相を正当に評価した上で、今回の衆院選投票に臨んでいただければと念じております。